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長夜の長兵衛 七十二候シリーズ <短編小説>

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長夜の長兵衛 二十四節気シリーズに続き、七十二候のシリーズです。 短編の連作です。読み切りですので、どこからでも、お読みいただけます。全部地の文で出来ているこの世界は、一体いつ、…
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2024年1月の記事一覧

長夜の長兵衛 鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)

明告鳥  手拭いを桶に浸しては絞る。もう幾度となく繰り返しているのだが、熱うなった額が、…

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長夜の長兵衛 水沢腹堅(さわみずこおりつめる)

氷の声  銅十郎の手が、氷柱を折りとった。このところ背丈が伸びて、高いところにも届くよう…

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長夜の長兵衛 款冬華(ふきのはなさく)

寒稽古    すこ。矢は、的から大きく逸れて、脇の土 ー安土ー へ刺さる。  ざざ。手前で…

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長夜の長兵衛 雉始催(きじはじめてなく)

雪兎    足跡一つない雪の上を歩いてみたくなり、久兵衛は長兵衛に合図すると、山道を右の…

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長夜の長兵衛 水泉動(しみずあたたかをふくむ)

垂り雪  お社さんの境内では、持ち込まれた注連飾りやらが囲いの中へ積みあげてある。火がつ…

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長夜の長兵衛 芹乃栄(せりすなわちさかう)

寒芹  たらふく食うて寝たのであるが、粥はとっくにこなれてしもうた。  いつもの朝より一…

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長夜の長兵衛 雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)

福寿草   お社さんへ一礼すると、鳥居をあとにした。  小さな川のあちら岸を鴨が、てぼてぼと歩む。つがいが寄ってきて、水紋がうまれる。  飛び石に大きく影がかかる。おお、長兵衛さん。  源兵衛が手招きをしている。ほれ、蕾が。福寿草です。元日草とも申しますな。  これも、染まりましょうか。  長兵衛が問うと源兵衛は笑う。反物屋の大旦那は、早々に隠居して道楽の染め物をしておる。  毒がありましてな。染めに使ったことはありません。  長兵衛は、雪をわけ伸ばしていた手を引く。