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作品「うまれいずるもの」の解説

2021年撮影の「うまれいずるもの」から。
美しいけれど不穏な何かを感じさせるそんな作品もよいのではないか、という「そんな世界観」をどうぞ。

Photo by Margary/©DOCTRINE

概要

―白い繭が蠢き、柔らかな壁を突き破り、生まれ出ずるものは何か。
繭の内には暗黒の宇宙が広がる。
繭の外には光溢れる世界が広がる。
暗く淀んだ深淵で静かに生まれ出ずる日を待っていたもの。
悪意と不幸をばら撒く者か、希望をもたらす者なのか。
生まれ出ずるその瞬間まで無限の可能性を秘めている。
繭を切り裂き這い出す漆黒の蟲が光を浴びて翅を乾かす。
銀色の鱗粉を振り撒く冷たく白い蛾となって羽ばたいていった。
世界へと飛び散る鱗粉は幸いの欠片だろうか、或いは。

本編の写真集はいずれ発行するZINEにてご覧ください。
こちらで案内しています。

解説

白い繭の中には何があるのでしょうか。
本作は3つのテーマに基づき制作されました。

  1. 「生命が誕生に至るまでの過程」と「誕生したその後」

  2. 「閉塞」と「開放」

  3. 「テーマを有機的に束ねる理由」

1.「生命が誕生に至るまでの過程」と「誕生したその後」

Photo by Margary/©DOCTRINE

すべての生命には等しく無限の可能性が与えられます。
可能性は生まれる前とその後にそれぞれ備わるものです。言い換えれば先天的な可能性と、生き方によって備わる後天的な可能性。
例えば、善悪が先天的な属性として存在するとしたら。性善説・性悪説と呼ばれる概念がそれを表しているかも知れません。
生まれるその瞬間まで善・悪が鬩ぎ合い淘汰した属性を持ってこの世に現れるのだとしたら「生まれ来る子」を手放しで祝福することは恐ろしいと感じるでしょう。
繭の中に潜むのは悪意に満ちた醜悪な毒蟲かも知れません。
でも、最後の瞬間に善なる選択をしたならば違う可能性が生まれます。その結果として、美しい善の象徴として羽ばたくかも知れません。
しかし、生命の旅・生命の物語はさらに続きます。
生きていく上で必ずしも良いことばかりではありません。
今度は生きていく上で様々なものを吸収し、再び善・悪が形成されます。美しい姿でも悪意に蝕まれ狂気を孕んでいく可能性があります。
これは「善悪の葛藤」というかたちでわたし達が常に対峙するテーマです。生命には良いことも悪いこともすべてが「可能性」として存在しています。どのような選択をするのか、それは自由だし他者が強制できないものです。

2.「閉塞」と「開放」

Photo by Margary/©DOCTRINE

モデルを務めた透羽子さんは一児の母親です。
人生を生きていく過程で様々な経験や想いの中で変化を遂げながら「いまの自分」になり出産を経験していくわけですが、恐らくそこで最も大きな心境の変化を迎えたのではないかと想像します。
出産には希望があります、しかし苦痛や不安も伴います。
生命を育むという重圧(責任とも言い換えられます)のなかですべてを激変させる経験をしたでしょうし、同時に自由が奪われる閉塞感も味わったことでしょう。
それは繭に籠もり鬱々と耐え子への不安に怯える、また成長を体感するよろこびやまだ生まれてすらいない子の未来を思い描く希望、そういった様々な感情を繰り返し浴びていくことで「その日」を迎え開放されていきます。
そのような生命を育む者の「閉塞」と「開放」も今回のテーマには秘めています。

3.「テーマを有機的に束ねる理由」

Photo by Margary/©DOCTRINE

作品では生命のサイクルを繭と成虫として蛾の一生に喩えました。
正確には卵から生まれた幼虫が繭を作るわけですが、生物学的な正しさはまあいいでしょう。繭の中ではすべてが溶けてバラバラになり再形成されるのですから、それは死と新生ともいえるはずです。
また、透羽子さんは京都・東京の花柳界で活躍され現在は着物(和服)や小物を扱ったセレクトショップを展開しています。
そういったパブリックイメージを損なわずいかに作品に落とし込むかもテーマだったため、あえて「着物」を衣裳として選びました。
蝶や蛾の翅のように美しい質感の着物は絹から作られます。
その絹は蛾(カイコガ)の繭から作られます。
今回すべての要素は有機的に繋がっています。
そして、足し算の表現でなく引き算の表現にも挑戦しました。
あらゆる装飾的な要素を削ぎ落として表現する。そのためには衣裳を衣装として纏うのではなく、身体の一部のように纏える素養を持ったモデルでなければ成り立ちません。

Photo by Margary/©DOCTRINE

ちなみに、モチーフとした蛾はアメリカシロヒトリです。
とても儚げな真っ白で美しい蛾なので検索してみてください。ただ、繭は非常にざっくりとした雑な感じでギャップがあります。

今回は、よくありがちな「和風テイスト」ではなく、可能な限り「正しい和装」のきまりを守りながらアレンジしていくことをテーマにしていたため、ヘア&メイクアップおよび着付けサポートは正しい知見を備えた日野千秋さんに担当いただきました。
日本髪を結う際には崩れないよう梳き油(鬢付け油)で固めたほうが安心ですが、今回は撮影後に髪をすぐに崩せるように油を使っていません。
日本髪を結うのはとても時間を要します。完成した美しい造形物のような髪を解いてしまうのは寂しさと儚さが伴います。

この制作に携わった方の紹介

モデル

透羽子( @6bugubug )さん

15歳で京都の置屋に入り、舞妓として日舞、長唄、鳴物、茶道等の修行を積みつつお座敷を勤める。20歳で一度花柳界から離れるも、再度芸事の世界を志し江戸の地で芸者としてお披露目。様々なイベントやメディア露出など仕事の幅を拡げる。約十年の歳月を花柳界にて過ごし、引退後はモデル、芝居、パフォーマンス業に挑戦する傍ら、着物の着付け、スタイリングの活動も行う。

公式サイトより

公式サイト
https://www.ite-cho.com
凍蝶
https://itecho.stores.jp
大正ロマンカフェ
https://0taishor.wixsite.com/website

協力

ヘア&メイク:日野千秋( @c_chiaki_ )さん

企画・制作

DOCTRINE - SINISTER ALLIANCE -
公式サイト
https://sinister.heavy-rubber.tokyo


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