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長夜の長兵衛 水泉動(しみずあたたかをふくむ)


垂り雪しづりゆき


 お社さんの境内では、持ち込まれた注連しめ飾りやらが囲いの中へ積みあげてある。火がつけられ、ひとびとの煙をいただこうとするのに習い、銀兵衛も掌をまあるくする。あたまに、こう、あたまにいただいたら、金兵衛さんのようになれるであろうか。
 わあっとはなやいだ声があがって、どこぞの坊が投じた書き初めが、よう燃えあがったらしかった。これで字が上手くなろうて、良かったの。

 いぶされた藁の匂い、舞う火の粉。炎をとおすと、あちら側に別の世があるように思われる。
 ざわめきが消えてゆく。まあるくしていたはずの手が、だらり、降りて、炎の韻律にあわせて肩が、腰が揺らぎ。
 かげろうて、うつろうて、ゆらりゆらゆら、鬼さん、鬼さん、手のなるほうへ。

 どう。
 ひとびとが振り返り、銀兵衛も音のほうへ体ごと向く。視界は広がって鮮やかな白を映し出した。

 軒下へしづった雪のかたまりの横で長兵衛が手を上げてみせる。
 いやはや、危ないところであった。

  

<了>


pixabay by Luminas_Art


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左義長
祝い棒の一種である毬杖ぎちょうを三本建てた三毬杖さぎちょうから起こった呼称といわれている

新日本大歳時記〈新年〉 講談社

 左義長、という言葉があるのをはじめて知りました。わたしは出雲地方の生まれでして、「とんど」と呼びならわしました。調べていて「歳徳神」が、櫛名田比売(くしなだひめ)と同一という記載もあり、出雲方面の風習が発祥とwikiにありました。
 長兵衛を書いていなかったらきっと知らずにいたことでした。

 

 こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
 また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
 長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。

 


お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。