撞球場の夢。
ビリヤード場にいる。悲しい気分になる。明晰夢の只中にいたとしても、君と会うのは苦しい。君は必ずビリヤード場にいる。夢は黄泉と現世を区別してくれない。君は見境なく僕に会いに来る。
「……まずは、ナインボールから」
君はいとも容易くブレイクランアウトを決める。
「悪いね。今日は調子がいいみたいだ」
君は得意気にラシャを撫でる。その手つきは高校生の頃から妖艶だった。君のひねりには色気があったし、コールショットはいつも正確だった。勝率に大差がある訳ではなかったけれども、ビリヤードに愛されているのは確かに君だった。
「また懲りずにうちに行こうよ」
彼は三連勝をすると、いつもこう言った。
「死ぬまで、そうやって生きていこう」
彼は最期にいつもその言葉を残して消える。僕はビリヤード場に取り残される。しかし、死んでしまったのは僕の方なのだ。選べる訳がない。僕は彼が見るビリヤード場の夢にだけ存在する幽霊だ。僕はまた彼が思い出してくれる夜まで、一人で的球の角度を調整し続けている。
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