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2021年 中高生部門(中学生の部)最優秀賞『モモ』

受賞者
アユさん 中1

読んだ本
『モモ』 ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳 岩波書店

作品
 目次 
 自分には長い前書き
 第一部 一年後のモモとその友達
   一章 静かな廃墟と楽しい話し声
   二章 なぞなぞ大会?

 第二部 時間どろぼうの暗躍
   三章 ある床屋での出来事
   四章 会議は灰色
   五章 動き出した悪い影

 第三部 攻撃開始と重大なミス
   六章 侵入成功/ある男の独り言
   七章 成す術もない。
   八章 任務遂行
   九章 すべて始まりに
   十章 終わりはいつか、やって来る


  自分には長い前書き

 私は物語が好きです。なので、将来は漫画家や小説家など本に関係ある仕事がしたいと思っています。
 今回私が選んだ本「モモ」は、モモという少女が不思議なカメ「カシオペイア」と時間をつかさどる「マイスター・ホラ」と一緒に時間を盗む灰色の男たちから盗まれた時間を取り返すお話です。本当の「時間がない」とは何なのかを教えてくれます。
 私が書くのは一年後のモモたちのお話です。不思議なモモたちの世界をお楽しみ下さい。

  第一部 一年後のモモとその友達

   一章 静かな廃墟と楽しい話し声
 モモがカシオペイアと別れて一年がたちました。今日も円形劇場の廃墟で、モモとその友達は遊んでいます。モモがいて、右どなりにはジジがいます。ジジはじょうだんをふりまき、夢みるような目をした、若ものです。一時はテレビに出るほどの有名人だったのですが、スケジュールでがんじがらめになって疲れてしまい、今は観光ガイドのジジとしてモモたちと一緒に楽しく暮らしています。
 左どなりにいるのが、道路掃除夫ベッポです。ベッポはとても小柄なおじいさんです。おかしな苗字ですが、職業が道路掃除夫でみんながそう呼ぶものですから、おじいさんもそう名のることにしています。
 その他にも、モモの周りにはたくさんの友達がいます。パオロ、妹のデデをつれているマリア、マッシーモ、フランコ、他にもいっぱいいます。みんな、必ずとはいえませんが毎日遊びに来ます。今日は、みんなジジの周りに集まってお話をしています。
「今日はここであったお話をしよう。」
 ジジは大きな声で言いました。子供たちもモモも興味津々です。
 ジジは一息吸ってから話しはじめました。
「みなさん、ここは太古の昔にはとても豪勢な広場だったのは知っていますか。ここは、かの有名なロストネラウスという建築家が設計した広場で、本当は部屋が何個もあり、壁という壁に金や銀、さらにエメラルドが埋めこまれていたのです。そして、この話はこの広場が建ってから一年たった記念に貴族だけを集めたパーティーが開かれた時でした。そして、最後の余興、手品が始まる時だったのです。マジシャンは、よくある人を切断するマジックをしようとしました。すると不幸なことにマジックが失敗し、本当に人が切断されてしまいました。もちろん会場はすごい騒ぎになりました。しかし、おどろくのはここからです。その切断された人が、何もなかったように上半身と下半身をくっつけて歩き出したのです。会場の貴族も、マジシャンも逃げ出しました。空っぽになった広場には、切断された人―ジロラモという青年があっけにとられてつっ立っていました。
 その先から彼は、いつも独りぼっちでした。彼のことを皆「呪われた人」と呼び、誰も近づこうとしなかったからです。ジロラモは必死に正体を隠しましたが、どこに行っても彼を受け入れる人はいませんでした。うわさは矢のように広まっていきますし、そもそもジロラモが歩くと、上半身と下半身があっちこっちに動くのですから!
 それから何年かたち、広場はさびれ、貴族たちもいなくなりました。でも、ジロラモは生きています。」
 眼鏡をかけたパオロという男の子が聞きました。
「ジロラモは、今どこにいるの?」
「この中ですよ!ジロラモはまだ、この廃墟にまだひそんでいます。そして、自分を受け入れる人たちを待っているのです。」
 みんなは、ジジのつくるお話が大好きでした。みんなは、おしゃべりを続けて帰ってきました。モモも、廃墟にある自分の小部屋に帰っていきました。ずっとこんな日が続けば、どんなに幸せだろうと思っていました。

   二章 なぞなぞ大会?
 今日はめずらしいことに、モモは寝坊をしてしまいました。石段の方に行くと、もうみんな集まっています。でも、今日は子供たちの数がとても多いのです。
 モモが来ると、マッシーモという太っちょの子がソプラノボイスで言いました。
「僕たち、モモのことを待っていたんだよ。今日は、なぞなぞ大会をするんだ!」
 事はとても早く進んでいきました。解答者は、モモとジジ、そしてマッシーモと麦わら帽子をかぶったヤスという少年です。解答者の前には、小さな木箱やダンボールがおかれてとてもそれらしくなりました。出題者はベッポと他の子供たちが、順番にすることにしました。
 モモは初めてのことでどきどきしました。空は青く、すみきっています。最初の出題者はベッポじいさんなのですが、ベッポは何をやるにも丁寧にゆっくり考えます。なので、なぞなぞ大会が始まった2分後にやっと問題が出題されました。
「それはな、火にも水にも弱いんだ。」
 さらに2分がたちます。
「けれど、皆を夢の中へ連れていってくれるのだ。」
 ベッポは、言葉にすることも疲れたように言いました。
 モモは考えました。
(火にも水にも弱い物?人間かしら。でも、夢の中に連れていってくれる物でしょう。思い出?でも、思い出は火にも水にも負けないわ。夢の中に連れていってくれる、ということは現実ではない所を見れるということかしら。そして、火に弱いから燃えるもの。水に弱いからぬれたら使えなくなるもの。現実の世界ではない―物語?そうよ!物語よ!そして、物語が書いてあるのは本。本は火にも水にも弱いわ。だから答えは本だわ!)
 ジジやマッシーモなどは、ああでもないこうでもないと議論しています。モモは素早く手を上げました。
 みんながモモをじっと食い入るように見つめます。これでは、答えがわかっていても緊張して答えを間違えそうです。
「答えは…本よ。」
 少し声がかすれてしまいましたが、普通に言えました。
 ベッポじいさんは、何も言いませんでした。でも、モモもみんなも知っていました。ベッポは、答える必要がないと何も話さないということをです。
 ジジが言いました。
「まだ一問目だろう。次の問題から全部、おれが解いてやるぞ!」
 モモもなぞなぞが得意だったので、ジジと同じ気持ちでした。
 けれども、なぞなぞ大会にはこの問題しか出題されませんでした。なぜなら、なぞなぞがこれ以外思いつかなかったからです。ベッポじいさんも、これしか知らなかったし、みんなも、なぞなぞと言われてそう簡単に思いつくものではありませんでした。なので、モモが優勝です。誰かが、お祝いをしようと言いだしました。子供たちは、一旦家に帰ってパンを一切れだったり、桃を一つだったりと食べ物を少しずつ持ってきました。でも、「ちりも積もれば山となる」ということわざは、このためにあるのでしょう。子供の数が多いだけに、とてもたくさんの食べ物が集まりました。左官屋のニコラや居酒屋を経営しているニノなど、円形劇場の周りに住んでいる人たちを呼んで、ちょっとした宴会をやれたほどです。モモの友達だけが知っている、素敵な宴会です。おかしななぞなぞ大会でしたが、これはこれでいいな、とモモは思いました。
 ただ一人、この結果が不服な子がいました。あのなぞなぞ大会にでていた、太っちょのマッシーモという子です。彼は最後に、モモに言いました。
「でも、なぞなぞ大会で優勝できなかったのが残念だったな。後の問題は、全部僕が解いてやろうと思ったのに!」

  第二部 時間どろぼうの逆襲

   三章 ある床屋での出来事
 円形劇場の廃墟からちょっと行った所には、大都会がそびえています。そして、大都会にだって、光がささず、ずっと闇がうずまいている場所があるのです。そこで、灰色の男―つまり時間どろぼうが、ある計画のため動き出していました。そのやり方は、泥棒らしく人をだますような方法でした。
 フージー氏の場合を見てみましょう。フージー氏は、今日もいつものように客と話しながら髪を切っています。フージー氏は床屋ですからね。
 ちょうど今の客が出て行くと、店は静かになりました。使用人が休みなので、今日はフージー氏一人だけです。鼻歌を歌いながら店の中を歩いていると、店のドアが開きました。フージー氏がふり返ると、その人はどうも奇妙な格好をしていました。服はすべて灰色ずくめで、かばんも、葉巻まで灰色です。気のせいかもしれませんが、店の中の温度が2℃くらい下がったような気がします。そして、はたまた奇妙なことに、この紳士とはどこかであったことがあるような気がします。
 フージー氏が何か言おうとするのを、灰色の紳士は手で制し、ゆっくりとかばんを置きました。そこからは一瞬だったのですが、紳士はポケットの中に手を入れ、取り出した拳銃で、フージー氏のうなじめがけて撃ったのです。灰色の紳士は、仕事を終えたと言わんばかりにそそくさと帰っていきました。
 数分して、フージー氏は目が覚めました。フージー氏は、自分が銃撃されたことも、灰色の男に会ったことも、銃弾がまだ残っていることだって忘れていました。フージー氏は、頭をポリポリとかきながら、いつものように次の客を待っていました。フージー氏はどうなってしまうのでしょうか。あの銃弾は何なのでしょうか。一週間後に意識を失うとか、字が書けなくなるなど、弾に変な薬が混ざっているのでしょうか。それとも、普通の弾で、フージー氏は奇跡的に生き残っているのでしょうか。答えは、全部不正解です。でも、あの銃撃をくらった人には、特別な事が起こるという点では合っています。でも、フージー氏はそんなことつゆ知らず。陽気に話しかけながら、先ほど来た客の髪を切っています。
 こんな、「普通ではないこと」が、大都会中で起こりました。でも、もちろん誰も覚えていません。とうとう今日で、大都会中に暮らしている人々全員のうなじに弾が撃ちこめられています。大都会に住んでいる人々は、どうなってしまうのでしょうか。

   四章 会議は灰色
 大都会の南東にずっと行くと、灰色の家があります。扉も屋根も、えんとつだって灰色です。普通、こんな家があったら誰かの記憶に残っているはずなのですが、灰色の色は、みんな知りません。周りには草しか生えていませんし、大都会のはしっこに建っているからです。その灰色の家には、はたまた不思議な、灰色づくめの紳士が暮らしていました。
 そこで、どこかで見たことあるような会議が始まりました。見た目はごく普通の会議なのですが、話している内容が普通のことではないようです。
 (はぁ…憂鬱だ…。)
俺は上司に見られないよう、ひっそりため息をついた。
 部屋中を見渡すと、灰色だらけで、見たくなくなってくる。しかも、みんなコートをぬいで、さらに帽子もぬいでいるので、どこを見渡しても、ハゲ・ハゲ・ハゲ。本当に嫌になる。俺は、いつか、人間みたいに自由になりたい。いつもそう願っている。
 そんなことを思っているうちに、時間になったのだろう。司会(俺の上司)のダミ声が聞こえてきた。
 「では、時間なので始めさせてもらう。今日は、〈あの作戦〉の第一段階が終わったため、第二段階の説明とさせていただく。まず、私達の作戦をもう一度確認するぞ。まず、この大都会の人々に「遠隔操作弾」を撃ちこむ。撃ちこまれた人は、我々が遠隔操作をできるようになる。ここまでが第一段階だ。そして次に、遠隔操作した人々を〈どこにもない家〉に行かせるのだ。あのマイスター・ホラだって、人間には手も足も出ないだろう。そして、時間の花を盗むのだ。これで我々は、時間に飢えることはない!
 この話は絶対秘密だ。もしも、漏らしたら処罰の対象だ。いいな?」
 相変わらず、話が長い上司だ。さっさと、ミッションを終わらせて帰りたい。
「次は注意事項だ。」
上司はそう言うと隣の男が話し出した。
 隣の男は咳払いを一つして、話し始めた。
「皆さんご存知の通り、我々は前回マイスター・ホラという男に敗北した。この時我々は、たった一人の逃げた同志によって助かった。
 注意事項は2つだ。一つ目は、危険人物についてだ。〈どこにもない家〉の主、マイスター・ホラ。半時間先を見通せて、ホラのペット、カシオペイア。そして、子供だ。子供は、残念ながら操作できない。そして、子供の中で最も危険なのは、モモという少女だ。この少女は、特殊能力を持っている。我々の作戦が漏れるのは、モモが関わっている場合が多い。もし、我々が動いていることを危険人物が知ったら、すぐにそいつを拘束しろ。例外は無しだ。
二つ目は、…。」
 まったく耳に入ってこない。桃に気を付けろとかいろいろ言っていた気がする。
 そんなことを思っているうちに、会議は終了した。とりあえず、上司について行けばいいだろう。
…………………………………………………………………………………………………………………………
 これは、灰色の会議が開かれている日の朝、モモの身に起こったことです。
 モモは、誰もいない廃墟で歌を歌っていました。思わず聴き入ってしまうような、きれいな声です。そんなモモにカメが近づいてきました。モモはすぐに気付いて、叫びました。
「カシオペイア?カシオペイアなの?」
 カシオペイアと呼ばれたカメは、モモに近付いて、
「ソウデス!」
と甲羅が光りました。
「どうしてここにいるの?」
「キンキュウジタイデス!」
「私は、どうすればいいの?」
「ホラノトコロニイキマショウ!」
「じゃあ、みんなに心配をかけないように手紙をかかなくちゃ!」
 モモは、前にジジからもらったレターセットと古い万年筆で書き始めました。
「 みんなへ
 私は少し旅に出ます。
 すぐに帰って来るから、ゆっくり待っていて下さい。
  モモ」
「モウ、イクヨ!」
 モモとカシオペイアは歩き出しました。カシオイペアはゆっくり進みます。モモもそれについて行きます。朝なので、人通りが少なく一度も止まらず歩けました。
 何分か、何時間かたって、やっと見覚えがある場所に着きました。ここに着いて、モモはもっとゆっくり歩くように意識しました。不思議なことに、ゆっくり歩くほど、速く動けることを、モモは知っていたからです。ここの不思議な風景が、モモは好きでした。数分たって、5番目か6番目の角を曲がると〈さかさま小路〉に着きました。モモは後ろ向きに歩きました。もちろんカシオペイアもです。ここでは名前の通り、何もかも逆さまなのです。少女と、カメが一緒に後ろ向きで歩いている場面を何も知らない人が見たら、おかしいんじゃないかと額をたたくと思います。
 はたまた数分かかって〈どこにもない家〉の中の〈マイスター・ゼクンドゥス・ミヌティウス・ホラ〉と書かれた名札の前まで来ました。ここまでの道のりは長いとも短いとも言えない不思議な感覚です。小さなドアを開けると、すぐ目の前にホラが立っていたのでびっくりしました。
「疲れただろう。朝食を用意してあるから、中にお入り。」
 部屋の中から美味しそうな匂いがします。モモはつい、かけだしてしまいました。

   五章 動き出した悪い影
 大都会では、大変なことが起こっていました。あの銃で撃たれた人々が、大通りを行進しています。この大軍の行き先は、〈どこにもない家〉。子供たちは、異変に気付きますが手も足も出ません。
 その頃、円形劇場の廃墟では、ジジとベッポがモモの帰りを待っていました。二人共、モモが帰って来た時におもしろい話をしてあげようと、話し合っています。
 時は早く流れて行きます。
 大都会の人々を操っている灰色の男は、ヘリコプターで人々の様子を見ています。上から見て、指示を出すのです。灰色の男たちは、〈どこにもない家〉への行き方も全て調べ尽くしたので、準備は完璧です。一時間もたたない内に〈どこにもない家〉に着いてしまいました。灰色の男は〈さかさま小路〉までしか入れないので、そこで待っています。
 食事が終わると、マイスター・ホラはこんなことを言い始めました。
「私の愛しいカシオペイア!モモを連れて来たということは、また何かあるのかい?」
 カシオペイアは、ゆっくり歩いて来て
「トテモタイヘンナコトデス!」
 という、文字を浮かび上がらせました。
「それは、何なのだい?カシオペイアよ。」
「ジキニ、ワカリマス!」
 ホラはあきらめたように、モモに話しかけました。
「でも、丁度良かったかもしれない。僕もモモに会いたいと思っていたからね。」
 ホラはため息をつきながら言いました。
「今日はかなり落ち込んでいてね。『なんでも見えるふしぎなめがね』が壊れてしまってね。あれは一つしかないのに…」
 ホラに話をさえぎってカシオペイアの甲羅が強く光りました。
「ソトヲミロ!キンキュウジタイダ!」
 そう言ったか言っていないか、操られた人々が、扉を壊して入って来ました。

  第三部 攻撃開始

   六章 侵入成功/ある男の独り言
 そこからは地獄でした。ホラはモモをかばうように安全な場所に移動しました。カシオペイアは、わざと人のいそうな場所に行って、つまずかせていました。
「どういうことなの?一体、何が起こっているの?」
 ホラは、悲しそうに言いました。
「僕が言えることは一つだけ。僕らは油断していたという事さ。まさか、こんなことになるなんて!」
 ホラは絶叫していました。そこに、ボロボロになったカシオペイアが来て
「アソコノヘヤヘ!」
と提案したので、モモは泣きそうになりながら扉を開けました。本がいっぱいあるので、書物庫のようです。
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 ヘリコプターに、俺は上司と乗っているのだが、非常事態らしい。上司が大声を出して叫んでいる。眠れやしない。
 ウンザリしていると、上司が命令を出してきた。
「おいお前、中に入って様子を見てこい!よくわからないが、あの小路の時間の流れが正常になっているらしい。それと、人間が操れないらしい。どうやら暴走しているみたいだ。我らの作戦を無駄にしないよう、がんばるんだ!」
 相変わらずムチャクチャを言ってくる上司だ。けれど、逆らえない。仕方ないのでパラシュートで〈どこにもない家〉の真上に飛び降りたが、うまく着地ができず、こけてしまった。どうやらここは、ベランダらしい。中に入ると俺は絶句した。
 俺たちが操ろうとした人々が、白目をむき、手にふれた物すべてを破壊していたからだ。
 ショックすぎて突っ立っていたら、急に目の前に、人間―今となっては怪物が現れた。
「ギャーッ」
 俺は逃げた。奇声を上げながら、何回物を投げて、扉を開けただろうか。逃げて、逃げ続けてもヤツらはやってくる。でも、とうとう行き止まりになり、後ろからゾンビのようなうめき声が聞こえる。俺は最後の望みで、横のドアを開けた。
 だが、それは最悪の選択だった。

   七章 成す術もない。
 急に人が入ってきて、モモは心臓が止まるかと思いました。目を開けると、灰色の物体がありました。それが人だとわかると、モモは悲鳴を上げました。何せ、一番の敵がここにいるのですから!
 モモのびっくりした目を見ながら、灰色の男は言いました。
「待て、待ってくれ。君が誰だか知らないが、俺は怪しい者ではない。追われているんだ。」
 モモもホラも、その言葉にうそは無いと思い、話しかけました。
「僕たちは、この騒ぎを止めたいんだ。君の知っていることを全部話してくれないか。」
 灰色の男は作戦や暴走など、すべてを洗いざらい言ってしまいました。言い終わった後、ホラは数分考えて、言いました
 モモは震え上がりました。ホラの作戦は、危険で、失敗する可能性も大いにありました。でも、それしか成す術がないことも、みんなわかっていました。
 窓がないのに、どこからか風がふいてきました。

   八章 任務遂行
 まず、ホラと灰色の男が外に出ます。怪物たちをおびきよせ、逃げました。モモたちが標的にならないように走りました。そのすきに、モモとカシオペイアは〈時間操作室〉に向かいます。時間操作室というのは、時間を過去に戻すことができるのです。しかし、そう上手くは行きません。カシオペイアは、とてもゆっくり歩きます。なので、時間がかかります。そこをあの怪物に襲われたら、もう作戦は失敗です。
「もっと速く行けないの?」
 モモはあせっています。
「コレガ、セイイッパイ!」
 カシオペイアだって、あせっています。でも、さすがカシオペイアです。誰にも会わないルートを通って、目的地に着きました。モモもカシオペイアもほっとしました。

   九章 すべて始まりに
 ホラと俺は逃げていたが、俺は夢中になって逃げるものだから、ホラとはぐれてしまった。
 そんなことを考えて、ふと後ろを向いたら俺は失神しそうになった。ショックのあまり、すぐに前を向いてしまったが、あれはホラだった。あの怪物にまぎれて、ホラがいたのだ。
 ショックと疲労のあまり、俺はこけてしまったらしい。俺は、こけたかわからないくらい混乱していたのだろう。俺も…怪物に…

   十章 終わりはいつか、やって来る
 モモは、この部屋が今まで見た中で一番異常だと思いました。この部屋は雪のように真っ白で、赤いボタンが一つ輝いているだけでした。
 すぐに、このボタンを押せば過去に戻れることはわかりました。ですが、モモはためらいました。ホラの言葉を思い出したのです。
「…だから、モモたちは過去に戻すんだ。でも、過去に戻したからって、未来が変わるわけでもない。僕たちは、すべて忘れてしまうからね。変わる確率は…そうだな、百億分の一ぐらいかな。不安になる気持ちはわかる。でも、僕らに残された道は…これしか…」
 突然、カシオペイアの甲羅が光りました。
「ハヤク!」
 モモは涙をふいて、ボタンを押しました。
…………………………………………………………………………………………………………………………
 モモという名の少女が、廃墟に住み付いたといううわさが、みんなの口から口へ伝わりました。
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 Continue to the past

受賞のことば
 私はこのコンクールに初めて応募しました。最優秀賞をいただき、驚きと喜びが入り混じっています。私は本を読むことが好きで、読んだ後よく頭の中で二次創作をしています。だから、このコンクールを知った時、自分に合っていると思いました。この物語は結末を考えずに書き始め、書いているうちにどんどんアイディアがわいてきて短時間で沢山書けました。将来は本に携わる仕事もいいなと考えていたので賞をいただき自信になりました。

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※応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局

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