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2019年 中高生部門(中学生の部)最優秀賞『華氏451度』

受賞者
大場 日菜子さん 中3

読んだ本
『華氏451度』 レイ・ブラッドベリ作 伊藤典夫訳 早川書房

作品
 私達に必要な情報

 私は今回『華氏451度』(レイ・ブラッドベリ著・伊藤典夫訳)を読んだ。この本は以下のようなストーリーである。
 情報がひたすらに単純化され、民衆の受け入れ能力が薄弱になった世界。難解ゆえに民衆の混乱を引き起こすとして、本は見つけ次第燃やされることになっていた。主人公であるガイ・モンターグは昇火士であり、本を燃やす仕事をしている。ある夜通報を受け、上司と共にモンターグは現場へかけつけた。しかしモンターグはつい出来心から本を盗んでしまう。家へ帰りその本を読んだモンターグは本の価値に気づき、複製をつくって民衆に広めようとする。しかしどこからかモンターグが本を所持している事が知られ、モンターグは自らの手で家もろとも本を焼き払わされることとなる。その際上司に自分の企みが露見しそうになり、慌てたモンターグは火炎放射器で上司を焼き殺してしまう。犯罪者となったモンターグは川へ飛び込むことで街から脱出し、下流の田舎で年老いた男達に出会う。彼らは本の内容を記憶することで本を保護していた。モンターグは彼らと合流し、同志を探す旅に出る。
 私は、この本の面白さは舞台設定にあると思う。
 今までに本が規制される世界を舞台とした本はいくつか読んだことがある。しかしこの本には、それらの本とは異なる点がある。それは本に対する民衆の意識だ。
 この本では本を焼くことが法律で定められている。その法律に対して民衆は不満を持つどころか支持しているようだ。モンターグが妻に本を見せた時、妻はとっさにその本を奪い取り燃やそうとした。民衆の間で本は危険なものであり、それを所持するモンターグは反社会的な勢力でしかない。主人公が正義とされない舞台が、私には新鮮で面白かった。
 この本を読んで私は「知らないことの怖さ」を強く感じた。
 作中では他国の爆撃機が、何度も上空を飛んでいる。どうやらモンターグの住んでいる国は周辺国と仲が悪く、いつ戦争が始まってもおかしくないらしい。しかし登場人物のほとんどは戦争について話題に挙げない。最終的に街は爆撃を受けて消えてしまうのだが、彼らはあまりにも戦争を意識しなさ過ぎではないだろうか。
 この理由としては、単純化された情報に慣れ過ぎた人々が「戦争」という一筋縄ではいかないものの恐ろしさをよく理解できず、また理解しようとしなかったことが考えられそうだ。そしてこの人々はまるで「政治は難しくて分からないから投票に行かない」と言う現代の若者のようではないか。
 この話は完全なる創作ではなく、私達の選択によって選ばれた一つの未来予想と捉えることができる。そう捉えるとこの本は私達に単純化された情報とそうでない情報との付き合い方を考えさせているのではないだろうか。
 単純化された情報とは、短く分かりやすくかつ万人に受け入れられるような内容の情報のことだ。今の情報社会において私達は、単純化された情報ばかりを求め過ぎている。インターネットに頼り不確かな情報を鵜呑みにする人間がいい例だ。
 もし私達がこのまま単純化された情報だけを求め続けた場合、どのような問題が起こるのだろうか。
 まず人間関係が希薄になる。単純化された情報だけでは親密な関係を築きにくいからだ。互いの事を知る上で、見た目と性格の違いや好きになれない側面は必ず出てくる。単純化された情報に慣れ過ぎていると、それらの違いを受け入れることができない。だから自然と相手には深く踏み込まず、表面的な付き合いで済ませるようになるだろう。実際作中でも人と人のつながりは薄く、私達も昔と比べれば人関係はかなり希薄になった。
 また、受け止め辛い嫌な情報に対しての耐性が無くなる。単純化された情報はどれも、受け入れやすくされたものばかりだからだ。私達の誰もが受け入れられるようにするには、内容を大味にするしかない。そうなると私達は、得る情報を選り好みするようになる。分からないこと、嫌なこと、受け入れ難いことを知ろうとしなくなるだろう。すると私達に与えられる情報は、さらに口当たり良く受け入れ易いものになり、私達はさらに情報を選り好みする、という悪循環に陥ってしまう。
 ではどうすれば、そのような未来にならずに済ませられるのだろうか。
 まず私達は、情報を選り好みせず仕入れるべきだ。ただし仕入れるだけでは不十分だ。大事なのは仕入れた情報を理解し、説明できるくらいに知ることである。これからの私達の情報との向き合い方で、この先の未来が決まるだろう。この本を創作にしておくために、できる限りのことをしたいと思った。

受賞のことば
 私の文章が、このような賞を頂けることとなり、驚くとともに大変嬉しく思います。私は今まで、外国文学にあまり関心をもっていませんでした。しかし、この本で初めて外国文学に触れ、日本文学にはない皮肉っぽさやユーモアに引き込まれました。今回の作文をきっかけとして、国内・国外に関係なく、もっとたくさんの本を読みたいと思います。最後に、紹介してくださった国語科の先生と作文を書く際いろいろとアドバイスをくれた父に感謝します。

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※応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局

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