これは大切な人を失くしたことのある人全員のお話
この本は、作家小池真理子さんが、夫で作家の藤田宜永さんの死に寄せて書いた
エッセイ集。
朝日新聞で2020年から連載がスタートされ、2021年に書籍化された。
37年連れ添ったパートナーを失うとは、一体どんなものなんだろう。
そう思って手にした本だったけれど、読んでいくうちにああ、これは
“私たち”のお話なんだなと感じた。このエッセイが連載当初から、沢山の読者から
共感の嵐を呼んでいたことも十分わかる。
これは、紛れもなく“私たち”のお話だった。
夫、妻、子供、兄弟、両親、恋人、ペット。
亡くした相手は人ぞれぞれ、悲しみも、苦しみもまた人それぞれ。
ただ、大切なものを亡くして、それでも息をしている “私たち”のお話だった。
小池さんは夫の症状が極めて深刻だとわかってから、いわゆる「喪の心理と回復」について書かれた本を読んで、必ず迎える死に向けて
心の準備をしようとしたそう。心理カウンセラーや宗教家、体験者などの本を読み、分かったことは、死は全て個別のものだということ。
エッセイ内で彼女が友人などから、彼の死の話題に触れられたときの話なんか、みんな共感できるんじゃないかと思う。
友人などから「もう泣かなくなったでしょう?」と訊かれるようになって、
ううん、もう全然だめ、なんて愛想良く頷き返しながら、彼女はさりげなく、
だけど素早く話題を変えるそう。
私はこの本を読んで、4年前に亡くしたおばあちゃんを思い出した。
世界で一番大好きだったおばあちゃん。
これは深い実感としてあるが、大切な人を失うと本当に世界が真っ二つになる。
その人が生きていた世界と、その人がいなくなった世界だ。
そして私は今、おばあちゃんがいなくなった世界を生きている。
ある本を読んで、愛とは一緒になることだという言葉に出会った。
満たされる、ということは一緒になるということ。
人を愛している時、自分の幸せ以上に相手の幸せを願う時。
それは全部「あなたと私は一緒です」という意味なんだそう。
小池さんは夫のことを“かたわれ”と呼ぶ。
大切な人を失う時、身体の半分をごっそり引きちぎられる“あの感覚”は、あながち間違っていない表現なんじゃないかと最近思う。
この本は、全ての大切なものを失った人に読んでほしい。
背中を押されたり、前を向こう!なんてメッセージは何ひとつない。
あなたがいなくなって、ただ、ただ、悲しい。
この悲しみに正面から向き合って紡がれた言葉たちは、だけどどんな
ものより胸に沁みた。
Written by あかり
アラサー女
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