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運動部活動の地域移行と地域クラブ活動について

調べたものをアウトプットする場が欲しかったので、ここに吐き出そうと思います。

また、取り上げる文献としては、文部科学省及びスポーツ庁が発表しているデータと、体育学研究の論文を主とします。たまに違うものも入ります。

現在における運動部活動の目的とは

文部科学省. (2022).  学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン.

によると、部活動とは、


  • スポーツ・文化芸術に興味・関心のある同好の生徒が自主的・自発的に参加するもの

  • 目的

    • 体力や技能の向上

    • 異年齢との交流の中で、生徒同士や生徒と教師等との好ましい人間関係を構築すること

    • 学習意欲の向上や自己肯定感、責任感、連帯感の涵養に資するなど、学校という環境における生徒の自主的で多様な学びの場となること


とされています。が、文部科学省の言葉、ちょっと具体的でなく分りにくいです。そこで、以下の論文をピックアップしてみます。体育学研究では現時点で最も新しい運動部活動のレビュー論文ですね。

今宿裕, 朝倉雅史, 作野誠一, & 嶋崎雅規. (2019). 学校運動部活動の効果に関する研究の変遷と課題. 体育学研究, 64(1), 1-20.

上記のレビューでは、運動部活動の意義・効果として、以下の3点を挙げているので、ピックアップしてみました。こっちの方が、具体的でわかりやすいと思っています。


  1. 練習や試合で必要とされる資質・能力

    1. 自らの力で練習計画を立てたり、基本的技術を習得していく能力

    2. みんなで上手くなり、みんなが合理的にプレイできる

  2. スポーツ集団・ 組織を運営する資質・能力

    1. 仲間をふやしたり、クラブを育てていく組織運営の能力

    2. スポーツ集団の自治的能力

    3. みんなで参加して運営する

  3. スポーツの場・環境を整える資質・能力

    1. スポーツ施設の確保やスポーツを快適に行っていくための条件を広げ、あるいはその障害を克服していく能力

    2. スポーツの場・環境を整備・管理・共有する


を挙げています。これらの資質・能力を部活動によって獲得できたと生徒自身が感じれば、意義のある中学校3年間の部活動だった、と言えそうですね。

特に、僕個人としては、できるだけ多くの人が生涯スポーツとして死ぬまでスポーツと関わって欲しいと思っています。健康はお金で買えないですが、そんなにお金をかけなくてもスポーツを楽しむだけで手に入る確率がぐっと上がります。そして、幸福で豊かな生活を送るためには、健康な身体と心が無ければ難しいです。そうがん考えたときに、これらの資質・能力を獲得できていることは、非常に重要であると思うのです。

上記の資質・能力から運動部活動の地域移行を見たときに、いくつか不安なパターンが挙がったりします。

例えば、運動部活動の地域移行を地域のクラブチーム等にそっくり外部委託する場合、意義・効果の第1項の2しか満たせない可能性が高そうです。この方法は、行政や学校サイドとしては、一番負担の無いやり方だと考えられますが、果たしてそれは学校教育の一環として行う部活動なのか?と疑問に思ったりしています。

また、生徒の自治により部活動を運営することを進める場合、スポーツの専門性のある指導者が必要なのではなく、生徒の自主性や対話的な話の進め方が上手にできる、スポーツに明るいファシリテーター役が必要だと思われます。そんな人間が地域に眠っているのか!?という不安がありますね。

何より、地域移行の大きな壁のひとつが、部費ですが、果たしてスポーツ競技の専門スキルの指導以外の、ファシリテーターの役割に理解を示してくれる保護者がどれだけいるのか…?不安しかないですね。

運動部活動に所属している中学生について

では、運動部活動に所属している中学生は、実際どう感じているのでしょうか。そもそも、中学生のための運動部活動ですので、彼ら/彼女らの思いを無視して話を進めるなんて、ちゃんちゃらおかしいですしね。もちろんスポーツの文脈からしても、プレーヤーズセンタードが求められていますね。

令和4年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果によると、男子生徒の72.8%、女子生徒の56.4%、全体では64.8%の生徒が運動部活動に所属しています。かなり多くの生徒が運動部活動に所属していることが分かりますね。

運動部活動等への所属

では、その中学生はどんなことを運動部活動から感じているのでしょうか。2017年に実施された、実態調査からいくつかデータをピックアップしてみましょう。

平成29年度運動部活動等に関する実態調査報告書(平成30年3月):スポーツ庁 

運動部活動に所属する目的としては、

  1. 大会・コンクール等で良い成績を収める

  2. 体力・技術を向上させる

  3. チームワーク・協調性・共感を味わう

のTop3となっています。

運動部活動に所属する目的(単一回答)

では、実際に部活動を行って良い点は?というと、

  1. 体力・技術が向上している

  2. 友達と楽しく活動できている

  3. チームワーク・協調性・共感を味わえている

がTop3であり、時点も「仲間が増えた」ということで、部活動というコミュニティを楽しんでいるように捉えられます。

部活動を行って良い点(複数回答可)

では、実際に指導を受けてどうだったかというと、「指導がわかりやすい」と「体力・技術が向上している」の2点がトップになっています。意外だったのは、もっと専門的な技術指導が受けたいや、厳しい指導などが比較的少なかったことです。

顧問や指導者の指導を受けて感じていること(〇は2つまで)

上記3つのデータから、運動部活動に所属している中学生の全体的な傾向として想定される実態としては、何が何でも勝ちたいという、勝利至上主義的な、貪欲な運動部活動像というよりも、「勝つことを目指す!」という共通目的を持った”仲間”と日々の部活動を行う過程に楽しさがある、という捉え方ができそうです。

その一方で、運動部活動に所属する際の、ネガティブな面に触れると、その主だったものは、「部活動の時間・日数が長い」ことに集約されそうです。生データをいじっていないので、何とも言えませんが、比較的数値の高い

  • 眠くて授業に集中できない

  • 学業との両立

  • 体がだるい

の説明変数として、「部活動の時間・日数が長い」を置くと、因果関係がありそうです。

ただ、4割以上は「特段の課題や悩みはない」としていますので、多くの生徒にとっては適切なのかも知れません。

部活動や学校生活の悩み(複数回答可)

運動部活動に所属していない中学生について

逆に、運動部活動に所属していない生徒はどんな実態なのでしょうか。

文部科学省. (2022).  学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン.
においても、新たな地域クラブ活動の参加者として、


従来の学校部活動に所属していた生徒はもとより、学校部活動に所属していない生徒、運動や歌、楽器、絵を描くことなどが苦手な生徒、障害のある生徒など、希望する全ての生徒を想定する。


としています。すなわち、現在運動部活動に参加していない約35%の生徒にも目を向ける必要があります。

平成29年度運動部活動等に関する実態調査報告書(平成30年3月):スポーツ庁 
によると、

  1. 文化部やその他の活動(趣味等)を優先したい

  2. 運動・スポーツは苦手でやりたくない

  3. 学校以外のスポーツクラブに所属している

  4. やりたい運動部がない

が挙げられていました。スポーツ分野からすると、2と4については問題に思われます。

運動部に所属しない理由(単一回答)

2については、発達障がいや運動の苦手な子どもが、幼稚園から中学校までの様々な身体活動の中で、たくさん失敗を重ねて苦しんできた結果かも知れません。問題ですね。

4については、現在稲敷市内の中学生の中で、スケートボードはかなり流行しています。オリンピック種目にもなりましたし、文部科学省の地域移行ガイドラインのなかでもアーバンポーツを取り入れる等が示されています。ですが、周りの対応を見ると、スケートボードを禁止の方向に持って行く、そのような動きが多く見られます。スポーツ権やスポーツの多様性から考えると問題ですね。

では、運動部活動に所属していない生徒は、どんな運動部活動だったらやってみたいと思うのでしょうか。

  1. 好きな、興味のある種目を行うことができる

  2. 自分のペースで行うことができる

  3. 友達と楽しめる

  4. 練習日数、時間がちょうどよいくらい

がTop4として挙げられていますね。

どのような条件があれば、運動部に参加したいと思いますか(複数回答可)

地域クラブ活動を担当する場合には、この4点を押さえられる活動にしたいですね。

どんな運動部活動がベターなのか

菊幸一. (2018). 学校運動部活動 「問題」 の行方: 過去・現在・未来. In 日本体育学会大会予稿集 第 69 回 (2018) (pp. 8_1-8_1). 一般社団法人 日本体育学会.(pdf直リンクになっています)

上記のシンポジウムの中で、運動部活動の地域移行に関する検討会議の中で「部活は楽しみ志向をもっと前面に出すこと、さらに学校を超えて教育の論理を大きく捉えて、学校と地域と保護者の連携による中でこそ、部活の持続可能性が図られる」と合意に至ったと述べています。

そのため、スポーツの楽しさを軸において、どんな運動部活動がベターかを議論する必要があると考えます。

深見英一郎, & 岡澤祥訓. (2016). 運動部活動における目標設定, 勝利志向性, 意見の反映度の実態並びにそれらが生徒の満足度に及ぼす影響. 体育学研究, 61(2), 781-796.

上記論文は高校生の運動部活動が対象なのですが、平成29年度運動部活動等に関する実態調査報告書(平成30年3月):スポーツ庁 では中学生と高校生でそれ程大きな違いが無いことから、根拠は無いですがそのまま紹介することとします。

また、紹介する表は、上下で度数を比較するのではなく、楽しい度数と苦しい度数の比で比較するのが妥当だと思われます。

まず、運動部活動におけるチームの勝利志向性と生徒の満足度の関係ですが、楽しい度数と苦しい度数を比較した場合に、最も楽しい度数が高かったのが、「ある程度勝つことを中心に楽しむ」でした。上の中学生の実態でも挙げたように、中学生は勝利を目指す過程を、仲間と楽しんでいるようでした。

そして、生徒の意見が「とても反映されている」部活動が圧倒的に苦しい度数が低く満足度が高かったです。

そのため、現在運動部活動に所属している生徒や、今後同様に運動部活動に所属したい生徒にとっては、

  • ある程度勝つことを中心に楽しむ

  • 生徒の意見がとても反映されている

の2つを押さえた運動部活動を設計することがベターだと考えられますね!

ただし、現在運動部活動に所属していない生徒の場合は、この通りでは無いです。

地域移行に伴う指導者の問題について

最後に、地域移行で大きな問題となっているのが、地域の指導者不足です。ですが、誰でもいいから指導者をやって欲しい!とはとても言え無さそうな現状です。

亀井誠生, & 岡本直輝. (2022). スポーツ指導場面における暴力に関わる指導者のパーソナリティ. 体育学研究, 67, 929-945.

これは、大学生に、高校生の時の部活動を振り返ってもらったものなので、またまた中学生にはあてはまりませんが、非常に参考になると思いまして。

以下の表の一番右下「指導者の役割」を見ていただくと、暴言に悩んだ経験は、専任監督・コーチに有意な関連があります。すなわち、いわゆる外部指導者の方が暴言が多い傾向にあるということですね。

指導者の暴言と生徒・指導者カテゴリ比較

また、指導者がどんな性格だったかを思いだして、大学生にBig Fiveの性格特性を評価してもらった結果、4つに分かれたそうです。

指導者のパーソナリティのクラスター分析結果

そして、体罰や暴言との関連を見てみると、クラスター2「統制過剰(O)型」と「統制不善(U)型」が、体罰や暴言をする傾向にあるようでした。

指導者のパーソナリティと体罰・暴言

パーソナリティの分析は僕ではできませんが、外部指導者は暴言の心配があること、問題のある指導者を弾くために、あらかじめスクリーニングができる可能性がありますね。

本当に中学生にとって良い部活動地域移行と新しい地域クラブ活動になれば良いのですが…。場当たり的に進まず、しっかり対話しながら進められたら嬉しいですね。

それではー!

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