『PERFECT DAYS』の劇中曲「PERFECT DAY」
ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』には、中盤あたりでルー・リードの楽曲「PERFECT DAY」の流れるシーンがある。見て分かる通り、曲名の複数形が映画のタイトルだ。
この曲は、ダニー・ボイル監督の『トレインスポッティング』でも使用されていて、流れるのはユアン・マクレガー演じるの主人公レントンが、ドラックをキメて床に絨毯ごと沈んでいく印象的なシーン。
一方、『PERFECT DAYS』では予告編にも使われているし、役所広司演じる「平山さん」がほっぺにチューされた後にかかるものだから、平山さんの気分と曲名とがマッチして、観ているこちらも気分が上がる。
どちらの映画の「PERFECT DAY」でも、主人公はとても気持ち良さそうである。後者はドラッグだが…。
さて『PERFECT DAYS』で「PERFECT DAY」が登場するシーンは(ややこしいな…)そこだけではない。柄本時生が演じた職場の後輩とカセットテープ屋に行くシーンでも、この曲が収録された「Transformer」というアルバムのカセットが、一瞬だけ登場している。
音楽に詳しい方はご存知かもしれないが、関連性をもう1点。
ルー・リードがかつていたバンドの名前は、「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)」。『PERFECT DAYS』には、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド名義での楽曲「Pale Blue Eyes」も使用されている(劇中でいう初日の帰路で)。
そしてヴェルヴェット・アンダーグラウンドの音楽を聴いたことのない方でも、1967年のアルバム「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ」のジャケットを見たことがあるという人は多いのではないだろうか。
アンディー・ウォーホルがデザインしたバナナのジャケットだ。
このアルバムではバンドのメンバーに加えて、クリスタ・ペーフゲン(通称:ニコ)がいくつかの曲でボーカルを担当している。
『PERFECT DAYS』に登場する、家に突然やってきた平山さんの姪っ子の名前も「ニコちゃん」だった。ヴィム・ヴェンダース監督のルー・リードへの敬愛が半端ないのである。
平山さんは朝起きて、植物に水をやり、缶コーヒーを買って車で出勤。高速でスカイツリーを見上げて天気をチェック、そして好きな曲を社内のカセットプレーヤーで流すというルーティーンで日々動いている。
ヴィム・ヴェンダース監督チョイスの曲が、平山さんの出退勤の際にかかるわけだが、ここで注目したいのは、こういった既成曲が流れるときに、BGMとしてではなく、映画の中での現実音(主人公が聴いている音)として聴こえるという点だ。
既成曲を映画音楽として使う映画は個人的にとても好きだが、その中でも『パルプ・フィクション』のように自宅のオーディオで流したり、
『トップ・ガン』のようにジュークボックスから流れてきたり、
『ベイビー・ドライバー』のようにiPod(iPhoneじゃないあたりがシブい)で聴いたり、
最近の作品だと『枯れ葉』のようにバンドのLIVE演奏だったり、
そんな使い方をする映画が、特に好きなのだ。
『PERFECT DAYS』で流れる既成曲は、全て平山さんの車のカセットと家のオーディオから流れている(多分)。先にあげた例も含め、こういった音楽の使い方はなかなか難しい。映画の雰囲気にあっているということに加え、劇中での現実音として流れていても違和感がないという条件が増えるからだ。かつ両方が叶ったとしても、曲の使用許可が下りるかはまた別問題である。
今後、映画をご覧になる際「良い感じの曲が流れたぞ」と感じたら、どのようにして音楽が流れているかぜひとも注目していただきたい。
しかし、『PERFECT DAYS』でルー・リードの「PERFECT DAY」の使用許諾が下りて本当に良かった。もし下りていなかったら、なんというタイトルの映画になっていたのだろうか。
▼『PERFECT DAYS』に出てくるトイレに行ってみた
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