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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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2023年11月の記事一覧

宿酔。

宿酔が身体を支配している 一本の枝木のように 魂を強奪せんとする掌のように 内臓で蠕動する…

灰皿109。

普通に生きても肺は黒ずむらしい。普通ってのは、煙草を吸うのは別に異常じゃないさ、っていう…

初嘘。

僕は今朝の夢で嘘をついた。今朝というのは、嘘をついた直後に目が覚めて、外が仄明るかったか…

水煙草の魔女。

君は荒地の魔女みたいに水煙草を膨らませた。君が吐くパンラズナが香る煙は、僕に沢山の思い出…

逃象。

眠れない夜は象を数える。諳んじるとなおいい。 「ぞうがいっぴき」 象は偉大だ。エルガーは…

噛む。

彼女は僕の薬指を齧るのが好きだった。 「痛いよ」 大人の咬合力は強いから、甘噛みでも電気…

シガリロ。

彼は頑なにシガリロしか吸わなかった。 「これは、一つの矜恃だね」 彼は僕にあらゆることを教えてくれた。それは、模倣ではなく踏襲だった。つまり、ある一つの矜恃を持つことが人生には必要だと。彼にとって、それに当たるのがシガリロだった。 「折角なら、シガーにしますか?」 シガーバーでも、彼は人間味を残した菩薩のように不敵な笑みを浮かべた。 「いいや、これがあるからね」 Villigerのケースを小突く音は、僕にスウィングを連想させた。想起ってものは、時々本質を浮かび上が

ペペロンチーノクラッシュ。

フライパンを降ったら、中の具材が全て飛び散った。そんなことは初めてだった。僕はペペロンチ…

偶発の失踪。

理由もなく仕事を飛んでしまった。僕は自分が思っていたより疲れていたのかもしれないし、さし…

千鳥足ソナタ。

開幕。緞帳はなくても、ブザーが聞こえた。客は多分いない。幽霊は沢山いるかもしれないが、俺…

心の蕁麻疹。

心が痒くて居た堪れない 苛苛のうち一日終わる 溜息混じりに帳が降りる 途切れの朝も暗闇の中 …

弔自。

自分の葬式に参列しなくてはならないだなんて、聞いてなかった。僕は親の葬式も駄々をこねて参…

飾り眼。

ラブホテル前の道路は、目に見えない引力が働いている。意志や常識みたいなものは無力で、一思…

可逆。

宇宙の境界線が見えた 僕はそれをつまんでみる 思いの外硬くて 思いの外暖かい 例えばそれを引っ張ったら 宇宙は歪み、時間は歪む もともとぐちゃぐちゃじゃないかと 僕は思いっきり引っ張った 痛い 電流みたいな衝撃 痛い 針よりも鋭い棘 でも僕だって負けてられない わざわざここまで来たんだからさ 気付けば僕はくらげになって ぷかぷか宇宙を漂っている ゆっくり酸素がなくなって ゆっくり身体が収縮してく ゆっくり死んで行くんだな ゆっくり生きてきたこれ迄が ゆっくり思い返される ゆ