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長夜の長兵衛 水沢腹堅(さわみずこおりつめる)

氷の声


 銅十郎の手が、氷柱つららを折りとった。このところ背丈が伸びて、高いところにも届くようになったものとみえる。太い方を握り、細い方を口の中へ入れる。
 うまいか。尋ねると、坊はにかっと笑う。
 長兵衛は小さめのやつを折り、同じようにする。
 
 おばあには、こいつの声が聞こえるんだ。
 怪訝な顔の長兵衛に向かって、坊はもう一度にかっと笑う。
 沢に氷が張った、軒に氷柱ができた、っていつもおばあが教えてくれる。
 おとうもおっかあも、おばあには氷の声がわかるんだ、って言うよ。あにいもおねえも、おれも、どんなに耳をすましたって聞こえやしないんだ。でも外へ出てみると、そのとおりになってる。
 おばあはもう耳が遠いし、目も薄いのにな。すごいだろ。おれもそんなふうになりたいって言ったら、銅十郎、おまえ次第だよって。だからせっせと氷柱を食うているんだけどなあ。

 溶けそうな欠片を噛み砕くことはせず、長兵衛はじっと心を澄ましてみる。
 

<了>
 


pixabay by  LiMa74


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 また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
 長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。

 


お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。