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心を許したたった一人の友人には知らないもう一つの顔があった 【影裏】

影裏_読書記録ブログ用


【本の基本情報】
〇ジャンル:小説・日本文学
〇本の種類:文庫本
〇著者名:沼田 真佑
〇出版社:文春文庫

■「影裏」を読んで

本作は、芥川賞受賞作品です。
著者は、沼田 真佑さん、この作家さんの本を読むのは本作が初めてでした。

まず読了後に思ったことは、人の心であったり、人間関係を表す言葉が独特で、微妙な関係を絶妙な言葉のニュアンスで表現してあると感じました。

人の心であったり人間関係というものは、実に微妙で繊細な部分です。そういった部分を繊細な言葉で書くことで、はまる人にはぴったりとその感覚がはまるのではないかと思いました。

■親友のもう1つの顔

本作の主人公である男性は、安心して友人と呼べる関係の人がいない。そんな毎日を送っている男が、ある男と出会い釣りを通して段々と友人関係へと進んでいきます。

それはやがて親友と呼べるような関係になっていたのですが、ある日突然その親友は姿を消します。その時は敢えて探そうともしなかったが、やがてその友人が生きていないのではないかという噂を聞きます。その噂を聞いた男は彼の死を想像し、彼を探すために彼の親の元を訪ねます。しかし、そこで彼は意外な彼の話を聞くことになります。

父親の口から飛び出す行方不明の息子であるはずの彼への言葉。その言葉が彼を信頼している息子と思っていないような内容だったのです。しかも、もう息子ではないという事実まで飛び出します。

そして男は、親友の知らない一面を知ることになりました。男にとっては気の合う親友。しかし、知らないところで聞く彼の噂は男が思っているようなイメージとはかけ離れたもの。
その時、男は一体何を思い、彼のことを考えているのか。

■「影裏」を読んで!まとめ

本作品は、全体と通して周りの景色や人の心や感情、そして人間関係を実に繊細な言葉で表現されていると感じました。

本作品は、ストーリーに意外性や驚きと言ったものは感じられませんでした。普通の人間関係にある状況を繊細に描いたという感じです。結末でどんでん返し!などの展開はありませんが、なぜか人の心の変化や想像していることなどを綺麗な言葉を使って描き、そこに何を感じるかということが本作品の楽しみ方のような気がしました。様々な言葉で表現される人の心情など、読者がそれをどう感じ、どう解釈するか、そこに幅を持たせていると感じました。

この小説は何が言いたいのか分からないという方もいました。確かに、結末でこの小説はこういうことを言いたかったんだ!というような明確な表現はありません。だから読者自身が考える、想像する。色々な解釈で感想を言えるということになるのだと思いました。日常で誰もが経験する人間関係だから、読む誰もがその世界、状況を自分のことのように想像、イメージすることが出来る。そんな作品だと感じました。だから読了後には独特の余韻が残る。面白いという一言では締めくくれない作品だと思います。

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