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23.たばことがん

ずいぶん昔の話ですが、とある獣医から、「飼い主がたばこを吸っていると、イヌがメラノーマになる」と聞かされたことがあります。当時、メラノーマという病気の名前さえ知りませんでしたが、なぜかそのフレーズだけはずっと頭の隅っこにこびりついていました。メラノーマというのは皮膚や粘膜にできるがんの一種です。

ここ2,3年の間に知り合いのイヌが、どちらもラブラドールですが、鼻の奥にできたメラノーマで亡くなりました。2頭の飼い主はどちらも愛煙家でした。

ヒトもイヌも、鼻の奥に「嗅上皮(きゅうじょうひ)」と呼ばれる粘膜で覆われた部位があります。嗅上皮には嗅細胞が並んでいて、外からいろいろな分子成分が付着すると、その細胞にある嗅覚受容体から嗅神経を通って脳に信号が送られ、いろいろなにおいとして識別されることになります。これが嗅覚という知覚作用です。
イヌはヒトよりもその嗅上皮が発達していて、その表面積は5~50倍、嗅覚受容体の数は30~50倍あり、そして嗅神経も5~50倍あると言われています。
この数値比較から考えると、成分の補足能、つまりいろんな成分を嗅細胞に侵入させる機会も、イヌはヒトよりもかなり高いのは間違いないと思うのです。

国立がん研究センターは、たばこの煙に発がん性物質と認定された化学物質が相当数含まれていることを明らかにしていますし、また、たばことがんに関する多くの論文では、それらの化学物質が細胞内のDNAを傷つけることが細胞のがん化を促進する、と結論付けています。

もちろん、イヌの鼻のメラノーマとたばこの副流煙の間にはっきりとした因果関係があるのか、私は、そのエビデンスは持ち合わせていませんが、相当数の発がん性物質を含むたばこの煙が、嗅上皮の補足能の高さがあだとなってイヌたちの嗅細胞を傷つけ、結果として、鼻のメラノーマを引き起こす、その可能性は高そうですよね。

私も、かつてはヘビースモーカーでした。喫煙をやめないのは「自分の意志が固いから」と主張したり、「たばこはカラダにいい」という怪しい研究結果を言い散らしたり、と、それはそれは認知的不協和(正しいことを正しいと認めたくない時に起こる脳の混乱状態)の極みだったのです。頭で理解していたことを情欲が拒否していたんですね。

もし30年以上前のあの時に喫煙をやめられていなかったら、「イヌの健康長寿」を口にすること自体、かなり抵抗を感じていたかもしれません。


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