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波打ち際の落書き。

五年ぶりに来た彼からの連絡は、同窓会の誘いだった。名前を見ただけでどこか面映ゆくなるような友人の輪に、私がまだ含まれていることが嬉しかった。それと同時に、五年間の空白が過去をも消し去ってしまったのではないかと思えた。彼と私の交際が、まるで波打ち際の落書きのように、過去から消えているような気がしてならなかった。


彼の家を飛び出して、私は人知れず泣いたことを覚えている。彼は裸になっても堅牢な壁を整備したままで、門番を置いてもくれなかった。私を本当に卑下しているから、彼は害のない言葉ばかりを吐いているのだと思った。彼と交際した期間に荒波は立たなかったけれど、私はその凪が不気味で嫌だった。分かれてすぐに、コロナが始まって、気付いたら大学を卒業していた。社会人になって、彼から連絡が来た。


「別にいちいち報告しなくていいよ」

私は束縛が欲しかったのかもしれない。

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