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銭湯私景・第参湯『浮遊』

濃いめのサングラスをかけて、右後頭部のエリアシを輪ゴムでピョコンと縛った、山本晋也カントク似の小柄なおじいちゃんが、主浴槽のバブルで発生した水流に身を任せて、ゆるやかに旋回しながらゆらゆらと揺蕩(たゆた)い、湯中を自由に行きつ戻りつして、遊んでいる。意味はない。ただ遊んでいるだけだ。

つっこんではいけない。
キリがないから。
彼はただ、遊んでいる。


でもまあ、目撃してしまった私の行きがかり上の責務として、一応以下に補足しておく。

風呂用のメガネが販売される時代なので、眼鏡使用のまま入浴する人も増えている。また視覚過敏症の関係もあり、銭湯内の眩しさが目に厳しい方もいるかもしれない。もちろん、サングラスは彼なりのオシャレだという可能性も十分にある。本人に確認するつもりはもちろんないが。

右後頭部のエリアシの縛りついて。長髪をポニーテール状に縛るサムライスタイル、または編み込みを駆使したラスタ風というわけではなく、アクセント的にピョコンと縛っているわけである。何らかの意図や理由があるのか、独自の美学なのか、これも確認するつもりはない。

日本国内での代表的な監督といえば、宮崎か村西、あるいは若い方なら新海あたりが思い浮かぶかもしれない。しかしながら、ヒゲ&小柄&サングラスといえば、私としては山本晋也カントクの一択だ。この場合、カタカナのカントクが正式。ご存じない方は検索を。

5✕5mのサイズの主浴槽は循環ろ過の仕様上か、中心からバブルが湧いて出ている。だいたいの入浴客は、4面のどこかの壁に背をあずけるポジションを取りがちであり、さらには他者との距離をできるだけ空けようとする心理が働くのか、客数によってその配置は変化する。ただ、いくら広い浴槽に一人だからといって、ど真ん中でフワフワ漂うのはいかがなものか。「わーい」という心の声が聞こえてきそうである。

人は歳を重ねて分別がつくと、同時に元気も失って、遊びの心を忘れると思ったら、大間違いだ。おじいちゃんだって、意味もなく遊ぶに決まってる。

浮遊だ。


♪本日の銭湯インストルメンタル
『プレゼント』/1990年/ジッタリン・ジン
※インストのリフレインは時空がゆがむ。公式YouTube!
https://youtu.be/jQILVt98cmU

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