ペペロンチーノクラッシュ。

フライパンを降ったら、中の具材が全て飛び散った。そんなことは初めてだった。僕はペペロンチーノを名乗ってもいいくらい、ペペロンチーノを作る天賦の才が与えられていた。他の料理であるならまだしも、ペペロンチーノでそんなことが起こりうるはずがなかった。僕は困惑した。キッチンに散らばった玉ねぎと唐辛子と刻んだニンニクが侘びしかった。パスタは耳にもかかった。日曜日とは思えない大惨事だ。

まるで、重力があの瞬間だけなくなったみたいだ。僕はそう思うほかがなかった。それまでの工程に寸分の狂いもなかったし、今日はいつもより素晴らしいくらいの日曜日だった。物理法則の方が間違わない限り、そんなことが起こるはずがない。僕はそう結論づけた。  

実験。僕は再びコンロに火をつけて、フライパンを熱した。意を決して、右手をフライパンの上にかざし、いつものように左手で降った。右手は宇宙まで飛んでいった……なんて絵空事だ。もちろん、あたたかい空気が手の平を通っただけだった。何度やっても変わらなかった。

僕はそれ以来ペペロンチーノを作っていない。またクラッシュをしてしまうのが怖いのかもしれない。何より、その後の掃除が大変だった。ガールフレンドにも振られてしまった。冗談でも、ペペロンチーノの香水をふったんだ、なんて嘯くのはよくなかった。

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