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伝えたがりな書き手による〝全部乗せ〟文章。タイパは最悪。

「タイムパフォーマンス」という考え方が定着してきています。

如何に時間をかけることなく大きな満足を得るか。コストパフォーマンス(費用対効果)の時間版ですね。「タイパ」「タムパ」と略されるようです。

さて、今回はそんな「タイパ」が最悪になってしまう文章のお話です。

端的にまとめるのが苦手。
伝えたいことだらけで収拾がつかない。
字数(尺)を大幅にオーバーしてしまう。

当てはまる書き手の方は、お付き合いください😊

放送作家として、僕が「タイパ最悪」と思う原稿・映像とは……、

〝全部乗せ〟です。

あの場面がよかった。
あの言葉がよかった。
あの表情がよかった。

といった調子で、取材で撮れたものが〝ぜ~んぶ〟入っている。なんなら、題材について知っていること、調べたことも〝ぜ~んぶ〟盛り込んである。

つまり〝全部乗せ〟とは、要素が全て詰め込まれているということ。

ディレクターとしては自分が「よかった」と思うものは〝ぜ~んぶ〟伝えたい。気持ちはよくわかります。仕事への情熱がある。題材への思い入れがある。それ自体は素晴らしいことです。

しかし〝全部乗せ〟には弊害もあるんです。

「割り振られた尺に入らない」

この点については、説明するまでもないでしょう。

問題はここからです。

例を挙げて説明しましょう。

仮に〝桃太郎〟の密着取材が実現したとします。タイミングは鬼ヶ島へと旅立つ直前。鬼退治に向けた覚悟と決意に迫るといった趣旨です。

撮れ高はこんな感じ。

「人間が本当に鬼を退治できるのか?」という疑問から取材スタート。実際に見てみると、身体能力が人間離れしている!

理由は不思議な桃にあるらしい。そこで取材班は出生の謎を解明するべく川の上流へ。そこで一万年に一度だけ実が生るという「神桃伝説」を知ることになる。

インタビューでは「本当は鬼と共存したいと思っている」なんて発言も。調べてみると、遠い昔に人間と鬼が共に暮らしていたという記録が見つかった。

周辺取材では、桃太郎の知られざる素顔が垣間見えた。おじいさん・おばあさんとの関係にほっこり。そんな優しげな桃太郎だが、髪型には相当なこだわりがあり、けなされるとプッツーーーーンと切れてしまうらしい。

まさに、伝えたいことだらけですね。

*桃太郎は鬼に勝てる
*桃太郎は「伝説の子」かもしれない
*遠い昔、人間と鬼は共存できていた
*理想の親子関係とはこうあるべきだ
*桃太郎にも意外な一面がある

さあ、これらを〝全部乗せ〟したらどうなるか。

僕の経験上、大半が「結局、なにが言いたいの?」という原稿・映像になります。

「本当に伝えたいことが薄くなる」からです。

メッセージは、要点を絞ってシンプルに言ったほうが伝わるもの。あれもこれもと詰め込むと、印象がバラけて本当に伝えたいことが薄くなってしまいます。

それに〝全部乗せ〟は「要素の掘り下げが浅くなりがち」です。

詰め込んだ時点で原稿が埋まってしまうので「深める」「重ねる」「ふくらませる」ところまで意識が回らなくなるのだと思います。

弊害はまだあります。

「構成の流れが変わってしまう」

本来なら「A・B・C・D」と構成したら流れるのに「E」という要素を入れたいがために「E・C・D・B・A」なんて順番にしてしまうなんてこと、よくあるんです。こうなると、ブロックとブロックをつなぐフリの表現も変わってきます。

また、伝えたいことの中に〝本筋〟とは違うベクトルの要素があった場合、無理に入れ込むと構成の流れが滞ってしまいます。

〝全部乗せ〟の文章を成立させるのは難しいんですよ……。

①割り振られた尺に入らない
②本当に伝えたいことが薄くなる
③要素の掘り下げが浅くなりがち
④構成の流れが変わってしまう

結局、これらの問題に直面して原稿を修正する羽目になる。ほら、タイパが悪いでしょう?

では、このような事態に陥らないためにはどうしたらいいか。

一にも二にも〝優先順位〟を付けることです。

今回の例で言うと……、

鬼ヶ島へと旅立つ直前というタイミングから、最も伝えるべきは「桃太郎は鬼に勝てる」という要素ではないか。それを裏付ける「伝説の子」は紐づきそうだ。逆に「意外な素顔」はノイズになるのでは?

などと考えるわけです。

ちなみに、これが鬼退治に成功したあとなら、話は変わってきます。むしろ「理想の親子関係」「意外な素顔」のほうが優先されるかもしれません。

ポイントは〝自分が伝えたいこと〟と〝相手にとって伝えてほしいこと〟が一致しているかどうか、です。

最後にひとつだけ。

〝全部乗せ〟の文章はタイパこそ悪いですが、条件と技術次第で大きな売りになる可能性もあります。

もしもそんな機会が巡ってきたら、トライしてみてください😊

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