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クオリア。

僕の意識は誰もいない教室に移る。モノクロで、音もない。教室は僕の記憶にある教室ではなくて、僕の意識はずっと年を取っている。何から何までが混濁している。僕の手首にはリスカットの跡があるし、左脚には平静を装うのが難しい鈍痛が走っている。感覚だけは妙に敏くて、手首の跡は常に疼き、痛みは全身を侵食しようとする。

教室。僕は記憶に耽り、痛みを忘れようとする。刹那、意識は記憶に移る。教室で摩耗した二千日以上の日々がストロボのように目くるめく。僕は発狂をする。しかし、声は響かない。音のない世界。色のない世界。僕の意識の在処はそこに結び付いていて、光景は錯覚に過ぎない。教室。知らない教室に、知らない肉体で僕の意識は結び付いている。

時間は流れているのだろうか? 僕は時計を探す。見つからない。窓の外には何があるんだろうか? 僕は痛みを堪えて窓の傍へ移動する。窓の外には何もない。それは窓を象ったものオブジェに過ぎない。この教室と一緒だ。この教室はただのクオリアにしか過ぎない。意識はその中にある。その中にだけ、存在している。


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