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早くゆっくりと支援ーミニ読書感想『知的障害と発達障害の子どもたち』(本田秀夫さん)

児童発達支援に詳しい専門医・本田秀夫さんの『知的障害と発達障害の子どもたち』(SB新書、2024年3月15日初版発行)は、親の悩みに寄り添う素晴らしい本でした。発達障害のある子(疑いが指摘される子)の親にとって、ASDやADHDがあるかどうかと同時に気になるのが、知的障害の有無であることに異論は少ない気がします。本書は二つの障害の関連や、発達障害に比べて一般書が少ない知的障害のある子どもへの支援を学べます。


著者は、二つの障害の関連を示すメタファーとして「近視と乱視」を取り出します。どちらも、「見えにくい」というハンディキャップにつながるものでくが、近視かつ乱視の子に対して、「近視だけ治療して乱視は放っておこう」という支援を選ぶとすれば、それはナンセンスでしょう。知的障害と発達障害についても、その特性・兆候が見られるならば、「どちらも支援する」というのが適切な対応です。

実際、精神科医の間では、発達障害は「神経発達症」と表現され、その中で認知・学習などに影響する状態を「知的発達症」と区分するそうです。つまり、発達障害がある子の中には、その特性の影響もあり認知的なハンディがある子もいる。両者は別個ではなく、関連しあっているようです。

つまり視力のメタファーに戻れば、我が子が目の見えにくさという困り事を抱えた段階で、「近視かもしれないし乱視かもしれないし、そのどちらのケアもしていこう」というのが、当座のスタンスとしては無難でしょう。

著者は、支援は「早く」かつ「ゆっくり」が良いと説明します。早く、ゆっくり。このうち早くというのは、いわゆる早期支援の重要性です。では、ゆっくりとは何か?それは、知的障害の発達というのは、ペースがゆっくりであることを認識し、そのペースに合わせていくということです。

補助線になるのは「発達の最近接領域」です。

子どもを焦らせるのでもなく、ただ待っているのでもなく、その子のゆっくりペースに合わせて教えていく。まわりの人は「この子にいまちょっと教えたら身につきそうなこと」を探しましょう。心理学用語でそのようなポイントを「発達の最近接領域」と言います。すでに育ちつつつあり、少し援助すれば発達していく領域のことを指します。

『知的障害と発達障害の子どもたち』p114

ゆっくりとは、平均(定型発達児や健常児)に合わせようと焦らせることではない。かといって、「この子は知的に遅れてるんだ」と過小評価して、放ったらかしにすることでもない。

その子には、その子なりに、「もう少しでできそう」な物事がある。それが発達の最近接領域です。そんな学習可能範囲を見定めて、そこに手が届くように大人がサポートする。これがすなわち、ゆっくり支援するということです。

ゆっくり支援することを怠ると、その子は絶えず追い立てられる。それが情緒不安などの二次障害の要因になります。

子どもが「ふつう」に、平均的に成長していけば、大人としては安心できるかもしれません。しかし、発達が「ゆっくり」な子に対して常に平均的なスピードを求めていたら、その子はストレスを受け、情緒的に不安定な生活を送ることになるでしょう。大人は安心できても、子どもは安心できなくなるわけです。

『知的障害と発達障害の子どもたち』p170

大人にとっての安心は、子どもにとっての不安になり得る。これは胸に留めたいことです。早くゆっくり支援するとは、早期段階から、子どもの安心を確保し、ストレスレスに過ごせる環境を用意し、心地よく発達の最近接領域を伸ばしていけるようにするということと言えます。

その先には、こんな子どもの姿が待っている。

マイペースに学ぶこと、何かに興味を持って楽しむことを保障されて育った子は、「このやり方ならわかる」「自分にもできる」「これが好きだ」「もっと知りたい」と感じるような経験を積み重ねていきます。それによって、自分の活動への自信が少しずつ育っていき、人をうらやむ気持ちや高すぎる目標には、とらわれにくくなっていくのです。

『知的障害と発達障害の子どもたち』p133

自分にもできる。これが好き。もっと知りたい。

こんな言葉を、聞きたい。それは全ての発達障害児の親の願いではないでしょうか?そのためには、早く、ゆっくり。大切な呪文にしたいところです。

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