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一生忘れられない体験をした、この先のことを知らないおっさんの話

昇進し仕事に精進

産まれ来る子供の為にも、自分の為にも、僕は会社で昇進。
日々めちゃくちゃ忙しいながらも、充実していた。
前回の記事はこちら。


連載第一回はこちら。


いよいよ子供がやってくる

昇進してからの2か月は本当にバタバタと音がするくらいバタバタで過ぎていった。
チャイルドシートを買い、車に取り付け、赤ちゃん用の服やベビー布団などを夫婦で買う。
もはやお約束と言っても良い、夫がおしりふきを大量に購入し、奥さんに怒られるという通過儀礼も無事に終えて、出産予定1か月前の検診の日が来た。

検診前日。
僕は翌日を休みにするため仕事に追われ、気づけば帰宅は明け方になっていた。
シャワーだけ浴びて、ベッドに入る頃には外が明るなっていた。
奥さんのお腹を間違っても寝相で蹴ったりしないように追加で買ったベッドに寝転んだ
次の瞬間には日が昇り切り、検診の準備をした奥さんがベッド横に立っていた。
朝9時。実質寝ているのは3時間もない。
眠い。
ベッドが「まだ行かないで~」と甘く誘惑している。
奥さんも僕の夜が遅かったことは知っているので「きょうは一人で行ってくる」と言った。
正直誘惑は強い。

しかし、僕は5分後には奥さんを隣に乗せた車を、産婦人科に向けて走らせていた。
検診には必ず付いていくと決めていたのは、勿論奥さんと子供のことが気になるというのもあったのだが、それ以上に出産という夫婦の一大イベントに自分が出来ることがあまりにも少ない負い目のようなものがあったからだ。
僕は体内に子供を宿すことも、腹を痛めることも出来ない。
出来ないならせめて病院に連れ添い、時間を共有し、一大イベントを一緒に作るくらいはしなければ、という半ば義務感めいたものがあったのだ。

そんなこんなで病院に到着。
このころはCOVID-19の影響で、診察室どころか待合室に入れるのも奥さん一人。病院の入り口で奥さんを下ろし、僕は駐車場に止めた車の中で待機する。これがいつもの流れだった。
この日も駐車場に車を止めて、車内で待つ。
妊娠発覚からこの日まで何度も通ってわかったが、この時間は、食料の買い出しには短いし、何をするにも半端なので、大体は溜まっている仕事を片付けるか、睡眠不足の時は少し寝るかだった。

嫌な予感

睡眠不足でいえば今日は思い切り睡眠不足。
少し寝かせてもらおう。
そう思いシートを倒して目を閉じる。
普段ならすぐに眠気がやってくるのだが、なぜか今日は目が冴えている。
中々眠れない。そのうちに雨が降り始めた。
フロントガラスをぱらぱらと雨が打つ。
その音も気になりだす。そうなると本格的に目が冴えてきてしまった。

仕方ない。
無理に眠ることもない。読みかけの本でも読みながら待つことにする。
それからしばらく経つ。
普段ならどんなに長くても1時間で終えて出てくるのだが、今日は1時間半経っても何の連絡もない。

頭の端の方から、嫌な予感が染みるように広がる感じだ。
じわじわと、でも着実に僕の頭は嫌な予感に支配され始める。
そんなときに、奥さんから連絡が入った。

「すぐに病院の中に来て」

そのメッセージを見た瞬間、僕は跳ね起きて雨の中を傘もささずに病院に走り始めた。



そして奥さんが傘を持っていないことを思い出し、走って一度車に戻って奥さんの傘を取って、再び病院に走る。

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