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『ワクワク戦国時代到来』(福島民報「民報サロン」2021年12月24日寄稿)

 「新しい資本主義の主役は地方です。」岸田新総理による所信表明演説の一節だ。一国の総理が地方を「主役」と呼んだ意味は大きい。日本を代表する経営者、冨山和彦さんも、日本経済の主流はローカル企業だと言い切る。官民ともに、地方の時代で一致している。
 実際、地方が熱い。電子地域通貨「さるぼぼコイン」を発行した岐阜県の飛騨高山。ゴミのない社会を目指す「ゼロウェイスト宣言」をした徳島県上勝町。「ベンチャー行政」の宮崎県日南市。面白いコトを仕掛ける地域が次々と現れ、群雄割拠だ。


 人口減少社会といえど、一律に減っているわけではなく、地方でも福岡県福津市、沖縄県中城村・北中城村、長野県軽井沢町などは大きく人口を伸ばしている。そして東京への人口流入には陰りが見え始めた。昨年の調査では生産年齢人口(十五歳以上六十五歳未満)の増加数のトップテンをすべて東京二十三区の自治体が占めていたが、今年、そのうち五自治体で生産年齢人口が減少に転じた。
 少子高齢化で限界集落化する地域が続出する一方で、地方でも住みやすく面白い町には東京から人が押し寄せる。まさに、地域コミュニティの生き残りをかけた戦国時代の様相だ。


 自分たちが生きている時代を俯瞰して見るのは難しいが、私たちが歴史的転換点にいるのは間違いなさそうだ。江戸時代、そして明治時代を経て、一直線に進められてきた地方から東京への人の移動による一極集中と富の偏在。産業政策もまちづくりも役所主導。そこに依存し続けてきた結果の「お上」(おかみ)意識と観客民主主義。江戸時代からこの国に根を張り続けてきたこの社会構造は、昭和を越えて、平成の「失われた三十年」を経てもまだ残り続けたが、ここに来ていよいよ、中央集権型社会から自律分散型社会への逆回転が始まった。


 もちろん、この地方の戦国時代に競い合うのは武力ではない。GDPで測られる単純な「富」の大きさでもないだろう。新たな指標として注目されているのが「Well-being(幸福)」だ。富と幸福度が比例しないことは、一人当たり県民所得最下位の沖縄県が幸福度一位であることが如実に示している。では、幸福度の源泉は何だろうか。米ペンシルバニア大学のセリグマン教授によれば、幸福の構成要素は、「ポジティブな感情」「関与」「人間関係」「人生の意味・意義」「達成感」の五つで、中でも「ポジティブな感情」が最も重要とされる。私なりの言葉で翻訳すれば「ワクワク」だ。
 地域からどれだけワクワクを産みだせるか。山積する課題をどうポジティブに変換できるか。それが地方の戦国時代の勝負だ。


 「太平の眠りを覚ます蒸気船」。中央集権型の社会構造を江戸時代から一気に推し進めるきっかけになったのは一隻の船の来航だった。福島で起きたあの原発事故は、人類史上、黒船来航よりもよほど大きな出来事のはず。それならば、明治維新以上の社会変革が起きて然るべき。だとすれば、福島がこの「ワクワク戦国時代」を牽引するしかないのではないか。

*この記事は、福島民報「民報サロン」(2021年12月24日)に寄稿したものです。

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