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出版社に一度でも憧れた人は「本の雑誌5月号 出版業会で働こう!特集」を読んで欲しい

本の雑誌2022年5月号が面白かった。特集は「出版業界で働こう!」。出版社で働くことを一度でも夢見たことがある人には間違いなく響く。夢破れていまは別の業界で働く人、今も諦めきれない人。ヒントがたくさん詰まった特集だった。


複数ある企画の頭は「出版社面接担当匿名座談会」。これを読んで、なぜ自分は出版社の就職試験で書類選考落ちばかりだったのかが分かった気がする。開けっぴろげで、痛快な内容。

まず、エントリーシートの漢字ミスがある人はばっさり落とすらしい。「とにかく見直しをしない人間はいらん」(12ページ)らしい。でも編集作業は見直しの連続だろうし、たしかに出版業界人の基礎的素養なのかも。

それと驚いたのは「完全なオタクな人は絶対採らない。じゃあ君は好きでいいじゃん、読んでれば?」(16ページ)という意見。「版元による」という反対意見もあるけれど、出版社は「消費者」ではなく「生産者」の集まりであって、「好き嫌い」はそれほど重要ではないというのは重要な指摘に思えた。

じゃあ何が重要かと言えば、「アンテナ」(16ページ)とのこと。流行を幅広くキャッチする能力。他のジャンルと掛け合わせる能力。エンタメ全般に興味を持つことが求められるわけだが、実際それだけ広範な興味関心がある人は相当に稀だと思う。

これだけだと単なる「就活必勝本」なのだが、本の雑誌はやはり一味違う。このあとのコーナーで「もし転職するならこの出版社に行きたい!」という現役出版人へのアンケート結果が掲載されているのだが、座談会で語られる理想の人材像とは合致しない人が多々出てくる。

たとえば早川書房の塩澤さんは、「翻訳ハードボイルドや冒険小説の編集をしたいという趣味の延長で入社してしまい」(43ページ)と書いてある。これは紛れもない一点突破型=オタクではないか?ちなみに塩澤さんの理想の転職先についての回答は「女性誌のイケオジ編集長に俺はなる!」だそうだ。変わり者すぎる。

他にも「出版業界人生すごろく」を考える座談会企画もある。「小学館、集英社、講談社、KADOKAWAに入社」が「早上がり」に設定されているのは、何というか生々しい。なお、こうした大手に新卒で入るのは困難だが、出版業会に入り込めば転職できる可能性は多いにあるという更に生々しい話も出てくる。

まだまだ企画があるし、通常の書評コーナーも当然ながら面白い。

リアリティと、たっぷりの皮肉がまぶされている今回の特集。「ああ、自分が入れなかったのは当然だな」と納得できる人もいるだろうし、やっぱりここから目指したいなと気合いを入れ直す人もいると思う。硬軟さまざまな意味で、ためになる回だったと思う。

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