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棚割(たなわり)の美学

バイヤーの業務のひとつに、棚割(たなわり)と呼ばれる作業がある。

棚割とは、陳列棚の中で、どの商品をどこに陳列するかを決めることである。過去の販売データや指数予測を考慮して、どこに何を陳列するかの陳列棚モデルをバイヤーが作成し、店舗はバイヤーの指示を受けて、陳列棚のモデルを自店で再現する。チェーンストアの陳列棚が全国同じ品揃えなのは、あらかじめ作成した陳列モデルを、店舗が再現しているからである。小売業でない方は意外に思うかもしれないが、商品の並べ方は、店舗で考えるのではなく、データやトレンドに基づいて、バイヤーがある程度指針を出しているのである。

棚割がどの程度厳密に決まっているかは、業態によって異なる。GMSや量販店、大型の専門店などは、棚割がかなり細かく決まっていることが多い。スーパーやコンビニの陳列棚を思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。逆に中小型の専門店は、業態の性質上、明確な棚割が決まっていないことが大きい。また、ファッショングッズなど、整然と陳列することが適していない商品は、厳密な棚割を組まないことも多い。

どんな棚割を組むかによって、売上が大きく変わる。そのため、バイヤーの仕事の中でも、棚割のウエイトは大きい。言ってみれば、バイヤーにとって、棚割は試合と同じである。商品知識、経験、分析力、嗅覚、先を読む力など、これまで培ってきた、あらゆる力が試される。持っているものを総動員して、それを棚で表現する。なぜ、その商品を棚に並べるのか。なぜ、その商品を顧客に提案するのか。陳列棚はバイヤーから顧客へのメッセージである

実際に棚割をする際のポイントは、テーマを決めることバランスを取ることである。

棚割をするときは、まず棚のテーマを設定するこの陳列棚はどういう商品の集積なのかが、顧客にもわかるレベルで品揃えする必要がある。商品ありきで入ってしまうと、訴求ポイントの焦点がぼやけて、顧客に何を伝えたいのかわからない売場になってしまうことが多い。映画に例えれば、ヒューマンドラマなのか、歴史大河でいくのか、ジャンル(テーマ)を先に決めることに近い。撮りたい場面(商品)から先に入ってしまうと、ストーリーに一貫性を持たせることが難しくなり、映画を通して観たときに、何が言いたいのかわからない、ちぐはぐな印象になってしまう。小売でいえば、ターゲット、用途、機能など分類の切り口は様々にあるが、陳列のテーマを明確にすることが重要である。

そして、もうひとつポイントになるのが、バランスを取ることである。中でも重要なのが、役割のバランス見た目のバランスである。同じ商品でも高価格帯と低価格帯では役割が違う。高価格帯の食パンと低価格の食パンは、購買の客層が異なる。また見た目のバランスにおいては、商品の物理的なサイズバランス、可能ならカラーバランスも考慮したい。商品の密度感や色彩で、顧客に与える印象は大きく変わる。役割にも見た目にも、極端な偏りが出ないことが大事である。

バイヤーにとって、棚割を組むということは、野球に例えるなら、監督がスターティングオーダーを組むことと同じである。

決められたスペース(ルール)の中で、手持ちの商品(選手)を活かして、最大限の結果を出すことが、バイヤー(監督)に求められることである。売上(勝敗)も目的のひとつだが、加えて顧客への価値の提案(選手の人間的成長)も必要である。

野球でもオーダーを組む際は、選手の役割やバランスを考えた方がいい。ホームランバッターばかりを集めてもチームが機能しないように、パワーのある選手や脚の速い選手、守備がうまい選手など選手の個性が活きるようにバランスのとれたチームづくりをする必要がある。これは棚割をする際にも、通じる考え方である。強いチームのオーダーが美しいように、いい棚割は美しいのである。

小売業の方以外で、そんなマニアックな見方をする人はいないと思うが、買い物に行かれた際は、どういう意図があって、この商品が並んでいるのかを考えるのも、面白いかもしれない。

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