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手紙


春がやってきました。そちらはいかがお過ごしでしょうか。私はさむさあつさに翻弄されながらも、街中から溢れかえる生命力に喜んでいます。

季節とともに、私自身が変わっていく実感があります。さながら、春はダンスのような季節だと思います。冬の瞑想の時期を終えて、さあ、考えていたことを行動に移して、全身で世界を感じる時がきた、と胸を躍らせています。

桜はいつ咲くのでしょうか、はやく咲いてほしいと思う反面、咲いてしまったあとでは散るまでになんとか時間をつくって見に行かねばならない、と考えると、すこし焦ります。

今日は妙見幸子さんの詩を読んでいました。妙見さんが十代の頃に書いた、みずみずしい青春の詩篇。恋の詩篇、そしてたたかいの詩篇。


歩いてくれませんか
寄り添って 人通りの多い道を
支えてくれませんか
横に倒れそうなこの私を
あなたのほかにも 歩いてくれる人はいるけれど
あなたでなくてはいけない日があることを
知ってください

妙見幸子「歩いてくれませんか?」『雪の花びら ―電動タイプでうたう―』大学教育出版より


人生を、ともに歩いていきたい相手がいるとして、そのひとをつよく希求する魂のありようを、ここまで純真にあらわした作品を、私はしりません。「あなたのほかにも 歩いてくれる人はいるけれど / あなたでなくてはいけない日があることを / 知ってください」こんなことばで迫られたら、くらっとしてしまって仕方がないですね。それほどまでに妙見さんは「あなた」を愛したのですね、そして、恋していたのですね。

妙見さんは、昭和33年に生まれました。この作品にも見られるように、脳性麻痺でした。この作品が収録されている『雪の花びら ―電動タイプでうたう―』は昭和53年に東方出版より出版されました。そして平成二十年、大学教育出版より新訂版が出ます。この詩集には等身大の青春を、そして差別や偏見や不自由にさらされ続ける日常を、精一杯生き抜く妙見さんの姿が、言葉として刻まれています。


歩いてくれませんか
寄り添って 冷たい視線の中を
支えてくれませんか
顔を背けそうなこの私を
あなたが初めて見るような街の冷たさの中で
毎日暮らすということの孤独さを
知っていてください

妙見幸子「歩いてくれませんか?」『雪の花びら ―電動タイプでうたう―』大学教育出版より


このような厳粛なことばの前で、私の語る言葉などすべて無意味なように思えてしまいます。どうか、この引用を見て琴線に触れた方は、新訂版を買ってください。オンラインで購入が出来ます。リンクを貼っておきますね。

最後に、私の好きな妙見さんの詩句を引用して、終わりにしたいと思います。私はこの詩を言葉についての詩だと思っています。私自身、人間として、また一障碍者として、言葉だけはかくありたいと思っています。


野に咲く花でいたい
踏まれても 踏まれても
咲くときが来たら かならず咲くような
そんな花に そんな花に なりたいの

温室のカトレアは
きれいでも きれいでも
北風が吹けば まっさきに枯れてゆく
弱い花よ こんな花は あわれです

妙見幸子「野に咲く花で…」『雪の花びら ―電動タイプでうたう―』大学教育出版より


妙見幸子さんについては、まだ語らなければならないことがたくさんあります。これからも少しづつ、書いていくつもりです。どうか、お見守り下さい。

(新訂版の『雪の花びら ―電動タイプでうたう―』の裏表紙には、うつくしい桜の絵が描かれています)

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