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禁足毒。

君が魔女になってしまっていないか、僕はそれだけを心配している。


初めてだった。僕は弱音を堰き止める防波堤を徹底して設えてきた。しかし、その瞬間僅かなひび間から、弱音は滲みだしてしまった。

「……正直言って……etc」

正直言って、なんて言葉をよもやその意味通りに使う日が来るなんてゆめゆめ思わなかった。


僕はあの一夜以外、対外的には平穏に生きている。僕はずっと、そうして生きてきた。膿を他人には見せず、独りの時に出し切っていた。対外的には達観しているように見せ、独りの時には徹底して苦しんだ。(例えば、一晩にワインを三本飲んだ。でも、それは儀式に必要な量だった)その戒律は厳格で、僕はそれを敬虔に遵守していた。だから、あの一夜は例外とも言えないくらいに奇蹟的な確率を潜り抜けて起きてしまった。

思想は醸造される。僕が醸造した鬱憤は、嗜好を通り越して毒になっている。うんと強い毒。死に到らしめるくらいに強力で陰湿な毒だ。それは決して世界に放ってはいけない毒だった。僕の中で完結しなくてはらないものだった。

でも、僕は君にその毒の一滴を、珠のような体躯に垂らしてしまった。なんとか一滴に押し止めてけれど、君は確かにそれを浴びてしまった。呪いを見に集めた魔女になるに、それは充分な量である気がしてならない。


魔女になった君に、僕は何を差し出せるだろう?


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