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ヒキコモリ漂流記を読んで

皆様は髭男爵を覚えているだろうか。

 今の若い人は覚えてないかもしれなが、ひと昔前のテレビえを大いに沸かせた一発屋芸人だ。ルネッサ~ンスのギャグで一世を風靡した彼らだが、最近はテレビで見ることなんてほとんどない。「そんな名前、久しぶりに聞いた(笑)」という人がほとんどだと思うが、私は最近ブックオフで彼の名前を目にした。

 ブックオフで本を物色している最中に、「ヒキコモリ漂流記 完全版」というタイトルに心惹かれた。ヒキコモリなのに漂流してるの?しかも完全版てどうゆうこと? タイトルからして面白そうと手に取ってみたのだが、著者を見て驚いた。山田ルイ53世と書いてある。山田ルイ53世といえば、子供時代に流行った芸人だ。髭男爵というコンビを組んでおり、相方であるヒグチ君の「ヒグチカッター」というギャグも真似した記憶がある。現在はエッセイにハマっているので、取り合えず購入することにした。また、安かったことも購買意欲を刺激した要因である。

 読み進めていくと、いや、読み進められていく内に彼の文章に心惹かれていった。失礼ながら、”肩休め読書”ぐらいにしか思っていなかったのだが、文章力が素晴らしい。短い文章を積み重ねて、その場の風景と心情を細かく表している。しかも、さすがは芸人と言ったところか、笑いどころが至るどころに散りばめられている。御見それいたしましたという感じだ。

 内容について少し説明すると、小学生から彼の反省を綴ったエッセイ集で大変読み応えのある本だ。山田ルイ53世は小学生時代とても頭の良い子供だった。本当に小学生か? と思うぐらい成熟した考えを持ち、勉強もできた。しかし、中学2年生のある出来事をきっかけに、10年間ヒキコモリになってしまう。きっかけは大人からすれば笑い話で済むことなのだが、頭脳明晰で、自分は神童であると自負していた当時の彼にとっては重大な事件だったらしい。

 10年というと、とてつもなく長い。人間関係を破壊してしまうには十分すぎる時間だ。実際、彼の家族はバラバラになってしまい両親は離婚している。親にとって子供がヒキコモルことは、心身に重大な傷を与えるてしまうらしい。僕の両親も離婚しているのだが、修繕不可能になるほど険悪な仲になってしまったのは、僕がイジメられるようになってから、弟が学校に行かなくなってからだ。我ながら良くヒキコモらずにやってこれたと思う。自分を褒めてやりたい。こんな人生を歩んでいるもんだから、山田ルイ53世さんと紙一重の運命だったと感じる。

 しかし、ふと考えることがる。自分は他人より不幸だったのか?ということだ。中学生のころは自分が一番不幸なんだ。ぐらい感じていた。しかし、大学生になって、色々なことに触れ、客観的に物事を見れるようになってから考えが変わってきた。他人も同じような不幸を背負っているということだ。人間それなりの理不尽を背負っているものだ。悩みを持っているものだ。勉強もできてスポーツもできてイケメンだったあいつも、それなりの境遇を感じていることを知った。皆同じような理不尽を背負って生きているのだ。

 けれど、また反対に同じような喜びも感じているのだと思う。同じような苦悩があったなら、同じような幸福があってもいいはずだ。あの頃があって良かったとは一ミリも思わないけれど、耐えた時間があったからこそ、小さな幸せを感じていられる。一瞬たりとも経験しなくて良い事象に出会えたからこそ、「昔に比べればマシだ」と思える。

 飯が食える、暖かい布団で寝られる、明日死ななくて済む、それで満足が得られれば人生捨てたものではない。

長い長い人生。多少嫌なことがあっても、苦痛が降りかかってきても、何とかなるものだ。幸せの感性は心の持ちようで変わるだよなぁ~。


最後に「ヒキコモリ漂流記 完全版」の文庫本の最後に記されていた文章を紹介しようと思う。

只今、43歳。

これまでの人生は汚点だらけ。

現在も、上手くいかないこと、面倒くさいこと、しんどいことばかりで、本業のお笑いもパッとしない”一発屋”である。

しかし、家族も持てたし、楽しいことも時折ある。

だから、僕は大丈夫だ。


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