「伝わる」を提供したいなら、表現の〝スピード違反〟に注意!
むかし、師匠にあたる方から賜った金言です。
「放送作家たる者、一流の視聴者たれ」
〝一流〟と言うと紛らわしいのですが、これは記憶力とか国語力とか、優れた能力を備えた視聴者という意味ではありません。むしろ、その反対。どこにでもいる〝ふつう〟を極めた視聴者を指します。
感性も、知識も、一般的。
そして大事なのが、初見であること。
ありふれた表現に言い換えるなら「受け手の立場になって伝えよ」ってことなんですけど……、
実践するのはなかなか難しいんです。特に〝初見〟の部分が。
事前の打ち合わせなどで予備知識は入ってくるし、書いているうちに、修正を重ねるうちに、感覚が麻痺して「視聴者<制作者」になっていってしまう。どうしても、初見のままではいられません。
違いが出るのは〝スピード〟です。
一体なんの〝スピード〟なのか。僕は三つあると考えています。
✅理解
✅感情
✅認識
こんな経験はありませんか。
誰かに商品(企画)を売り込まれたとき、相手の話がサクサクと進みすぎて頭に入ってこなかった、なんてこと。
いわゆる〝理解〟が追い付いていない状態。
話している方は全体像が見えていますから、どんどん先に行きたい。しかし、話されている方は与えられた情報をかみ砕いて、飲み込む時間がほしいわけです。
ここに〝理解〟のスピード差が生まれる。
対策は〝間〟を設けること。受け手が「なるほど」「ということは?」と思える〝間〟です。
子どもと歩くとき、ペースをゆっくりにしたり、立ち止まって待ってあげたり、途中で休んであげたりするでしょう?
伝えるときも同じです。
続いては〝感情〟のスピードについて。
笑ったときのこと、怒ったときのこと、泣いたときのこと、どれかを思い返してみてください。
おそらく、その感情が露わになるまでには〝ストローク〟があったのではないでしょうか。心の器に水が注がれていって、満杯になって、こぼれ出したはずです。
つまるところ〝感情〟のスピードとは、水がこぼれるまでの速さ。
しかし、受け手と伝え手とでは器の大きさが違うのです。予備知識、あるいは思い入れに差があるからです。
登場人物がよく知っている人物の場合と、あまり知らない人物の場合だと、感情移入するまでの〝ストローク〟は変わってきます。また、ストーリーの中で山と谷を何回も行き来すると、忙しく感じてしまいます。
避けたいのは、水が満たされる前に話題を変えること。器の容量と、水を注ぐペースを見誤らないこと。
受け手の〝感情〟が追い付ける構成を心掛けましょう。
最後に〝認識〟のスピードについて。
こちらは主に映像で伝えるときに意識したいことです。
例えば、バスケットボールの試合で、勝敗を分けたプレーがあったと。その選手は、シュートに行く前にいくつも細かいフェイクを入れて、ディフェンダーを出し抜いたと。
これを解説するとき、制作者はそのフェイクをすぐに認識できます。しかし、初見の視聴者はそうもいきません。
映像って、かなり情報量があるんですね。視覚と聴覚をフル活用しても、普通の人は一瞬で全て処理できないものです。
これが〝認識〟のスピード差。解消するためには、負荷を軽くしてあげることです。
フェイクの直前でフリーズして「今からここに注目してください」と前置きをした上で見せる。さらにリピートする。スローでも見せる。周りの関係ない部分を暗くしたら、より丁寧でしょうか。
どうか、視聴者に優しい編集・構成を。
さあ、どうでしたか?
今回は文章・映像・会話における〝理解〟〝感情〟〝認識〟のスピードについて書いてみました。もしも、あなたが文章で、会話で、映像で「伝わる」を提供したいなら、スピード違反に注意しましょう。
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