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ついに、会社が在宅勤務を明文化した

2020年 2月より、当社は各国の COVID-19 による行動制限を注視しながら、在宅勤務 (WFH) を推奨 ⇒ 勧告 ⇒ 強制してきました。
130ヵ国に散らばる事業所のうち、スイスの本社を含む約 80%のオフィスが一時的に閉鎖、つまり強制的な WFH 体制となりました。

先週(2021年 9月 27日)から、スイス本社のオフィスが 1年ぶりに開放されました。本社の同僚の話によると、先週オフィスに出勤したのは本社社員の 5%未満とのこと。

時を同じくして、当社は『新しい働き方 (New Ways of Working)』ポリシーを発行しました。世界の全事業所を対象とした社内規程です。
国によって COVID-19 の抑制策も、法律・税制・ITインフラも異なるので、この全社ポリシーは「目的と原則」のみを規定したものであり、「具体的なルール・手続きは、各事業所にて規定・運用せよ」という建付けです。

この「目的と原則」こそが重要、と私は考えます。
なぜなら、そこには「働く (work)」に対する考え方が明言されているから。

以下に、ポリシー本文から抜粋して和訳しました。

当社は、社員がよりよく生きることを第一義とし、ここに『新しい働き方』ポリシーを定める。新しい社会における、多様な世代に寄り添うために。
過去のマネジメントスタイルと多くの弊害を完全に葬り去ることによって、働き方の柔軟性を高め、タレントを確保する。
『新しい働き方』ポリシーは、社員間の信頼関係を基礎とする。
当社は、オフィスにいる時間ではなく、パフォーマンスと成果を重視する。
重要なのは「何をするか」であり、「場所」と「時間」は関係ない。
オフィスに来る社員が優遇されることも、WFHの社員が冷遇されることも、どちらもあってはならない。
『新しい働き方』は、現行の雇用契約には一切影響しないものとする。
パンデミックが収束した後も、当社は過去の古い働き方に戻ることはない。
WFHは、子女のケアや家事等のルーチンワークを行いながら働くのに最適な勤務形態である。さらに、通勤の時間と負担をなくし、誰にも急かされず、いつでも好きな時間に休憩をとることができる。
とくに子女のいる親にとっては、生活に必要な給与を得ながら、家族と共に過ごす時間を確保することが大切である。


以上は完全な直訳です。
原文を素直に読むと、なかなか真っ当なことが書いてある、というのが私の第一印象。
まず、「新しい社会」や「過去の古い働き方」などのワードから、COVID-19の前後で、時代の不連続かつ不可逆的な変化があった、と認識していることが窺えます。

「過去のマネジメントスタイル」「多くの弊害」とは、何を指しているのか。
それは、次の信頼関係に基づく、というワードから推察できます。
信頼に基づかない働き方、つまり、上司が部下を管理・監視したり、勤務時間・場所を指定したりすることを、「過去」「弊害」と呼んでいるのです。

成果重視、場所や時間に縛られない、ワークライフバランス等は、今までにもあった考え方なので目新しさはありませんが、ポリシーとして明文化したことに一定の意味はあると思います。

ようやく、時代と会社が、個人に追いついてきた、と感じます。


では、会社の真意はどこにあるでしょうか?
ヒントはタイミングです。
本社オフィスを 1年ぶりに再開したタイミングで、わざわざこんな文書を発信する狙いは何か?
それは、「できるだけオフィスに来てくれ」でしょうね。

「WFH は最適な勤務形態である」に嘘はないでしょうが、だからといって、100% WFHに移行する気もない。
100% WFHにするなら、本社社屋など売却しますよね。
本社社屋を残すならば、できるだけ有効活用したい。
そのためには、一定数の社員がオフィスに来なければ意味がない。

20ヵ月の WFH経験を通じて、大多数の社員がオフィスに来ることに意味を感じなくなった、と会社は読んでいるのでしょう。
そしてその読みは正しい。
再開した本社オフィスに来たのは 5%未満だったんだから。

当社は時代の変化を正しく認識している、
社員の自律的な働き方を信じている、
ワークライフバランスを尊重する、
と強調することによって、「だから、自由にオフィスを活用してください」と(暗に)言っている、かなり高度なコミュニケーションだと思います。

私は、そこが残念に感じました。
まだそんなこと言ってるのか、と。
「過去の古い働き方に戻ることはない」ときっぱり断言したことは評価するが、「今後は 100% WFH でいく。本社を含めすべてのオフィスを廃止する」ところまでは行けなかったか。

「タレントを確保する」ために、「働き方の柔軟性を高め」る必要がある、と言っているのに。
優秀な人材ほどオフィスを必要とせず、WFH を選ぶってことだよね。
遅かれ早かれ、オフィスのない時代が来ることも予想できてるだろうに。

会社が 100% WFH への移行をためらう最大の理由は、社員の帰属意識や一体感が失われるのを恐れているからです。アジア的な感覚だと思われるかもしれませんが、スイスに本社を置くグローバル企業でもそうなのです。
そう考えている時点で、最も先進的な考えを持つ個人には追いついていない、と言わざるをえません。

もうひとつの懸念はモラルハザードか。
しかし、私の知る限り、ヨーロッパの会社員にその心配はなさそう。
彼らには、「上司が見ていないとサボる」といった発想はありません。
むしろ、日本の会社員にその傾向があるような気がします。

私のようなオフィス撤廃派は、まだ少数なんでしょうか。
帰属意識や一体感を重視する人。
社交は必要、と考える人。(これにはある程度同意します)
対面でないとコミュニケーションがとれない人。

あなたをどれほど愛しているかを伝えるには対面のほうがいい、という考えには同意します。
でも、仕事上のコミュニケーションは、それよりはるかに単純で小さな問題だと思うんですけどね。