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インタビューを通して気づいた自分の価値観

2つの客観的視点

「お前は生徒の気持ちに寄り添えるいい先生になる。」
ある日、高校の担任であったT先生から誰もいない教室で真剣に言われました。
それを聞いた進路相談中の私は、先生はそう思うんだ。くらいに考えていました。

その後大学に進み、教職課程を履修します。
英語と日本語の教授法や知識について楽しみながら勉強していました。

そんなある日、今度は大学のY教授がみんなの前でこう言いました。
「お前が教師になるなんて絶対無理だ。絶対に。」
特段素行が悪かったわけでも成績が悪かったわけでもなかった私は、この時も
教授はそう思うんだ。でも何でそんなこと言うんだろう。くらいに考えていました。
高校3年生と大学1年生の夏のことでした。

反復する声

それから十数年が経ち、私は現在日本語教師として働いています。
先日、大学院に在籍している日本語教師歴3年目の部下から研究対象者としてインタビューに答えてほしいと頼まれました。

職場に私服でMacBookを抱えて訪れた彼は、
「記録のために録音していいですか。」と普段とは少し違う面持ちで冒頭、こう切り出し「先生が大学時代に履修されていた日本語教育学の中で非言語コミュニケーションについてどんな指導を受けましたか。また、先生にとって非言語コミュニケーションとは何ですか。」と続けて質問しました。

あまりに唐突で、某テレビ局のドキュメンタリー番組さながらの問いにびっくりした私は、まず彼の研究目的は何なのかと言うことから話を聞き『主任から見る日本語教育においての非言語コミュニケーション』について話すべく、自身の日本語教育歴を振り返り始めました。

そして、大学時代の苦い思い出について、初めて人に打ち明けました。
「そういえば、大学3年の冬に大勢の前で模擬授業をして、表情や態度を指摘されたんです。総評で、あなたのその威圧的でムッとした表情や態度は、授業の雰囲気をぶち壊していると。」過去の失敗を言葉にすることで、まざまざとその時の光景が脳裏に浮かんできました。

それを聞いた彼は少し驚いた様子で傾聴しながらパソコンのキーボードを叩き出しました。私は続けて
「今でもふとした時に思い出して、授業中の雰囲気作り、例えば声色や抑揚、目線、距離や位置関係などに気をつけています。」と話しました。
彼は「先生、そんな昔のことを今でも思い出すんですか?」と手を止めて、聞き返しました。

確かに、もう十数年前のことです。
しかし、この模擬授業の総評にしろ、当時「そう思うんだ」とどこか他人事に感じていた高校の先生、大学の教授の声にしろ、今に至るまでの間、私の頭の中でずっと反復してきたとその時改めて実感したのです。

失敗からの学びを生かして

「先生、もう少し詳しくお伺いしたいのですが、例えば授業のどういった場面で先ほどの非言語コミュニケーションに気を配られているんですか?
純粋な眼差しで問いかけてくる彼に、少しの間を置いて私はこう答えました。

「そうですね、学習内容によって自分の立ち位置を変えることはもちろん、学生の座席位置はクラス活動やクラス運営の面でも留意しなければならないと思っています。だから、敢えていつもの席に座らせず立ち歩きさせたり違うペアを組ませたりすることで授業の活性化を図っています。
会話練習のペアワークでは、発表の際、なるべく本を見ないでアイコンタクトをしながら話すように注意しています。そして、抑揚は感情を読み取る大切な要素なので、文意も含めて確認、発話練習します。」

「日本にはまず、相手のことを考えるおもいやりの心が根付いているからこそ言語以外の、つまり非言語の部分で相手の気持ちを汲み取ろうとする日本人が多いと思います。だから、日本語の授業でこのような点に気を配って授業をしています。」そう言うと

「確かに国によって、あるいは地方によって違う部分もあるかも知れませんね。」と彼の母国である中国との比較や日本地方の比較などについてもインタビューを続けました。
時計はあっという間に1時間を超えていました。

その夜、自分の経験や考えが果たして彼の研究の役に立てたのかと少し不安に思いながら眠りにつきました。
しかし、数日後
「無事に発表が終わりました。とても面白かったです。勉強になりました。」
と報告をくれて、とても安心しました。


前進し続けるために

私が嬉しいと思う瞬間は、卒業生から近況報告の連絡をもらう時、久しぶりの再会で日本語学校での懐かしい思い出話を話す時、そして、これからのことを語り合う時など、たくさんあります。
しかし、これまでに「#天職だと感じた瞬間」は、組織が前進したと評価をもらったときです。
業務に注力した結果「おかげで学校システムが良くなった」や「教務の指揮が上がった」などの言葉をもらった時には、結果、多くの学生に影響を与えることができたことになり、この仕事は天職だと感じます。

業界歴は間も無く10年になりますが、課題は尽きません。
そんな中受けたインタビューは、改めて自分の価値観に気づかせてくれた良い機会だったと感じています。

心を開いて知識や経験を共有することは、組織改善の第一歩であること。
そして、前進し続けるためには、自分を振り返り、勉強し続けること。
時に客観的視点を持って立ち止まり、過去の失敗を思い出しながら。


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