静岡の地が僕らに『災害に向き合う厳しさ』を教えてくれた。【第2回『気象×土木の防災』開催報告】
みなさんこんにちは!土木学会学生小委員会です。
今回は2024/03/01(金)に気象予報士学生会との共催で実施されましたイベント『第2回 気象×土木の防災』に関するご報告をいたします。
★第1回開催報告はこちらから
今回は静岡県道路保全課様にお話を伺いました。現地の最前線で業務に携わっている方から貴重なお話を伺うことが出来ました。
また本イベントでは土木学会学生小委員会のメンバー3名が実際に静岡県庁に赴き、現地からオンラインで参加者の皆様に配信でお繋ぎするという形にさせていただきました。
結果としては現地で機材トラブルが多発し、ご迷惑をおかけすることになりましたがなんとか配信することが出来ました。改めて配信等を行っている方々には頭が上がりません。
今回は本イベントに関して振り返りながら『静岡県が向き合う災害対策の現状と今後』について整理したいと思います。
0.そもそも道路の役割とは
今回、話題には上がりませんでしたが補足事項として、『そもそも道路の役割って何だっけ』というところからお話したいと思います。
道路には「交通機能」と「空間機能」2つの役割があります。
まず交通機能については比較的イメージしやすいと思います。
例えば道路にコンビニが面していれば道路からコンビニの敷地内に入り、買い物することが出来ます。(アクセス機能)
さらに、繁華街では道路の端に駐車している車がいるかもしれません。(滞留機能)
高速道路は通行機能を限りなく高める(より速い速度で通行できるようにする)ためにアクセス機能・滞留機能を制限している(一般道路との出入りはインターチェンジ、休憩施設はSA・PAのみに限定する。さらに高速道路では緊急時に除いて停車・駐車出来ない。)と言えます。
次に道路を「建物が立っていない空間」と考えると、道路はまた別の役割を果たしていると言えます。「空間機能」についてはまた別の記事で詳しく紹介します。
今回のイベントでは交通機能(通行機能)を中心にお話いただきました。
1.道路の管理状況
まずは静岡県の道路の管理状況や災害による道路の被災例について教えていただきました。
1-1.静岡県が管理する道路
静岡県内にある道路の長さは約37000km。これは全国の3%に相当します。
静岡県さんが担当する道路だけでも3000kmとかなり長い距離を管理されているようです。
1-2.令和4年度台風第15号による被害状況
静岡県さんから様々な道路被害状況の写真をお見せしてくださいました。今回は2022年の台風第15号に着目してみます。
2022年9月24日に襲来した台風で静岡県中部を中心に大雨に見舞われました。個人的には静岡県清水区の浸水被害の映像が印象に残っています。
ただ、浸水被害だけではなく土砂災害も県内各地で多く発生していました。道路も土砂災害などによって寸断されてしまう事例が数多くありました。今現在も本格復旧に向けて工事が進められているようです。
2年前の災害と言われると被災地域に住んでいない私たちにとってみれば「そういえばそんなことあったね」と思ってしまいがちですが、実際にはまだ災害の爪痕が各地に残されていました。災害復旧には数年の時間がかかることもあることを改めて思い知らされました。
令和4年度台風第15号で被災されました皆様に心よりお見舞い申し上げます。また一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
1-3.事前通行規制
災害発生前における道路管理において重要な制度となっているものが「事前通行規制」です。「事前通行規制」とはあらかじめ区間を指定して異常気象時に道路の通行止めを行う制度です。山奥をドライブしているときに標識で見かけたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
★東海地方における「事前通行規制」がある道路は以下の地図から確認できます。
元々は道路を災害前に規制する法律は無く、道路等の損傷が確認されてから通行止めにすることが一般的でした。しかし、1968年8月18日に岐阜県加茂郡白川町の国道41号で土石流に観光バス2台が巻き込まれる事故が発生し、この事故で乗員・乗客104名の尊い命が奪われてしまいました。
この事故を重く受け止め「事前通行規制」制度が出来ました。
事前通行規制を行う基準は各道路区間ごとに定められていまして、降り始めからの雨量を示す「連続雨量」が基準値を超えますと道路の通行止めを行うのが一般的です。
一方で高速道路では短時間の大雨にも対応できるよう、「連続雨量」に加えて「時間雨量」も事前通行規制を行う基準の一つとなっています。またJRなどではモデルによって「土中の水分量」を推定し、規制を行う「実効雨量法」が採用されています。
最近では鉄道においても台風接近時にあらかじめ運転見合わせを発表する「計画運休」という制度も一般的になっている中、災害が差し迫っているときは社会全体で備えようという動きが出てきているのかもしれませんね。
2.復旧・復興作業
ここから被災した際の復旧・復興に関する話題に移ります。
2-1.緊急輸送路(緊急輸送道路)
まず、災害時における各道路の重要性を把握するために設けられている制度が「緊急輸送路」です。
全国47都道府県で定められているもので重要度によって第1次~第3次の3段階に分かれています。これを基に道路の耐震補強などが進められています。
2-2.道路啓開
広範囲に大規模災害が発生した際、重要となる作業が「道路啓開」です。今回のイベントで最も大きく話題となりました。
以下の記事で詳しく紹介します。
3.これからの防災
災害の激甚化や人口減少、建設業の担い手不足など災害復旧に関して数多くの課題を抱えている日本。とは言っても手をこまねいている訳ではありません。ここから静岡県が取り組む防災についてご紹介します。
3-1.VIRTUAL SHIZUOKA
まず、静岡県が全国に先駆けて推し進めているプロジェクトとして『VIRTUAL SHIZUOKA』があります。
これに関しては1回見たほうが分かりやすいと思うのでぜひ以下のリンクをクリックしてみてください。(東京都さんのプラットフォームをお借りしている状態のようです。)
つまり静岡県の大地をまるごとデータ化してしまおうというものです。
これをすることで災害復旧をより迅速に進めることが出来ます。例えば土砂崩れの現場の場合、まずどのくらいの量が崩れたのか測量する必要があります。従来は現場で長さ等を測っていました。しかし、まるごとデータ化してしまった「静岡県の大地」のデータさえあれば、現場状況を再びレーザスキャナ等で計測し、既存データと比較するだけで3次元的にどれだけの量の土砂が動いたのか計測することが出来ます。
もちろん、災害復旧や測量以外にも観光・ゲーム・交通など多様な面で活用できます。静岡県の大地をまるごとデータ化したことでこれまでに想像していなかったプロセスで災害復旧を実現しつつあります。
3-2.静岡県と防災訓練
次に防災訓練についてお話したいと思います。実は静岡県は防災訓練への参加率が最も高い都道府県として知られています。あくまで参考ですがNTTドコモ モバイル社会研究所が2021年10月に全国9072人に防災訓練に参加しているかアンケート調査を行ったところ静岡県がダントツで参加率1位となったそうです。
一方でコロナ禍によって一時的に避難訓練が開催出来ない事態となりました。2022年に感染状況を踏まえ、静岡県総合防災訓練が再開されることになったそうです。今後、防災に関する技術・知識を再び住民に身に付けてもらえるかが課題となるようです。
静岡県ではコロナ禍への対応として「静岡県防災」という防災アプリの普及・活用を進めています。個人的によく出来ているなと思ったのは避難トレーニングという防災訓練の補助機能もあるところです。例えば津波避難訓練の際、時間ごとの津波浸水想定と避難している自分の位置関係を地図上で比較することで無事に避難することが出来たか確認できます。これなら一人でも簡単に防災訓練できそうです。
私も「わたしの避難計画」というものに触ってみました。大雨・地震の際の避難指針を作るものです。避難施設は各自で探す必要がありますがそれ以外は提示された質問に答えていくだけなのでかなり簡単で便利です。自分たちの住んでいるハザードマップさえ用意できれば静岡県外に住んでいる方でも作ろうと思えば作れてしまいます。
3-3.道路啓開の訓練
住民の避難を確認する防災訓練も重要ですが、道路啓開に関する作業確認のため行う訓練も定期的に行っています。災害現場では地元建設業が中心となって道路啓開の作業を進めていきます。全国各地に地域密着型の建設業さんが沢山いらっしゃいますが、役割の一つとしてこういった災害時における迅速な対応が挙げられます。最前線で地域の土木構造物を守っている建設業さんには頭が上がりません。
4.まとめ
今回は静岡県さまから『道路の防災』に関してお話してくださいました。「道路」に限定したにも関わらず様々な話題があり、改めて気付かされたこと、新たな発見が数多くありました。
静岡県さまのお話を伺って『災害に向き合う厳しさ』を感じました。これだけ多種多様な対策を考えているにも関わらずまだまだ課題が多く残っている中、一つでも多くのことを乗り越えようという県職員の皆さんの姿勢に感銘しました。
それと同時に県庁の仕事は災害時、かなり重要であるということを認識しました。もしかしたら国・県・市町村の役割分担をもう少し深掘りしてみると土木系公務員の仕事の内容や面白さが見えてくるのかもしれません。
改めて、静岡県さまならびに気象予報士学生会の皆さん、ご協力ありがとうございました!また参加者の皆さん、ご参加いただきありがとうございました。
<メンバー随時募集中!>
「土木学会の持つ広大なコミュニティを生かして、様々な方と意見交換する機会を作りたい!」「土木と違う分野の人と積極的に交流したい!」という学生は是非とも学生小委員会で一緒に活動しましょう!その他さまざまな企画も進行中です。