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気象と土木の交差点をさがして【第1回『気象×土木の防災』開催報告】

みなさんこんにちは!土木学会学生小委員会です。
今回は2023/11/19(日)に気象予報士学生会との共催で実施されましたイベント『気象×土木の防災』に関するご報告をいたします。


0.イベント開催概要

日時:11/19(日) 16:00~18:00
開催形態:オンライン
主催:気象予報士学生会・土木学会学生小委員会
内容:気象×土木に関するアンケート
→ 山田 朋人先生によるご講演
→ 質疑応答・意見交換
参加人数:約20人

1.なぜ気象×土木?【開催背景】

まず「開催背景」について2点に分けてお話したいと思います。

1-1.気象×土木の連携強化が必要になってきている。

まず初めに気象と土木、双方の分野の交流が今後ますます重要になってくると考えているからです。

例えば、台風などによる水害について軽く考えてみますと

★気象の役割
気象データを収集し、情報を発表します。
★土木の役割
気象データを基に交通規制等、被害を大きくしないような対策を行います。
万が一、インフラ施設が被災してしまった場合に復旧・復興を行います。
想定される雨・風を基に事前対策としてインフラを新たに整備することもあります。

水害発生時の気象・土木の役割

このように水害では気象と土木双方の連携が重要です。
もしも、気象の知見が無ければどのくらいの雨風に対応できるようにインフラ施設を建設すればいいのか分からなくなりますし、適切なタイミングでダムの操作や道路の通行止めが出来なくなってしまいます。
一方で土木の知見が無ければ、その土地ごとに合わせた最善の対応(インフラの整備状況、土壌の性質、地域コミュニティなど)が取れなくなってしまいます。どちらが欠けた状態では災害時に適切な状況把握をすることが出来なくなってしまいます。

実際に、災害の危険が差し迫っているときに土木と気象の専門家が同時に会見の場に立ち、注意すべきことをお知らせするケースも出てきました。

土木と気象が連携する動きは個人のキャリアにも現れ始めており、土木を学んでいる・生業にしている方が気象予報士の資格を取ったというお話をチラホラ聞くようになりました。今後、土木と気象をまたぐような技術者に対する期待は益々高くなるのではないでしょうか。

1-2.土木以外の分野を学ぶことをためらいたくない。

次に『土木工学以外の分野を積極的に学びにいこう。』ということを一人でも多くの人に共感していただいて、一緒に行動していこうと提案したかった狙いがあります。

水害をはじめとした災害による被害をなるべく減らすこと、つまり『防災』は土木と気象の連携だけで解決できる課題ではありません。実際には、建築・機械・ICT・社会学・教育・保険など文理問わずあらゆる分野が複雑に絡み合っています。

『防災』と密接に関係のある分野(一例)

確かになるべく学びやすいようにするため、社会に存在するあらゆる要素を分かりやすくするため、学問が分かれているのは社会システムとして理にかなったことではあります。

しかし、個人のキャリアとして『土木』だけ学ぶ以外の選択肢もあるはず。『防災』に限らずほぼ全ての社会課題は一つの分野だけで解決できるものではありませんので、複数の分野に知見を持つ技術者に対するニーズは今後高まっていくのではないでしょうか。

個人的には、土木工学では文理問わず幅広い範囲を学ぶことになりますので一度土木工学を軸として持っていれば、他の学問も学びやすくなるのではと思っています。他の工学はもちろん、地理・歴史・経済・法律などにも応用が効きそうです。

ちなみに古市公威先生が初代土木学会 会長に就任する際、次のように言及されています。

本会の会員は技師である。技手ではない。将校である。兵卒ではない。すなわち指揮者である。故に第一に指揮者であることの素養がなくてはならない。そして工学所属の各学科を比較しまた各学科の相互の関係を考えるに、指揮者を指揮する人すなわち、いわゆる将に将たる人を必要とする場合は、土木において最も多いのである。土木は概して他の学科を利用する。故に土木の技師は他の専門の技師を使用する能力を有しなければならない。且つ又、土木は機械、電気、建築と密接な関係あるのみならず、その他の学科についても、例えば特種船舶のような用具において、あるいはセメント・鋼鉄のような用材において、絶えず相互に交渉することが必要である。
(中略)
工学所属の学会の内、土木を除きたる六学会は会員の資格をその専門の者に限っている。しかし本会の定款第四条の一号には、工学専門と掲げて土木工学専門とは言っていない。これは土木以外の専門事項を研究するために他の専門の者が本会に入会することを歓迎するためである。また他の専門の者もその専門を土木に応用する意志のある者は、本会に入会することで本会に益することになるためである。
なお本会の研究事項は工学の範囲に止まらず現に工科大学の土木工学科の課程には工学に属していない工芸経済学があり、土木行政法がある。土木専門の者は人に接すること即ち人と交渉することが最も多い。右の科目に関する研究の必要を感ずること切実なるものがある。また工科大学の課程に工業衛生学がないが、土木に関する衛生問題ははなはだ重要である。そして大学の課程にないものはますます本会の研究を要求するものである。これらは数え上げれば、なお外にどのくらいあるかわからない。

★古市公威:土木学会会長就任演説,(2023.11.21参照)
土木学会設立時から、土木だけではなく機械・電気などの別の専門分野を持つ人も受け入れていたのは大変興味深いです。

将来、土木工学の知見を持った私たちがいろんな分野の知見を持ち帰って来て、世界がより良い方向で進んでいけるようなアイデアが次々生まれると面白そうですし、土木業界はそのアイデアが生まれる器として十分なポテンシャルがあると信じています。

2.開催の様子

2-1.開催直前のミーティング

お待たせしました。ここから開催の様子をお伝えします。

開催2週間ほど前に気象予報士学生会と北海道大学の山田先生と一緒にオンラインでお会いしました。

今回の企画の提案者である気象予報士学生会には、土木をはじめ気象とは異なる学問を学んでいる方も在籍していました。自分の専攻とは直接関係のない分野も積極的に学んでいこうという姿勢には頭が上がりません。気象予報士学生会とはこの会議だけではなく数か月前から何度もミーティングを実施しました。

また、北海道大学の山田先生は土木工学の教授をお務めになっていますが、気象にもお詳しい方でした。本企画に関しても共感してくださり、事前打ち合わせの際にも防災に関する視野が広がるような興味深いお話を頂きました。

2-2.開催当日

当日は、20人ほどの方に参加していただきました。

まず最初は事前に参加者から集めたアンケートの結果報告。

特に『自助・共助・公助のうち災害時に重要視すべき割合』に関して興味が集まりました。阪神淡路大震災における救助の経験から自助:共助:公助=7:2:1と言われているのですが…

★内閣府,平成30年版 防災白書|第1部 第1章 第1節 1-1 国民の防災意識の向上
<https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h30/honbun/1b_1s_01_01.html>
友人・隣人によって助けられた人が3割弱いるのに対し、救助隊が救った人は数%に留まります。

参加者の中ではおおよそ自助:共助:公助=5~6:2:2~3という結果に。救急・消防をはじめとした公共に対する期待が高いのでしょうか。

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この後、山田先生によるご講演が行われました。1時間と短い時間でしたが、気象・土木に限らず統計・住民とのコミュニケーションなど多くのトピックについてお話いただきました。

『分野が違う人たちでも言葉を交わしあおう。』
『起きた現象に注目しすぎると本質を見失ってしまうかもしれない。』

個人的にはこれらのご発言が印象に残っています。
ここ数年で最も短く感じた1時間でした。

最後に質問コーナー。土木・気象におけるキャリアのお話や住民の方とのコミュニケーションなどに関して積極的に意見が交わされました。

最後に記念撮影しました。

イベントが終わった後も、1時間ほど感想戦が続きました。
『アンケートで○○のような結果が出たけどどうしてなのかな?』
『住民と一緒に防災について考える場をつくるには具体的にどうしたらいいんだろう?』
また新たなアイデアが生まれる予感がしました。

情報量がとにかく多く、身になることが沢山あるあるイベントでした。
将来的には防災に関して気象・土木だけの留まらず、多くの人が集まって意見交換が出来るような勉強会が開催出来るといいなと考えています。

改めて気象予報士学生会の皆さん、山田先生ならびに研究室の皆さん
ありがとうございました!

3.本企画にご協力してくださった皆さんのご紹介

★気象予報士学生会

▼活動についてはこちらから

▼11/19(日)のイベントについてはこちらから

★山田 朋人先生(北海道大学)