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連載更新 「コロナ以後の読書〜村上春樹読書会と聖地巡礼」 第1部 ⒍ 『海辺のカフカ』と同じく甲子園に魚が降った?

土居豊のエッセイ「コロナ以後の読書〜村上春樹読書会と聖地巡礼」
第1部
【コロナ前、村上春樹読書会で口角唾を飛ばしで議論し、大笑いしながら打ち上げの飲み会を楽しんだ】


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⒍ 「『海辺のカフカ』と同じく甲子園に魚が降った?」


※2015年の埼玉公演

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読書会で『海辺のカフカ』を取り上げる直前、まるで作品の場面が現実になったような出来事が報道されて、あまりの偶然の一致ぶりに驚かされた。それは、甲子園球場で空から魚が降ってきたという出来事だった。(注:2016年5月9日日刊スポーツの記事)
これは事件の場所こそ違うが、まさに「カフカ」の中で描かれた場面そっくりだったのだ。しかも、事件の場所が村上春樹にゆかりの深い甲子園球場で、さらに村上春樹が熱烈なファンであるヤクルト戦でこれが起きたというのは、わざとやったように出来すぎた偶然ではなかろうか。
もう一つ、奇妙な偶然だが、「カフカ」の読書会の少し前、世界的な演出家の蜷川幸雄氏が亡くなった。蜷川氏が舞台化した『海辺のカフカ』を筆者は観に行ったことがある。宮沢りえがヒロインを演じる舞台で、春樹自身も絶賛していた。ちなみに村上春樹がノーベル文学賞の受賞を取りざたされるようになったのも、「カフカ」が評価されてチェコの文学賞であるカフカ賞に選ばれたことがきっかけだった。この作品は、様々に現実世界に干渉して出来事を起こす奇妙なパワーを秘めているようだ。
さて、読書会での本作への反応は、この世界的に評価の高い小説について賛否両論だったのが興味深い。物語そのものはギリシャ悲劇を下敷きにした構成で理解しやすく、読んで混乱することは少ない。しかし、実在の商標であるカーネル・サンダースやジョニー・ウォーカーがキャラとして登場したり、猫を殺す残酷描写については受けが悪い。
一方、女性読者から圧倒的に支持されのは「大島さん」だ。家出した主人公のカフカ少年を保護する役どころで、女性読者の多くはこの謎めいた青年に惚れてしまうようだ。それについで人気が高いのが、謎の老人「ナカタさん」と彼を手助けする青年「星野くん」のコンビだ。この二人の道行きは物語の本筋と一見無関係にみえて、クライマックスの場面では大きな役割を果たす。
意外にも、ヒロインというべき佐伯さんについては読者の感想がバラバラで、あまり印象に残らないらしい。主人公のカフカ少年自身についても読者のイメージは賛否が分かれ、受け止め方は様々だった。この小説が世界数十カ国で広く読まれている理由の一つは、個性的な脇役たちの活躍ぶりにあるのかもしれない。


※2015年の埼玉公演

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(2)土居豊による、読みの視点〜読書会レポートや資料など


〈『海辺のカフカ』を読むために〉
1)登場人物で共感できるのは誰?
2)夢の中の出来事に、責任は生じるか?
3)父の予言は本当に的中したのか?
4)四国の山中にあったものの意味を考える

参考
『海辺のカフカ』書評の引用《「人を損なうもの」に抵抗してゆく  川上弘美
私自身はそして、この小説においても「人を損なうもの」の主題を強く耳に聞き取った。魅力的な登場人物「星野青年」「ナカタさん」の中に、「悪」への真摯な抵抗の力を見た。同時にこの二人の中に、私は「沈黙」の中では断罪されていた「無批判に踊る者」たちへの、ある種の許しと哀れみの視線をも感じた。星野青年は、決して最初から「悪」を憎むことを知っている者ではなかった。ナカタさんは元々「空っぽ」な存在だった。もしかしたら何も考えず「悪」に染まっていってしまったかもしれない弱い者たちが、善美への確信に満ちていない者たちが、どうやって「人を損なうもの」に対抗してゆくのか。
私は弱く、私は時に無批判だ。その私でも何かができるのかもしれない。そんな恩寵に満ちたメロディーを、私はこの物語の中に聞き取った。もっともっと、生きてゆきたい。物語を読んで、久しぶりにそう思ったのである》


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〈(報告)門戸寄席J:SPACE村上春樹読書会54回目〉


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土居豊:作家・文芸ソムリエ。近刊 『司馬遼太郎『翔ぶが如く』読解 西郷隆盛という虚像』(関西学院大学出版会) https://www.amazon.co.jp/dp/4862832679/