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倒錯。

上京をした彼は、私の双子の妹と不倫をしていた。


「本当に、偶然だったんだ」

嘘に言い訳を重ねる彼の舌が、妹の唾液で濡れていると思うと、虫唾以上に悪寒が走った。妹は私にとって血のつながり以上の、大切な存在だった。そてを犯すでも汚すでもなく、ただ慈しんだのだと思うと、胸は出来損ないのチーズみたいにぐしゃぐしゃになった。

「……それで、連絡は?」

「ごめん、もうつかない」

私は彼以上に妹が大事であったことが、この極端な状況で明らかになった。いわば、私と彼は今不戦協定を契り、妹を見つけだす目的で一致している。許すとか叱るとかではなく、ただ顔を合わせたかった。

「見当は?」

「……僕との思い出の場所には、いない気がする」

じゃあ、私との思い出の場所は? 言葉を飲んで、ありとあらゆる可能性に考えを巡らせる。双子なのに、そういうシナジーは働かない。

「本当に、見当もつかないの?」

「……悪いとは思っているよ。でも、僕も本当に彼女を見つけたいんだ」

あなたは私も妹も愛していなかったのね。ふと、そう分かった。

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