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地域を守るために今やっておくこと  白浜地区の取り組み

今回は、防災士の的場光江さんが白浜地区での防災の取り組みについてお話してくださいました。
自主防災会の活動を通して気づいた課題に対して、具体的に行った対策、その結果について、日本防災士会での学びを交えて紹介。
グループディスカッションを通して「今やっておくこと」の確認や課題について参加者全員で共有しました。

災害の「想定外」を想定しておくこと


災害には、予測できないもの(地震、原子力災害)、予測できるもの(台風、大雨、高潮、洪水、大雪)、ある程度予測できるもの(土砂災害、雷、津波、竜巻、火山噴火)があります。

南海トラフ巨大地震は「起こるかもしれない」と思っている人がいますが、過去の歴史から見ると必ず起こります。
 八幡浜市の最大震度は6強
 八幡浜港 津波到達時間は51分、最高津波水位は9m

土砂災害や浸水箇所の多くは、ハザードマップに記されているところで起こると言われています。
しかし、東日本大震災のとき大川小学校は津波浸水想定区域に入っていなかったことから、たくさんの児童の命を失ってしまいました。

ハザードマップはあくまで仮の目安。過信してはいけません。
想定外のことがあることを想定しておくこと」が大切です。

8月19日(金) 16:00~18:00 八幡浜みなっと・みなと交流館 会議室


自主防災会の活動を通して気づいた課題と対策

1. 防災訓練にも「非常用持ち出し袋」を

🔹課題
市の防災訓練に「非常用持ち出し袋」を持って参加する人がほとんどいませんでした。
訓練のたびに避難袋を携行して参加する習慣をつけていないと、いざというときに避難袋を持って逃げられません。

対策
自主防災会自らが手本になるよう、避難袋を背負って避難訓練に参加しました。
チラシに「非常用持ち出し袋を背負って避難訓練に参加」と明記し、住民に呼びかけました。

➡➡結果
袋を準備して避難訓練に参加する住民が増えました。

備蓄品と非常用持ち出し袋
【備蓄品】
自宅で避難生活をする場合の数日分の準備食料7日分、水(生活用・飲料用)1日3ℓ×7日分、トイレ対策(トイレットペーパー、ゴミ袋)、電気・ガスの代用品など
【非常用持ち出し袋】
安全な場所へすぐ避難できるよう必要なものを事前に準備しておく袋。
避難所や友人宅などにそのまま持参して避難生活できる

Q.非常用持ち出し袋は家族に1つでいいの?
A.家族それぞれに必要な着替え、衛生品、貴重品、非常食・飲料、救急用品、リュック、ヘルメットなど、アイテム・量ともに多いので、家族で袋1つでは足りません

Q.非常用持ち出し袋の準備だけでいいの?
A.外出先、旅行先での被災も想定し、マイバッグ、車中、職場や学校にもミニ防災グッズ(携帯トイレ、モバイルバッテリー、消毒液など)を準備しておくと安心です

Q. 避難袋や備蓄がなくても、市が準備してくれるでしょ?
A. 公的備蓄の食料・飲料の備蓄はわずかです。
南海トラフ巨大地震では、被災範囲が広範囲となることが予想でき、支援物資が行き渡らない可能性が高いので、非常用持ち出し袋と備蓄は必ず準備しておきましょう。

2.ハザードマップはどこに?


🔹課題

ハザードマップには「土砂災害」「洪水」「高潮」「津波」の4つ(他にも「原子力災害住民避難計画」)がありますが、それぞれ市から配布される時期が異なります。
そのため必要なときにどこに保管したかわからなくなってしまったり、目の悪い高齢者にはハザードマップが見にくいため、自宅の危険性を把握できていない可能性が高いです。

対策
「わたしの避難カード」(情報を一つにまとめた個別避難計画)を作成しました。
ハザードマップを元に、たくさんの項目の中から自分でチェックを入れるようになっています。

市や地区の防災訓練時に、ハザードマップを見ながら一緒に作成し、持ち帰ってもらいました。
黄色のA3サイズの紙で角に穴があけてあり、非常用持ち出し袋と一緒に保管できるように工夫しています。

近隣の気になる人の名前を自主的に記入できるようになっています

3.要支援者名簿の支援者欄には誰を?


🔹課題
要支援者名簿の支援者欄に、防災士や民生委員の名前を記載していることがありました。

防災士と民生委員が要支援者宅を家庭訪問した際、「身内が近くにいないから、あなたに助けに来てほしい」と言われ、名簿に名前を記載して市に提出してしまっていたためです。

東日本大震災では助けに行った防災士や消防団が犠牲になった例もあります。
防災は自助(自分の命は自分で守る)が基本。
隣近所なら助けられるかもしれませんが、「助けに来てくれる」と期待させてしまっていないでしょうか?

➡対策
まずは支援者側の防災知識を向上させるため、自主防災会、民生委員、社協、防災士向けに学習会を開催。
実際は助けに行けないかもしれないことを伝え、「要支援者の自助を手助けするために平時のうちに何ができるのかを考え、できることを今のうちにやっておこう」と訴えています。

防災対策の基本は、
① 自助:住民一人一人が自分の命は自分で守る
② 共助:地域住民が連携して町の安全はみんなで守る
③ 公助:行政が災害に強い地域の基礎整備を進める

平時の自助
ハザードマップ、避難経路の確認、家の耐震化補強、備蓄品・非常用持ち出し袋の準備など
発災時の自助
自分と家族の身の安全の確保、主電源を切ってから安全に避難

自分の命をまず守ること。これが最も多くの人が助かる方法です。
要支援者にとっても、支援者にとっても、自助が最も大事
平時のうちに要支援者の自助をサポートしていくことが大切です。

4.高齢者の意識


🔹課題

高齢者から「もう死んでもいい」「私は助けてもらう立場だから」という言葉を聞きます。
「死んでもいい」とは言うけれど、いざという時には「助けて」と言いますよね?
あなたの声を聞いて助けに入る人の命について考えたことがありますか?
みんなが助かるためには、自分も助かる努力をしましょう。

➡対策
発災時の二次災害の可能性について高齢者と話しをしたり、公民館のお知らせにコラムや漫画を掲載して広報活動しています。
避難訓練に参加できない人向けには出前講座を開催。

〇日ごろから「自助」と「共助」に務めておくことが大切
自助
発災時に元気に避難し、健康な避難生活が送れるように、普段から健康の維持、増進に気をつけ、薬のローリングストック、履きなれた運動靴の準備、部屋の片づけ、家の修繕・補強などをしておく

共助
普段から仲良くして、いざというときに声をかけてもらいやすいように、地域のコミュニティーを大切に。家への浸水や避難経路でのけが防止のため、溝や道路の清掃をしておく

〇普段から健康に気をつけておくこと
災害時はけがをしない、持病を悪化させないことが大事です。
大災害時、病院では命の選別をするので、けがや症状の軽い人は後回しになったり、帰らされたりすることがあるからです。

〇発災時はまず「自助」それから「共助」。「近隣」がキーワード
防災士の誕生は、1995年の阪神淡路大震災がきっかけです。

阪神淡路大震災で生き埋めや建物に閉じ込められた人のうち、95%が自力または家族や隣人に救助され、公的機関に救助されたのはわずか1.7%でした。

公的機関や道路も被害を受けるため、すぐには救助へ向かえません。
警察、消防、自衛隊が救出した半数は亡くなっています。
災害発生から24時間以内の救出は生存率が高いです。

平成30年7月豪雨災害時に、土砂災害で避難した、しなかった理由に、「隣人等からの声かけ」「隣人住民が避難していなかった」というのが多いことからも、「近隣」がキーワードであることがわかります。
遠くの身内、友人、消防団員、防災士、民生委員より、お互いをよく知る近隣で助け合いましょう

5.発災時の避難所の開設や運営


🔹課題

発災時には防災士が避難所を運営するの?
開設や運営はどのようにするの?
防災士の役割とは?
 
➡対策
避難所運営訓練(HUG)をまずは防災士だけで実施しました。
その後、地域の防災訓練で住民とともに実施。
机上のHUG訓練を台本を元に実際に住民が動いてシュミレーションしました。

➡➡結果
防災士だけでなく住民が主催となった運営であることに気づき、避難所運営マニュアルを熟読することで開設までの流れを知ることができました。
マニュアルを班ごとに作成し、各班の中で何が必要なのかを考えてもらうきっかけになりました。

6.避難所受付時の混雑への対応


🔹課題

避難所の受付時には疲労している避難者が多い上、コロナ対策のための検温や問診にも時間がかかります。
避難所での受付の混雑はどうすればいいでしょうか?

対策
「いのちのカード」を作成し、避難時に携帯してもらうようにします。
「いのちのカード」を身に付けていれば、意識がなくても身元がわかり、持病や薬が記載してあるのでカルテの補助にもなります。
代理の人が記入することもできます。

7.住民の防災に対する興味や知識の程度


🔹課題

住民は防災に対してどの程度の興味や知識を持っているのでしょうか?

➡対策
八幡浜市の防災訓練の日に集まった住民にアンケートを実施し、白浜地区の防災訓練で結果報告を行いました。

防災に「興味がある」場合には、学習会の開催や防災士養成につなげます。
防災の知識の程度によって、地区にとって必要なものは何かを考え、防災への意識づけ、人材の活用につなげます。

➡➡結果
「わたしの避難カード」の作成、防災学習会の開催、防災士の増加、家具の固定グッズの販売などにつながりました。


8.コロナ禍での訓練の必要性


🔹課題

コロナ禍で訓練をやる必要性があるのか?

➡対策
コロナ禍の時だからこそできる訓練があります。
まずは自ら感染症について正しく学び、感染症対策の方法を知ること。
受付での避難者の振り分け方法、ハイター消毒液の作り方、マスク消毒の仕方、避難所設営の展示などを知ってもらう必要があります。

➡➡結果
体験型から展示メインになり、地区ごとの時間割で人が集中しないように対策。感染対策の展示もできました。

9.ペットの避難の可否


🔹課題

ペットは避難できるの?
ペットの受付方法は?
ペットが迷子になったら?

対策
ペット防災管理資格を取得し、ペットの同行(同伴)避難訓練を行いました。
ペットも避難していいことを伝え、受付方法やあずけ方の注意点を学びました。
獣医によるマイクロチップ埋め込み術(無償)やクレート講習訓練なども行いました。

➡➡結果
ペットと避難訓練に参加する住民が増えてきました。

10.防災士不在の地区がある

🔹課題
ミニ防災訓練が充実している地区とそうでない地区があります。
訓練の内容がいつも同じでマンネリ化していたりすると、参加住民が減る原因になるのでは?

対策
防災士が集中して多い大平地区から他の地域に派遣しました。
各地区の主事、館長と連携して、「わたしの避難カード」の普及や、「地区のことは地区の住民にしかわからない。地区に防災士を!」と繰り返し伝えました。

➡➡結果
防災士のいなかった地区に新たに防災士が誕生
さらに防災士を派遣することで、防災士としての自覚の再認識と、リーダーシップの発揮につながりました。

11.災害用簡易トイレの安定性


🔹課題

簡易トイレはプラスチック製段ボールなので軽く、組み立てや持ち運びは簡単ですが、安定性がないのでトイレごと転倒して、人も周りも排泄物で汚れてしまいます。

移設可能な簡易トイレ

➡対策
トイレの重要性について学び、手すりを作りました。
緊急トイレ用に必要な凝固剤、トイレットペーパー、蓋つきのゴミ箱を購入しました。

手すり付きトイレ

〇水や食料よりも早く必要なのは携帯トイレ
備蓄や避難所設営は、第一にトイレのことを考えて!
70~90%の人が地震発生後6時間以内に、約半数が3時間以内にトイレに行きたくなります。
自宅や避難所開設後すぐにトイレ対策を!

トイレ環境が悪い(臭い、汚い、暗い、遠い、段差、男女兼用)と、食べない、飲まないことになり、そのために病気にもなりやすくなります

下水道が仮復旧するまでには3カ月かかります!

〇簡易トイレや洋式便器に携帯トイレを組み合わせるとよい
携帯トイレ:袋と凝固剤がセットになったもの。尿専用と便器に取り付けるタイプがある
簡易トイレ:便器があるトイレ。袋などは付いていない

「日本トイレ研究所」のサイトにおすすめの携帯トイレが紹介されています

携帯トイレは、1人×5~7回×最低7日分必要 (1回の尿量200~400㏄)

スフィア基準(人道支援と質と説明責任の向上を目的とし、支援活動を行う人たちに向けて書かれた国際基準)によると、
・共用トイレは最低20人に1つ
・住居と共用トイレの距離は50m以内
・内側から施錠可能。照明付き
・女性や少女が安全に使用。生理用品へのアクセスや処理に満足

内閣府のトイレの配慮すべき事項
安全性:トイレやトイレまでの明るさの確保、トイレの固定・転倒防止・施錠可能・防犯ブザー・手すり
衛生・快適性:トイレ専用の履物、手洗い用の水かウエットティッシュ、消毒液、消臭剤、防虫剤、天候の影響の対策、掃除道具
女性・子ども:男女別、生理用品用のゴミ箱、荷物置き場、子どもと一緒に入れる個室、おむつ替えスペース
高齢者・障がい者:洋式便所、段差の解消、設置場所、介助者も入れる個室
外国人:外国語の掲示物で使い方を表記
・その他:多目的トイレ、人工肛門・人工膀胱の装具交換スペース、幼児用の補助便座

避難所では発災時は携帯トイレやマンホールトイレを使用しましょう
仮設トイレが設置されてもバキュームカー不足で使えない可能性もあります
仮設トイレは和式トイレが多く、高齢者や子どもには不向きです
在宅避難できる人は家のトイレを使用できるように対策が必要です。避難所のトイレは使わないようにしましょう

12.発災時に住民が身を守れるか?


🔹課題

家具の補強や耐震、家具の固定は大丈夫ですか?
ホームセンターが近くになく、固定具を購入できない人もいるのでは?
家具の配置に問題はありませんか?
寝室から玄関までの避難ルートは確保できていますか?

➡対策
防災訓練やイベントで家具の固定補助具を販売する予定です。
西予市では、家具の転倒防止器具を購入・設置した高齢者、障がい者手帳持参者、15歳以下の子のいる世帯に補助金を交付しています。

まとめ

ディスカッションまとめ
「自分たちの命を守るために今、やっておくこと」
・まず自分で助かる
・自分のことは自分で備える
・備蓄に倉庫・納屋・空き家の活用
・備蓄は量もしっかり。周りの人の分も
・中学校の空き教室、空き家の活用
・周囲の人たちへの目配り、声かけ
・普段からのコミュニケーション
・公助をあてにしない
・ハザードマップを学ぶ
・避難路・避難所のチェック
・地域のメンテナンス
・訓練をする。新しい人の参加
・自助できない人への対応
・地域福祉との連携

いざというときにみんなが助かるためには、日ごろからの関係づくり災害を自分事化して準備をすること。
問題・課題に対して具体的にどうしなければいけないかを考えて、次のアクションを起こすことが大切です。

夜間訓練や要支援者、外国人対応の必要性、防災訓練など住民を集めるのは難しいという課題もあります。

大平地区では人を集めるために防災訓練でゴミ袋を配布しています。
住民が行って得して楽しくて防災も学べてよかった、と思える内容にしたらいいと思います。

私たちは、災害が起こるたびに同じ辛さを繰り返さないように学習しなければなりません。
過去の震災で亡くなられた方の命を無意味なものにしないように、地道に活動をしていきたいです。

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