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サリンジャーにつかまえられて(『フラニーとゾーイー』J.D. サリンジャー)

この読書感想文は「入選作品 五千円」として買い取らせていただきました。

タイトル サリンジャーにつかまえられて
読んだ本 『フラニーとゾーイー』J.D. サリンジャー
書いた人 JFTK

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 やあ!読書感想文なんて書くのは中学生のとき以来だね。はじめてこの本を読む人はともかく、もう読んだことがある君にも再度読むことをおすすめするね。だって、君も“苔むすように歳をかさねて”きたんだからさ。さて、どのように感想文を書こうか。僕とこの本との出会いのきっかけは、同じ作者の「ライ麦畑でつかまえて」だから、やはりここからはホールデンに語ってもらうのが一番いいのかもしれないね。

ホールデン登場
「じゃあ僕に話をさせてくれ。この本のストーリーは、大学へ通う妹のフラニーと、その兄ゾーイー、そして二人の母ベシーが登場する物語です。以上、あとは読み手の君が勝手に解釈すればいい。だってさ、人それぞれだから。」

ちょっと、ちょっと。それじゃ身も蓋もないな、ホールデン。もう少し君の感想を教えてくれよ。それでないと読書感想文にならないし。

「仕方ないな。いいかい、そもそもその人の感想なんて聞いてもそれは今日の晩ごはんが美味しかったか、まずかったかの話と同じことさ。」

でも、美味しかったならそれはどうしてか。まずかったならどこがいけないのか。教えてくれてもいいじゃないか。

「それなら言うけど、邪気のない子供は美味しかったら、『本当に美味しかった』と言うし、まずかったら『なんだこれ!』と言うだろ。でも大人たちは、自分の好みにあわなくても料理をしてくれた人に気ずかって『たいへん美味しかった』って、礼儀として言う場合があるよね。それを偽善とは言わないけど、まずかったらそんなときはただ黙っていたい。それだけかな。」

わかったよ。じゃあこの本は君には美味しかったのかい?

「偽善に満ちあふれる大人の世界に足を踏み入れることを躊躇するフラニーに対し、ただただ情緒的に思いやる母ベシー、そしてイエスキリストを持ちだして諭す兄ゾーイー。たしかにこの本を、美味しい、まずいで言えば・・・・・、もち!なんどでも食べたくなるほど美味しかったよ!!」

 ホールデンとの話はここまで。こんなふうに、この本はわたしと登場人物に楽しい会話をさせてくれる本です。フラニーが人世や大人の世界を考えはじめた同じ年ごろに、わたしはこの本と出会いました。そしてフラニーやホールデンと同じように悩みもしました。大人の階段を昇ることがつらいなと思った時期でしたが、それはいつまでも子供でいたいという甘えだと考え、世間と妥協をすることにしました。
 それから先は、毎日パンのみを欲する日々でしたが、心の中にはいつもホールデンがいて、折あるごとにこの本を読みかえしております。他にもサリンジャーの作品は大好きですが、ナイン・ストーリーズの「バナナフィッシュにはうってつけの日」、「笑い男」もおすすめです。

 サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」は、いまさら説明をするまでもないベストセラー本です。1950年代の世相を背景として描かれた、若者ホールデンの物語です。サリンジャーはすべての作品で、純粋に人を愛した小説を書いていますが、ある出来事をきっかけに、作者はその後隠遁生活を送り絶筆状態です。人を愛するがゆえに、人の裏切りに接し筆を置いたのでしょうか。
 本作品の中でもトルストイ、ドフトエスキーなどを話の引き合いにだしておりますが、50年代以降の戦勝国アメリカの驕り、またその先に起きるベトナム戦争の苦悩、いつの世にも続く人間同士の争いをサリンジャーならどのように描くのでしょうか。
 本作品の最後に書かれている「太っちょのオバサマ」=「キリスト」が、作者の全作品のテーマであると思いますが、惜しいかな知りたいばかりです。

 光陰矢の如し。わたしもいまは70歳になろうとしています。がいまでも、この本は本棚の真ん中に置いてあります。そして、なんども読んでいます。バードの「4月のパリ」を聞きながら、手元にはワインを置いて、「人生は、E7(イーセブン)で終ってもいいのさ。」の気分です。
 あの当時のホールデンならなんというでしょうか。あなたも、その人生のなかで巡り合える一冊をお持ちでしょうか。

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最後までお読みいただきありがとうございました。

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