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創作小説

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#創作大賞2023

「ただいまと言える場所」第3話

「ただいまと言える場所」第3話

見上げればいつも見えるもの、ケープタウン 二十九歳の冬

 テーブルマウンテンと呼ばれる山がこの街のシンボルで、街の中心地を歩く時、見上げれば必ずといっていいほど、視界の中にその山を見つけることが出来る。海沿いの街であるケープタウンの繁華街から十キロもいかない場所にそびえたつ標高千メートルの山は圧巻だし、そもそも名前の通りテーブルのような台形状の形は異様で、見る場所によって違った景色を見せてくれる

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「ただいまと言える場所」第2話

「ただいまと言える場所」第2話

窓から見える赤いタワー、東京 二十三歳の冬

「どうして、そんなことも分かってくれないの?」
 私は苛立ちを抑えることなく、感情を爆発させ、佑馬を睨みつける。二人で暮らす1LDKのマンションはとんでもなく狭く、いつも物が溢れている。佑馬は、私の言葉に何も言わず、無言で下を向いている。まくしたてるみたいに私はそんな佑馬に怒号を浴びせる。しばらしくして佑馬は黙って部屋を出ていった。時計の針は二十二時半

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「ただいまと言える場所」第1話

「ただいまと言える場所」第1話

 私の恋愛観を形作っているものは、小さい頃に読み漁った少女漫画だと思う。美形の男女に、運命的な出会い、友情やライバルの出現。すれ違いの中で、相手の本質を知り、互いを理解し合う。最後はもちろん、ハッピーエンド。両想いになれさえすれば、幸せになれると思っていた。

第1話 陸の果ての街、稚内 十六歳の夏

 八月に入ったばかりの真夏の夜だというのに、風が心地良い。去年の夏は冷房を一晩中つけて眠っていた

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