今こそ語ろう。「専業主婦とは何か」
ミイコさんの記事を読んで、「専業主婦になるには勇気が必要」という告白に衝撃を受けました。
そこで、今から 15年前のドイツの女性と男性たちが、この「専業主婦問題」にどう立ち向かっていたかを、多くの人に知ってほしいと考えました。
当時のドイツが、今の日本と驚くほど似た問題を抱えていたことがわかるでしょう。
女性の社会進出に関してはヨーロッパの劣等生だったドイツ。
そこから何を学ぶべきか、何を学んではいけないか、考えてみました。
女性の高学歴化が失業率を高くしている
2006年、ドイツで働いていた私は、ドイツ語の個人レッスンを受けていました。当時のドイツ語教師のことは、別の記事で少しだけ触れました。
Hildagarde(ヒルダガルデ、以下ヒルダ)
ドイツ人。女。当時 39歳。高学歴で、知性・教養ともに高い。
Hochdeutsch(標準ドイツ語)を話し、英語はニアネイティブ。
性格は少女のように純真で超真面目。心は熱い。曲がったことが嫌い。
もともと貿易会社で働くキャリアウーマンだった。インド駐在経験あり。
30 を少し過ぎてから、子持ちのバツ1 男と結婚(彼女は初婚)し、退職。
家事・育児の傍ら、フリーランスでドイツ語を教えている。
日本の高学歴女子は、頭が良いゆえに程よく不マジメで、ユーモアとチョイ悪感があって私の好みなのですが、ドイツのそれは生真面目でピュアで、全く毒気のない人が多いようです。
私のドイツ語教師ヒルダもそんな人でした。
ドイツ語のレッスン中の雑談で、ドイツの失業率の話になったことがありましてね。
ヒルダは、ドイツの失業率が高い(当時 10%超)理由を列挙しました。
1) 賃金水準が高すぎる
2) 失業者への公的扶助が手厚すぎる
3) いまだに製造業中心で、新しい産業が立ち遅れている
4) 旧東ドイツの経済がキャッチアップできていない
5) ワークシェアリングが進んでいない
6) 外で働く女性が増えた
いろいろツッコみたくなる気持ちを抑え、でもさすがに 6) はちょっと待て、と思ったよね。
私「女性が外で働くようになると、失業率が上がるの?」
ヒルダ「失業者数は、労働力人口と就業者数の差で決まるのよ」
なるほど。
女性が外で働くようになった
⇒ 女性の労働力人口が増えた
⇒ 女性が男性の仕事を奪った
⇒ 失業者が増え、失業率が上がった
ヒルダはさらに続けました。
女性の労働力化には、もうひとつの側面があるの。
それは、母親が子供のしつけをしなくなったこと。
その結果、スポイルされた若者が大量発生して、さらに失業者が増えた。
女性の社会進出は、”二重の効果” で失業率の上昇に貢献しているわけ。
誰もがそのことに気づいているけれど、誰も公には言わない。
今のドイツでそんな発言したら、働く女性から袋叩きにされるから。
外で働く女性の増加は、女性が大学に行くようになったことと軌を一にしているそうです。
ドイツの大学は、ギムナジウムに進み(この時点で既に選抜されている)、アビトゥーアと呼ばれる試験に合格した者だけが行けるエリートコース。
日本の大学とは位置づけが大きく異なります。
なので、大学まで出ておきながら、その学位(degree)を活かさない生き方など、ちょっとありえませんね。ドイツは大学の学費が無料、つまり税金で賄われていますから、「税金のムダ遣い」とも言われかねない。
さらにヒルダは、ちょっと理解に苦しむようなことを言いました。
ドイツの女性の高学歴化は、ドイツを弱体化させるための策略だったのよ。
戦争に負けたドイツは、連合国に去勢された
ドイツって、野郎どもの国なんだよね。
ドイツの歴史を見たら、偉大な指導者も学者も芸術家も男ばっかでしょ。
お隣の大国オーストリアにはマリア・テレジアという偉大な女帝がいたり、大英帝国の最盛期がエリザベス女王やヴィクトリア女王の治世だったりするのとは対照的ですね。
つまりドイツって国はさ、マッチョで荒っぽいゲルマン男衆が民を猛々しく煽って、野蛮な戦いに明け暮れていたら、いつのまにかヨーロッパで一番強い国になっちゃったんですよ。
ここから先は、ドイツの高等教育を受けているヒルダの言葉を借りねばなりませぬ。
第二次世界大戦に負けて、ドイツは 4つの連合国による分割統治になった。アメリカ、イギリス、フランス、ソビエト連邦のことだけど、この連合国(United Nations = “国連”と同義)の親玉はすでにアメリカだったの。
アメリカの首脳陣は、第一次大戦後にバカなヨーロッパの戦勝国たちが、負けたドイツを徹底的に制裁したこと、すなわちヴェルサイユ条約が、結果的にもっと強いドイツをつくってしまった愚行に気づいていた。
だから、今度は違う方法でドイツを弱体化しようと考えたのね。
ドイツの強さは、その圧倒的な男社会にある、というのがアメリカが出した結論よ。それを内部から崩すためには、女たちを強くすればいい、と考えたの。
だから、女性の高学歴化を推進した。
結果は、大成功よ。ドイツの男どもは、どんどん強くなる女たちの前で萎縮して、完全に牙を抜かれ、それ以来一度も戦争ができなくなったの。
つまりあれか。ドイツを一人の男にたとえると、ペ〇スをちょん切られて、力が出なくなってしまった、ということですね。もちろん、そんな言葉を使ったらヒルダは卒倒しかねないので、口には出さなかったけど。
私はヒルダに言いました。
「日本にはこんな言い伝えがある。戦後強くなったのは女性と靴下だって」
ヒルダは、クスっと笑って言いました。
「日本を占領統治したのもアメリカよね。対ドイツと同じ策略だったのね。私たちの国は、似た者同士ってわけか」
夫に、「お金をください」と言えなかった
雑談に入った瞬間から、私とヒルダは英語で話しています。
全然ドイツ語のレッスンになっていないわけですが、もっと大事な話をしているんだからいいのです。
私「強くなったドイツの女性たちは、外で働くようになったんだね?」
ヒルダ「そうよ。自活(independent)を求めたの。夫に依存している状態(dependent)を恥ずかしいことだと考えるようになった。自活していることがモダンだっていう価値観、いいえ、強迫観念があった。私も、主人に依存することを恥ずかしいと思っていた時期があったなあ・・・」
ヒルダは、遠い目をしました。
このときヒルダが話してくれた気持ちを、当時の日記と記憶を辿りながら、正確に再現してみます。
今の主人と結婚したとき、私は仕事を辞めるつもりはなかったの。
でもね、主人の下の子がまだ小さかったから、仕方なく仕事を辞めたのよ。そして私自身の収入はなくなった・・・
私ね、結婚なんて初めてのことだったから、夫婦がどうやって生活費を負担するものなのか全くわかってなくて、収入がないのにどうやって生活すればいいんだろう?って真剣に悩んだわ。
家賃とか光熱費は主人が払っていたけど、食材とか子供の衣類を買うのは私でしょ? どうやって買えばいいんだろうって・・・
悩んだ末、自分の貯金を取り崩すことにしたの。貯金はそれなりにあったから。
ここまで聞いて、ヒルダの浮き世離れした話についていけなかったので、思わず訊きました。
「ご主人に相談しなかったの?」
今思えば、そうすべきだったのはわかる。
でもあの頃はね、結婚したばかりの主人に「お金をください」ってどうしても言えなかったの。
どう説明したらいいのかしら・・・(苦笑)
恥ずかしいというか・・屈辱だと思ったのよ。「お金をください」なんて。それって主人に依存しているということだから。
「ずっと自分の貯金から出してたの?」
うん。貯金がなくなるまでね。
貯金がなくなって、何もできなくなって、思いきって主人に打ち明けたの。「お金がありません」って。恥ずかしくて、悔しくて、泣いちゃった(笑)
今だから笑って話せるんだろうな・・・
私「で、それからどうしたの?」
ヒルダ「主人の銀行口座を夫婦共有の口座にしてもらって、そこから私もお金を引き出せるようにした」
ああ、よかった。
ようやく話が常識の範囲内に落ち着いたよ。
私「ヒルダ。夫婦ってのは一つの家計だから、ご主人が得た収入は夫婦共有の資産なんだよ」
ヒルダ「もちろん今はわかっているの。でも・・・『お金をください』って言い出せなかった当時のつらい気持ちも、憶えているのよねえ」
「妻は専業主婦」と言えないドイツの男ども
私はヒルダからもっと話が聞きたいと思いました。この知性と教養のかたまりのような人から、キャリアウーマンと専業主婦の両方を体験した人から、ホンネのようなものを搾り出したかったのです。
「夫に依存しているとか、お金をもらうのが恥ずかしいとか、なんでそんなふうに感じてしまうんだと思う?」
それは社会のメッセージが悪いと思う。
社会は家事労働を評価していないのよ。
“外で働くこと” がいかに困難か、そしていかにすばらしいか、それは知的で前向きで社会に貢献することだ、というメッセージを社会が発信している。
家事はその逆ね。誰でもできて、単純労働で、後ろ向きで、世の中の役に立たないことだ、と社会が言っているわけ。
ふふっ、冗談じゃないわよ!
家事は、外で働くことよりもはるかに重労働だし意味のある仕事だっての。
そもそも、労働の種類に貴賤も優劣もないのよ。
私「日本ではまだ専業主婦が多いかな。それに、専業主婦は恥ずかしいなんて風潮はないと思う。たしかに、家事労働を正当に評価していない人はいるかもしれない。でも、専業主婦はもっと堂々としていると思う」
ヒルダ「ラッキーユー! 日本の女性はすばらしいわ。社会のプロパガンダに騙されていないのね。きっと教養が高いんだと思うわ」
さらにヒルダは興味深い話をしてくれました。
社会のプロパガンダに影響されているのは女性だけじゃない。男性もよ。
例えば、ある男性が同僚から「奥さんは何をしてるの?」と聞かれたとしましょう。彼は「うちのワイフは専業主婦だ」とは答えられない。なぜなら、自分のワイフが無学な女だと思われるのが恥ずかしいから。
だからドイツの男は、自分の妻に仕事を持ってもらいたいと考えるの。
くだらない!
いくらドイツの女が強くなっても、この国は根っからの男社会なの。
女が仕事を持ちたいからではなくて、男が自分のプライドを保つために妻に仕事を持たせているんだから。
15年前に、普通の主婦(ハイクラスではあるけれど)が、ここまでの考えを外国人の私に開陳していたんですね。
当時の日記を読み返しながら、私も今さら驚いています。
ちなみに、このとき(2006年)は、ドイツに歴史上初の女性宰相が誕生しています。
専業主婦は、勝ち組でも負け組でもない、自由意志組だ
つい 7日前(2021年5月26日)、とあるネットメディアに「専業主婦は憧れの職業? それでも妻が働いた方がいい理由って?」というタイトルの記事が配信されていました。
妻が働くことのメリットについて、これでもかと言わんばかりの強迫に近い論調で書かれています。
これ、資産運用とか保険を商売にしている団体が書いているんですよ。
ここまで醜悪だとわかりやすいですが、巷にはこれと同じ類のプロパガンダがあふれかえっていて、ウンザリしている人も多いと思います。
社会のカラクリをわかったうえでこんなクソ記事を書かされる人とそのご家族の気持ちを思うと、せつなくて泣きそうです。
そろそろ、気づきましょう。
専業主婦問題とは、女性の権利云々とは次元の異なる問題だということに。
専業主婦を市場に引っ張り出したがっているのは、上記のような商売目的の輩と、名目GDP を増やしたい政府です。女性の権利や地位の向上には何の関心もないグループなのです。
15年前にヒルダが看破していたように、いくら女性が外で働くようになっても "この国" は男社会なのですよ。この国とは 2006年当時のドイツであり、2021年現在の日本です。
この根の深い問題の解決を、女性の就業率や共稼ぎ夫婦の増加に求めるのは、問題の矮小化、あるいは悪質な隠蔽です。
外で働くようになって、逆にしんどい思いをしている女性がいったいどれだけたくさんいるんだろう。
もっと自由に、ラクに生きればいいじゃない。
ヒマな団体の統計数字や、FP の算盤勘定なんか真に受けてどーするよ。
今ここにいるあなたの正直な気持ちが一番大事なんだってば。
「専業主婦」を定義します。
専業主婦(主夫)とは、家事や育児といった必要不可欠にして極めて重要な労働を専業にしている女性または男性で、古今東西を通じて、多様な家計形態の一つを構成する要員である。
それ以上でも以下でもない。
周りはみんな子育てしながら働いている
気にしない気にしない(笑)
働ける立場なのに自分だけ家でゆっくりするなんて夫に申し訳ない
そんな狭量な男いねーよ(笑)
自分の自由のためにパート収入がなくなる家計への罪悪感
あなたが選んだ男の生活力を信じなさい(笑)
P.S. ミイコさんへ。
私に、ヒルダ先生との思い出と、専業主婦問題を改めて考える機会を与えてくださり、ありがとうございました。
私は、あなたの ”挑戦” を 200%支持します。