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11/2開催【先進セミナー】エストニア/ロシア周辺諸国におけるスマートシティトレンド  国家主導で進むスマートシティ戦略について イベントレポート

皆さんこんにちは!ドコモ・ベンチャーズです。
今回は2021年11月2日(火)に行われたイベント

【先進セミナー】エストニア/ロシア周辺諸国におけるスマートシティトレンド 国家主導で進むスマートシティ戦略

についてレポートしていきたいと思います!

本イベントでは、RouteX Inc. 代表取締役の大森様にお話いただきました。

・ロシアや旧ソ連諸国のスマートシティ化って具体的にどんなことが起こっているの?
・スマートシティ化への動きの中で、日本との違いは何?
・なぜ東欧地域でスマートシティ化が活発に行われているの?


こういったことが気になる方に向けた内容となっておりますので、ぜひご確認ください!

RouteX Inc.の取り組み紹介/大森様


まず、RouteX Inc. 代表取締役の大森 貴之様からご自身と企業としての取り組み紹介を行っていただきました。

<RouteX Inc. 代表取締役 大森貴之様>

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京都大学MBA在学中にスタートアップ・エコシステムを中心に研究し、2018年に学生起業としてRouteX Inc.を創業。
世界中のスタートアップのビジネスモデルやテクノロジーの分析を行っています。 

RouteX Inc.が掲げるビジョンとして・・・
誰もが世界を変える瞬間へ、革新を次々と
ミッションは・・・
情報の非対称性を無くし
スタートアップ・エコシステムに関わる
全てのプレイヤーのポテンシャルを開放する。

を設定されています。 

現在では、シリコンバレー、ロンドン、テルアビブ、モスクワなどの都市を中心にスタートアップ・エコシステムが発展しており、近年ではスタートアップ・エコシステムに関するランキングができるまでに普及してきています。スタートアップに対する投資額や支援機関の数、スタートアップの成長率などの観点からエコシステムの発展度合いが評価されます。
しかしながら、どれほどネットが発達していち早く情報の伝達が可能になった時代とは言え、やはり現地の一次情報を手に入れることの難しさが未だにあることが課題であり、上記の地域では特にそのような”情報の非対称性”が顕著です。
RouteX Inc.では、独自のネットワークを通じて、該当地域での一次情報を取得し、国内企業の海外進出支援、海外スタートアップとの事業連携、海外のビジネスモデルのローカライズ等に活かしています。


RouteX Inc.ができること
①新規事業創出を支援(海外のテックコミュニティ/アクセラレーター等と連携を進めており、世界最大級のハッカソンイベント「AngelHack」の東京での運営統括を担当等。)
②スタートアップ成長支援(プレシードからシードのスタートアップの皆様へのベストプラクティスの共有等。)
③国内企業の海外進出支援(ロシア大使館と連携し、日露スタートアップオンラインカンファレンス等を主催。)
④オウンドメディアでの海外現地スタートアップトレンド等の発信(世界中のスタートアップに関するカンファレンスでMedia Passを取得して、現地取材等を行っている。)
⑤専門領域でのコミュニティの構築(世界最大のDeepTechコミュニティであるフランス拠点のHello TomorrowやFacebookオフィシャルのエンジニアコミュニティ Facebook Developer Circles等との連携。)

1.ロシア・エストニア周辺諸国のスマートシティ概観

ロシア・エストニア周辺諸国とはいわゆる旧ソ連国であり、ロシアだけでなく、エストニア・ラトビア・リトアニアといったバルト三国、中央アジアのカザフスタン等スタン系の国々、ウクライナやベラルーシにも広がっていた地域のことを指します。
旧ソ連国の経済状況としては、1991年のソ連崩壊後から独自の経済成長を遂げてきています。
コンサルティングサービスを手掛けるシンガポールのエデン・ストラテジー・インスティチュートが発表した「世界スマートシティー・ガバナンス・ランキング2020/2021」では、東京が世界ランク22位にランクインしている中、エストニアの首都タリンは12位、ロシアの首都モスクワは14位と、東京よりもスマートシティとしての評価が高いです。
それぞれの地域には、独自の発展したスマートシティ政策があります!

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2.主要国のスマートシティ政策


◉ロシア

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ロシアは世界最大の国土を有し、豊富な天然資源に恵まれている国です。
1991年にソ連崩壊後、これまでソ連で活躍していた優秀な理系人材がアメリカ、ヨーロッパ、イスラエルに流出してしまいました。代表例としては、セルゲイ・ブリン(Google創業者)、ビタリック・ブテリン(イーサリアムの開発者)など。そういった優秀な人材を呼び戻し、科学技術立国として再び台頭することを目的に、スマートシティ化を進めていたという背景もあります。
またロシア経済は石油や天然ガスなどの資源開発に依存しており、資源に依存した経済が世界的な市況の変化に対して脆弱であることが課題でした。
そこで、デジタル経済へ転換し、近代化と産業の多角化を推し進め、国際社会におけるプレゼンス強化をロシアは掲げています。
そんな中、サイバー空間でもロシアのプレゼンスの強化を進め、「強いロシアの復活」という側面を強調し、国家主導でのイノベーションを推進しています。10年ほど前から政府主導でイノベーション創出を狙った特区「スコルコヴォ」を設置しています。そこでの研究機関、IoT関連の施設に併設するような形で、教育機関、居住空間があり、研究者、技術者が住むと同時に学ぶことができる都市空間を、国をあげて創出しています。

実際にロシアのGoogleとも言われているYandex社は、スコルコヴォとの共同プロジェクトで、自動運転タクシーのローンチに向けた実証実験を行ったり、自社の自律走行型配達ロボットをスコルコヴォ内で商業利用したりしています!

また、さらに注目すべきは、2021年マッキンゼーが発表した「世界25都市の都市交通システム」によると、モスクワの交通効率の良さが世界一だということです!
地下鉄は待ち時間が少なく、運賃は一律料金です。さらに、バスの種類が豊富で、小型バスから中型バスまであり、バス専用の車線があります。近年では、新たな移動手段としてシェアリングスクーターに乗っている人も多くなりました。
また、モスクワの交通局は新しいP2Pカーシェアリングサービス「Ruli」を発表しています。友人や知人に自分の車を貸してお金を稼ぐことができるサービスで、MaaSに関わるサービスを政府が発表するところが面白い点です。
さらに、モスクワはすべての市営交通機関といくつかの民間交通機関のサービスを一元管理し、すべての公共交通機関に繋がるMaaSプラットフォーム計画を発表しています。
このように、MaaSのトレンドに関わる事業を、政府主導で取り組んでいるところがモスクワのユニークな点かと思います。 

また、セキュリティ領域でのスマートシティ化の事例では、顔認証技術の導入があげられます。ロシアは世界一を争う顔認証技術を有しており、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)も、その技術を高く評価しています。顔認証技術は防犯対策としてロシアの小中高校で監視カメラの導入が進んでいます。
さらに、今年モスクワ市内の地下鉄に新たな顔認証決済システムの「Face Pay」に対応した改札口が設置されました。240の駅があるモスクワの地下鉄ですが、これほどの規模で顔認証決済システムを導入したのは世界初だということです!コロナ禍でマスクをつけたままでも認証が可能です!

◉エストニア

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エストニアはロシアとヨーロッパに挟まれたバルト三国のひとつで、地政学的にはかなり難しい環境におかれていますが、無料通話サービスの「スカイプ」や海外送金サービスの「トランスファーワイズ」という世界を変えるようなプロダクトを続々と生み出している国です。

そんなエストニアは、地続きでロシアと隣接しており、長く支配されてきた歴史があります。国境付近にはロシア系住民も多く、また過去にロシアによるサイバー攻撃もあり、戦争で国土を侵略された場合でも、国家運営を維持できるようにするため、必然的に電子国家化する必要性があり、世界に先駆けてブロックチェーン技術の導入などスマートシティ化の加速を促したと言えます。

つまり、電子国家を作りたかったのではなく、必要に迫られてできたのが電子国家だった!というわけです。そこでエストニアは、国民の情報を電子化して、IDで国民が行政サービスを利用できる等、電子政府化を進めています。
さらに、異なる機関のデータベースを連携させるプラットフォーム「X-Road」を構築し、この基盤技術によって、通常なら大量のペーパーワークが発生するような作業の効率化が実現でき、1年に844年分の時間の節約になると言われているそうです!

エストニアはSDGsに結びつくスマートシティ政策も進めています。タリンではタリン工科大学と共同で自動運転バスの実証試験プロジェクトを行い、タリン市民は無償で利用することが出来ます。さらに水素燃料を使った無人の自動運転シャトルバスも運行しています。
このように、自動車メーカーを持たないエストニアでも次世代自動車分野の発展を政府主導で行い、超大国に挟まれている小国でも独自発展したスマートシティ政策が特徴です。

そしてエストニア政府主導でのテックカンファレンス「Latitude59」を開催しており、エストニア最大級のスタートアップイベントとして世界中の起業家からの注目度も高く、日本からも多くの起業家が参加しています。
「Latitude59」にはエストニア大統領が登壇してスタートアップの今後の方向性を発表するといったことから、官民が密に連携していることが伺えます。

「Latitude59」の登壇企業の中からユニークだったものとして、駐車場の車両を分ける線を引く作業(ストライピング)をロボットで自動化するプラットフォームを開発する「10Lines」が挙げられます。本サービスでは、これまでの7倍の速度で線を引くことができます。
エストニアでは、このようなニッチな分野でのスタートアップが多く生まれることが特徴的です。

また「人間中心主義」と「タルシンキ構想」を掲げており、タリンとフィンランドの首都ヘルシンキ間で、人間中心主義の「共生の社会システム」を作ろうという共通の認識のもと、クロスボーダーでのスマートシティ化を進めています。


◉ウクライナ

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ウクライナは、ロシアと民族の面で結びつきが強く、旧ソ連をともにけん引してきた「兄弟国家」です。ロシア系国民が多く、クリミアの問題など地政学的に難しい問題を抱えた国です。ウクライナはロシアからの圧力に耐えかね、EUの加盟を目指しています。

旧ソ連国の中で、技術立国として理系人材の育成に注力する中、「スマートフォンの中の国家」という構想をかかげ、国家運営を進めているのがユニークなポイントです。
スマートシティの中でも、スマホが普及してきているので、行政サービスをスマホで提供できるようにすることで、ペーパーワークでの不便さを解消することができます。さらに若干28歳の若手の方がこういった事業の責任者になっているという点も注目ポイントです!

このようにウクライナは技術力を活かし、ロシアの脅威に耐え、且つ欧州にも認められる「IT大国」を目指しています

◉ベラルーシ

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ベラルーシは「欧州最後の独裁国家」としてよく知られていますが、独自路線でスマートシティ化しており、独裁だからこそハイスピードにスマートシティ化に舵を切ることが可能となっているように見えます。現在、ルカシェンコ大統領が主導で「ハイテクパーク」を建設しています。ハイテクパークとは、シリコンバレーのようなテクノロジーハブのことです。実際に、こちらに導入しているソフトウェアは91%が国外利用されています。また、楽天に買収されたViberの開発拠点もこのハイテクパークにありました!

これによってITエンジニアを起業家を集積することによって、オフショア開発だけに使われてしまうということがなくなり、きちんと起業家になるまでに育成することができるようになり、技術的なノウハウを国家に還元できる仕組み作りがなされます。

これまでのスマートシティでいくと、MaaS、セキュリティ、国家運営という観点から推し進められましたが、いち早く、世界で初めて暗号資産(仮想通貨やICO)を認めた国として有名です。ベラルーシ国立技術大学のカリキュラムで、仮想通貨やICOについて扱う修業課程があったり、首都ミンスクでは、都市のすべての建物の情報をブロックチェーン上に作成し電子データベース化するというブロックチェーンを活用したスマートシティ政策も構想されています。

最近では、2020年ミンスクにおいてスマートシティフォーラムが開かれ、旧ソ連諸国だけでなく、ヨーロッパ諸国からも、ミンスクのスマートシティ政策への注目度が高まっています。

まるで国家の運営そのものが実証実験のように、ルカシェンコ大統領の独裁で行われているような印象です!

◉アゼルバイジャン

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アゼルバイジャンは、地続きでさまざまな国と国境を面しているため、これまで戦争が多発し、荒廃した地域が課題です。一方で、ソ連からの独立後、豊富なエネルギー分野への海外からの直接投資や国際市場での原油取引で急速に経済成長し、都市部と農村部の経済格差が広がっています。そのような中、エストニアの電子政府技術を取り入れ、次なるエストニアを目指しています。

エストニアの電子政府技術「X-Road」を活用しつつ、さらにモバイル居住権の考え方である「e-Residency」ならぬ、「m-Residency」を普及させようとしています。m-ResidencyはSIMチップに連動しているので、スマホで管理できます。
アゼルバイジャンは世界で二番目の「e-Residency導入国」であり、世界で初の「m-Residency導入国」となりました。

このように、エストニアで開発した技術が横展開され、周辺諸国で独自に発展を遂げているのが面白いポイントでもあります!

また、戦争で荒廃した地域に対しても、太陽光発電や自動運転ロボットの導入をしており、スマートビレッジ化への取り組みを進めています。

3.日本と連携して進むスマートシティ政策

・モスクワでJapan Smart City Forumを開催
日露の政府関係者や日本企業がモスクワに集結し、どのようにスマートシティ化を進められるのかなど、意見交換が行われました。
・ロシアの混雑した交通状況に日本の技術導入
モスクワは混雑度が高く、市民の満足度は低く留まっているという状況を鑑み、日本の国立研究開発法人である新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と協力し、高度交通信号システムの実証事業を推し進め、最大で40%の大幅な渋滞緩和を達成しました。
・アゼルバイジャンのスマートビレッジ化に日本の技術協力
アゼルバイジャン政府が推進するグリーンエナジーゾーンで、主に再生可能エネルギーによって電力を供給し、脱炭素経済社会の形成の実現に向けて、東電設計株式会社が協力しています。

旧ソ連地域は老朽化したインフラがまだまだ課題です。つまり、旧ソ連地域と日本技術とのシナジーが高い分野が多く、引き続きビジネスチャンスを探っていく必要があると感じています!


親ロシア派、親欧派で分かれるトレンド

ロシア・エストニア周辺国は主に親ロシア派または親欧派によってスマートシティ政策トレンドが分かれます。

親ロシア派
独裁の流れが強い地域なので独自のトレンドが育まれやすく、国家主導でしかできないようなことをスピーディーに進めやすいです。
親欧派
民間技術からトレンドをすくい上げ、国家レベルで普及させていくという動き方をしています。

今後、このように地政学的観点、周辺諸国との関係性の部分から、この二つの異なる流れの方向を追うことで、スマートシティ化をより興味深く観察することができるのではないでしょうか。

まとめ


今回は、RouteXの創業者大森様にご登壇いただき、非常に新しい観点からたくさんのお話をしてくださいました!
ロシア、東欧諸国では日本よりもスマートシティ化の流れが強く、かなり発達した段階であることが理解できました。

今後もドコモ・ベンチャーズでは毎週1回以上のペースで定期的にイベントを実施し、その内容を本noteでレポートしていきます!

引き続きイベントレポートを配信していきますので、乞うご期待ください!!

次回は、スタートアップの皆さん向けのイベント「【スタートアップピッチ】セキュリティテック 安心安全なスマートシティを支えるテクノロジー」についてのレポートです!

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