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中国のエンジニアと会議したら、日本人もやりがちな失敗例を見た

中国企業との商談は一種の苦行です。
英語力の問題に加え、それ以前のロジカルスキルに難があるからです。
彼らは、“端的に話す” ができません。
日本の会社員も似たような失敗をやらかしている気がして、彼らを反面教師として学ぶべきだと感じた今日の出来事。

世にもおぞましい商談が始まる

中国の会社員について書いた記事から、3つの要点を抽出します。

✅ 中国企業はグローバル化しておらず、中国の人材は世界平均レベル以下
✅ 中国の会社員は ”働きすぎ” など 20年前の日本人と多くの類似点がある
✅ 多くの企業が、中国の協力工場なしにはモノがつくれない体制のままだ


当社は、ある電子機器を中国の企業に受託製造 (EMS) させています。
この中国企業(M社)は、深圳と香港で上場している従業員数万人の大企業です。

今日、M社の技術系社員とオンライン会議を行いました。

当社側の出席者は、技術部長のクラウス(ドイツ人)、品質保証部長のサラ(スイス人)、私(日本人)の 3人。
M社側は、製造部門のエンジニアらしき中国人男性 3名と、国際営業部長のアイリーンという中国人女性。

エンジニアたちは英語力に多少の難があります。彼らをサポートするために英語が堪能なアイリーンが同席しているのでしょう。
当社側の出席者は中国人の拙い英語には慣れていますので、英語が聞き取りにくいくらいでイライラしたりはしませんが。

オンライン会議ツールは Teams で、カメラは ON にしています。
当社側の出席者は各々自宅から参加しています。
M社側の出席者 4人は会議室に集まっていました。

で、本当の原因は何だったのですか?

最初の議題は、コンシューマからのクレームが多数発生している製品の件。
品証部長のサラが「欠陥品のサンプルは送りましたよね。改善案は見つかりましたか?」と単刀直入に訊きました。

エンジニアのリーダーらしき男性が英語で説明します。
意外と聞き取りやすい英語でしたが、話が冗長でロジカルでないところが、かなり気になります。
プラスチック部材の形状を変えるため、新しい金型を発注する必要がある、というのが主旨のようです。

それだけのことを言うのに、なんでこんな長い話になってしまうんだろう。

サラがエンジニアの長い説明を遮って言いました。
サラ「不具合の原因 (root cause) は特定できたのでしょうか?」

エンジニア「製品設計上の問題とみて御社の開発チームとミーティングしましたが、問題は発見されず、弊社の品質分析チームの意見を聞いたところ、どのサンプルもほぼ同じ箇所に破損があると言われ、生産管理チームによると、生産バッチごとの偏りはないということで、素材の問題の可能性も捨てきれないのでストレス耐性と耐熱性のテストは引き続き検討しながら、再度開発チームとデザインの見直しを協議しているところです」

長げぇ・・・

サラ「それで、不具合の原因は何だと考えられますか?」

エンジニア「それはわかりません」

あほう・・・
と、思わず日本語でつぶやいてた。
確証がもてなくても、そこは「〇〇です」って言い切れよ。
君がマジメで正直なのはわかるよ。ある意味、技術屋さんらしいとも思う。
でもね、サラが聞きたいのは、「原因はこれこれです。だからこうすれば不具合は解消できます」っていう確信に満ちた返答なんだよ。
それが間違ってたっていいんだよ。また検証し直せばいいんだから。
原因のわからない不具合を直すためにお金を出してくださいって言われたら、サラも、私も Yes とは言いにくいでしょ。

私は、国際営業部長のアイリーンとは WeChat(👈 ”中国版 LINE” です)でオフレコの 1 to 1 コミュニケーションがとれる関係です。
(そのことは、クラウスもサラも知らない)

不具合の原因議論が長引きそうだったので、私はこっそりとスマートフォンでアイリーンに WeChat メッセージを送りました。

金型にかかる 9千ドルは、最速で支払うと約束する。議論はもういいから、原因はデザインだってエンジニアに言わせて、この話を終わらせよう。

アイリーンは、手元のスマートフォンをほんの一瞥して、眉一つ動かさずにリードエンジニアに耳打ちしました。

顧客の前で内輪の議論を延々とやる?

はい、次の議題。
製造工程オートメーション化の投資案件。
高額な機械を購入して、ワーカーを減らし、製造コストを削減しようという M社側からの提案です。
こういう施策が EMS(受託製造者)側から起案されることに、『あゝ無情』を感じますね。

アン・ルイス3


M社が当社に設備投資の承認を求めるのは、当社がその支出を全額負担するからです。

購入予定の機械・治具等のリストがモニターに映し出されました。

総額 120万ドルか。

“Financial Analysis” と題されたスライドにこう表記されていました。

ROI : 16 months

私「ROI が 16ヵ月とは、どういう意味ですか?」

エンジニアが説明します。

「初期投資にこれだけの金額がかかりますが、工程の自動化によってレイバーの人数を 59人減らせますから、毎月 77,000ドルのコスト削減になって、16ヵ月後から利益が出ます」

誠にていねいなご説明、痛み入りますが、それを言うなら、 ROI じゃなくて回収期間 (payback period) だよね。
意味も知らずに小難しい用語を使うと恥かくよ。

私「投資の回収に 16ヵ月ですか。もう少し短くなりませんか?」
エンジニア「生産数量が増えれば、短くなると思います」
私「・・・・・・」

ジョークとして言っているなら、なかなか面白いエンジニアだな、と思う。

数量が増えれば早く回収できるって・・・

あたり前田のクラッカー

エンジニアの隣で、アイリーンが大笑いしている。
さすがにアイリーンはこの発言をジョークとして味わう感性があるらしい。
「オーダーを増やしてくれ」って、それって営業の私が言わなきゃいけないジョークじゃん(笑)と思ってるんだろう。

クラウス「いやそういうことではなくて・・・もっと効率が高くなる施策の組み合わせはないんだろうか?」

ナイスヘルプだ、クラウス。

中国のボーイズチーム、顔を見合わせて何やら相談し始めました。

『天才クイズ』の相談タイムか?(👈東海地方の人しか知らんがや)

天才クイズ

3人のエンジニアたちは、中国語で喧々諤々議論しているようです。
中国語のわからない当社側の 3人はポカーン。

ナイスヘルプじゃなかったみたいだ、クラウス。

私はアイリーンに WeChat でメッセージを送ります。

100万ドルを超えるとスイス本社の承認が必要になる。
ROI が低めの技術オプションを削って、投資の総額を 100万ドル以内に抑えつつ、回収期間も短縮することが可能なはず。

送信して、モニターを見ると、アイリーンがスマートフォンに視線を移して私のメッセージを読んでいます。
読み終えたアイリーンが、ボーイズチームに中国語で説明し始めました。

結局、どっちなのですか?

技術オプションの取捨選択を、エンジニアたちとクラウスに任せて 15分後、総額 99万ドルになった設備投資リストがモニターに映されました。

私「これらは当社が所有しますから、当社の資産として帳簿に登録します。50品目もあるのでグルーピングしたいのですが、アイデアはありますか?」
クラウス「会計上の扱いは君に任せる」
私「いや、会計上の扱いは用途が決めるんだ。一個の独立した機能を一個の資産として扱うから」
クラウス「なるほど、そういうことか。M社の意見を聞こう」

「何の話?」顔のエンジニアたちに、アイリーンが中国語で説明します。

しばらくの間エンジニア同士が中国語で話し合った後、リードエンジニアが意を決した顔をして英語で説明し始めました。

「これらの機械・治具はすべて A製品を生産するための機構の一部なので、すべてをまとめて一個の資産として考えることができるかと思います。
しかしそうすると、一部の機械を改作したりアップグレードしたりしたときに、管理しにくくなると思われます。
47品目はそれぞれが異なる機械・治具なので、47品目を一個一個の資産として考えることもできるかと思います(どやっ✨)」

で・・・?

どっちやねん5

いろいろな考え方がありますって、あなたは評論家か何かですか?
長々と話したわりには全然答えになってませんよね。
“管理” (manage) の意味するところが不明ですが、資産会計のことを言っているんだとしたら、それはあなたが心配することではありません。うちが考えることです。当社の資産だって言いましたよね。

あなたがたは製造工程のプロなのですから、ここからここまでは〇〇工程、これらは△△工程って、47品目を 5つくらいのグループに分けてほしいだけなんですけど。

本日の教訓

✅「わかりません」は禁句。多少ハッタリでも断言するが吉の場面もある。
✅ プラン B を用意しておけ。内輪で議論せず、相手に考えさせ選ばせよ。
✅ 必ず結論を言え。できれば、最初に結論を言え。
✅ 感覚的に話すな。求められている答を意識せよ。余計なことは言うな。