都市のキリン。
「あれは、キリンよ」
徹頭徹尾、キリンだ。キリン以外の可能性を探る方が難しい。道路の、真ん中に、堂々と、キリンが立っている。
「止まらないの?」
熊の胆みたいに、キリンのどこかに用途があるわけでもない。目的の乱獲ができるほど、社会に余裕もない。
「減速、しないの?」
キリンは悠然としていて、時速六十キロですれ違う車に動じる素振りを見せない。見定めているのだ。自分が蹴り上げるべき相手を、見定めているのだ。
「ねえ、写真くらい撮らせてよ」
すれ違う瞬間に、眼を瞑る。キリンは僕を選ばなかった。安堵の溜息が漏れる。僕はうっかり、天を仰いだ。ドンッ。
「ねえ、止まってよ」
あの感触は、キリンが見せた錯覚に過ぎないのだ。そうに違いないのだ。
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