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中国料理が喚起したアジア各国のナショナリズムーミニ読書感想「中国料理の世界史」(岩間一弘さん)

研究者岩間一弘さんの「中国料理の世界史」(慶應義塾大学出版会)が興味深かった。中国料理を立脚点とし、それがアジアや欧米各国にどう波及し、その国の歴史にどう関わったかを詳述する。いわゆる「テーマ史」かと思いきや、各国のナショナリズムとの絡み合いを深く追求する点でユニークだった。


中国料理は、アジア各国のナショナリズムを喚起するツールとして貢献した。このことを学べたのが大きい。

たとえば、シンガポールやマレーシアは第二次世界大戦後、独立したり本格的に国としての歩みを始めた。国としての意識を統一する際に「国民食」は一つの大きな存在になるのだが、新興国ほど「その国ならではの味」を見出すのが難しい。

そこで両国では、華人が伝えた中国料理をアレンジする形で国民食を創り出す。たとえばマレーシアのナシゴレンは炒飯の変化形。シンガポールの海南鶏飯も、海南という場所に鶏飯を食べる文化があったわけではなく、伝来した中国料理を参照した。

また、タイのパッタイも典型例だそうだ。あえて「タイ風」を演出するために、中国料理の焼きそばでよく使われる豚肉ではなく、エビを取り入れている。中国料理との差異を強調しようとするほど、その紐帯が背後に見えてくる。

本書はこうした中国料理と歴史、ナショナリズムを淡々と描く。まるで歴史教科書を読んでいるようで、この無機質な感じが逆に良い。高校時代など、細かな用語辞典や資料集を延々読んで飽きなかった人にはうってつけの本だと思う。

ここに挙げた以外にも、中国料理が欧米でどうローカライズされたかや、そもそも清朝中国でどのように中国料理が発展したか、そこで時の皇帝が果たした役割がどれほど大きいか、などなど、取り上げる題材は幅広く深い。

中国料理が各国史に与えた影響が大きい一方、中国という国が中国料理を「輸出」したわけではなく、もっぱら各国に移住した華人がその魅力を伝達した点も面白い。あくまで人が歴史を紡ぐが、時に国家がそれを利用するという構造を忘れずにいたい。

つながる本

本書を読みながら何度か頭に思い浮かんだのは「世界史の考え方」(小川幸司さんら編著、岩波新書)でした。高校新教科「歴史総合」の入門書で、歴史観や歴史叙述のあり方を考える本。本書がどういう歴史叙述をしようとしているか、慎重に捉え、構造的な理解に努めようという重石になりました。

本書は紀伊国屋書店のオンラインストアの「紀伊国屋じんぶん大賞」というフェアから購入しました。主に人文系のおすすめがセレクトされていて、他にも興味深いノンフィクションが見つかりそうな特集ページです。

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