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千年の芹川

全部馬鹿らしい。あたらしいものはこれから始まるんだ。そう言って芹川はせせらわらった。歴史は人類の総意できまる、なんて傲慢だ、ぺっ。(あたらしい時代がはじまるときは、春の嵐のような轟音が鳴る、桜が、散る、ちる。いっそのこと俺がひとつの花となるような、そんな生き方を模索する、俺はひとつのダンスである)


ああ、全部馬鹿らしい。あたらしい倫理がこれから俺の手のひらの中に育まれる。そう言って芹川はせせらわらった。そのしゅんかん、葉っぱの出はじめた桜の枝が風にさらわれて、花びらがカーテンのように散った。


「これ! これだよこれ!」
「俺が求めているのは、古い倫理の刷新!」
「うつくしいものはこうやって始まるんだよ!」


芹川はわらった、地のゆれるようにわらった、都美子にも世音香にもなれない芹川は、みずからをひとつの舞台とすることに命を懸けた。細胞が踊る、黒髪がゆれる、手足がわらう、ヘソが遊ぶ、美しい生存とはこういう踊り方をするんじゃボケえ! 芹川は都美子とひとつになりたいと思っています。


全部馬鹿らしい。訪れるのはあたらしい感受性、そしてそれは遠いところから来る。滅亡なんかしてやらねえ、俺はあたらしい子種をこの地に下ろそうと思ってるんだよ。わかるか? わからんでもいい、俺が向かいゆくのは遥かなる旅路、俺は求められた者として、千年よりも遠い旅路を歩いてきた人類だ。


あはははははは! 芹川は抑えられない衝動に大笑いします。そうなのです、この世は大笑いに値するほどに美しかったのです。とりわけ春の日は、すべての景色が百億の名画にも勝るぜ、芹川は自身が体を持って生まれたことを心より嬉しく思います。男根も喉仏も、すべてがダンスに繋がるものだと信じて! あはははははは! 芹川が歩いているのはあたらしい倫理の上です。誰にも理解されないまま散っていく花の上です。全部馬鹿らしい、全部馬鹿らしい! 芹川はすべてのものを嘲笑しようと思っています。そして憎悪されながら千年生きるつもりでいます。


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