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【ビール×サイエンス】世界観に共感するクラフトビールの醸造工程

ハニービールの専門工場「HONEYCOMB&HOPWORKS(ハニカム&ホップワークス)」。お店の裏に併設されているブリュワリーを、醸造責任者である木下祐斗さんに案内していただきました。

HONEYCOMB&HOPWORKS
ブリュワー木下祐斗氏

ー裏は完全に工場ですね…。ハニービールの醸造工程を、詳しく解説していただけますか?

まずビールの主原料は、麦芽・ホップ・水・酵母。ウチはハニービール専門なので、それに加えて蜂蜜です。

そして仕込みでは、麦芽の粉砕からスタートします。

麦芽粉砕機

これがその時に使用する粉砕機。海外から取り寄せたもので、上の粉砕機以外はDIYで作りました。電動ドリルを挿して、回しながら麦芽を投入していきます。定番のハニービール醸造1回分で麦芽は約60kg、多いものだと約85kg使ったりすることもあります。

粉砕する前の麦芽
この白い袋が満杯で約25kg

ー1回の醸造分で、何リットルくらいできるんですか?

最終的な製品としてできるのは250リットル前後です。週に1回仕込むので、1か月で約1,000リットルぐらいできる計算になります。

私の「発泡酒製造免許」だと、年間に最低でも6,000リットルを製造しないといけないので、半年やれば規定量にはなりますが、目標としては年間9,000~1万2,000リットルに設定しています。

ーこの三浦のボイラーは、何用なんでしょう?

熱源ですね。熱し方にも色々あって、ウチではボイラーから高温の蒸気を、それぞれのタンクにある「ジャケット槽」というタンク全体を覆う隙間に流し込むことで、保温・加熱・煮沸しています。

ジャケット槽の仕組み
図はユニコントロールズ株式会社Webサイトより

ーなるほど。印象が強くて紳助さんのCMだけは覚えていましたが、ようやく三浦のボイラーの役目を理解しました。

ーこちらのタンクは何をするためのものですか?

この3つのタンクをセットで、「ブリューハウス」や「仕込み装置」などと呼んでいます。名前はそれぞれ、ホットリカータンク、糖化槽、煮沸釜。

お湯を貯めておくホットリカータンク
左:糖化槽(マッシュ・タン)
右:煮沸釜(しゃふつがま)

糖化槽に65~68度ぐらいのお湯を張っておいて、そこに先ほどの粉砕した麦芽を投入し、1時間保温します。その間にタンクの中をぐるぐる回して攪拌(かくはん:2種類以上の物質をかき混ぜ、混合状態にする)していきます。

「糖化槽」の中

そうすると麦芽が本来持つ酵素力が働いて、麦芽の中のでんぷんが、アルコール発酵の原料となる糖に変わっていきます。これが「糖化」です。そのままでは液体の上部と底部が均一になっていないので、濾過しながら一度タンク内を循環して均質化された後に、次のタンクへと移送します。

この液体が「一番搾り麦汁」と呼ばれるものです。ただ、1回だけでは十分に麦芽の糖分を取りきれないので、もう1度ホットリカータンクに貯めてあったお湯を麦芽にかけることで、残った糖を回収します。

この時の麦汁が約320リットル。今度はそれを煮沸していきます。煮沸の目的は、殺菌やタンパク質の凝結、そしてメインがホップの投入です。

「ホップ」
画像:よなよなの里より

<ホップとは>
アサ科つる性の多年草植物。ビールの味や香りに重要な役割を持ち、ビール特融の「苦み」と「香り」を与え、泡の安定化や保存性を高める働きがある。苦味をつけるのが得意なホップは「ビタリングホップ」、香りをつけるのが得意なホップは「アロマホップ」と呼ばれる。

苦味付けのためのホップは高温で溶け出すので、煮沸の最初に入れるんですが、香り付けのホップに関しては、その最初の段階で入れると揮発してせっかくの香りが残らないので、ボイルエンド、つまり煮沸後に投入します。

この煮沸後のタイミングで入れるのが、うちの主役の1つ「蜂蜜」です。その後「ワールプール」という工程に入っていきます。

ー何ですかそれ?カッコイイ響き…

タンクの下から液体を抜いて横から戻し、タンク内の液体を旋回させるんです。そうすることで、ホップの固形物や凝結したタンパク質などの不純物を、下の方に溜めていくという工程になります。

不純物は必要ないので産業廃棄物として処理。残ったクリアな液体を「熱交換器」に通します。この時、液温が90度くらいあったものを一気に20度くらいにまで冷却します。徐々に冷ますと品質にも影響が出るので、一気に冷やすのがポイントです。

ー「熱交換器」すごいですね。そんなに一気に冷やせるとは。

「ヒートエクスチェンジャー」という装置です。

ー名前がいちいちカッコ良いですよね。マッシュ・タンあたりから思ってましたけど。

(笑)

そして、「発酵」という工程に入ります。酵母(イースト菌)を投入していき、その酵母がこれまでの工程で生成された糖を食べることで、アルコールと二酸化炭素(炭酸)が作られます。

酸素も一緒に入れてあげるのですが、そうするとその酸素も糧にして、酵母が発酵する過程で、活発に活動してくれるようになります。本来、酸化リスクがあるので酸素は不要というのが基本ですが、その時だけは、酵母の活動をサポートしてあげるという使い方で必要になります。

ウチは、発酵期間を少し長めにとるので1週間ぐらい。発酵タンクの横からブクブク出ているのが、発酵の過程で生成されている二酸化炭素です。

酵母が糖を食べてできた二酸化炭素(炭酸)

このブクブクが収まってきたり、糖度の減少が落ち着いてきたら、発酵が終わりの合図です。

発酵前は、麦芽糖と蜂蜜の糖で、すごく甘い麦汁なのですが、酵母が糖を食べるにつれて糖度も低下します。糖度の低下が収まったら、酵母が糖を食いきった頃合いだと判断できるわけです。

そして発酵が終わると、2週間ぐらいの熟成期間に入ります。

ー結構かかるんですね…ここにあるのは4つとも発酵タンクですか?

発酵タンク

そうですね。4つあるので、最大で4種類のビールを発酵と熟成で置いておけます。向こう1ヶ月で、このビールがこのくらい出るだろうという予測を立てつつ、既存ビールを増産や新製品の試作で使い分けています。

ー発酵や熟成などの温度管理はどのようにしているのですか?

この操作盤で管理しています。

例えばここは、「設定温度が6度で実温度が5.9度ですよ」という意味です。こっちのタンクは絶賛発酵中ですが、設定温度を21度にしていることが分かります。

タンクの温度管理のほかにも、攪拌機を動かしたり、ポンプを動かしたり、色んな操作ができるようになっていて、ブリューハウスから手の届く位置に設置したのが、ここを建てた時のこだわりでもあります。

ーこっちの大きい二酸化炭素のボンベは、何用なんでしょうか?

二酸化炭素は色んな用途がありますよ。

二酸化炭素ボンベ

例えばタンク間のビールの移動。タンクAからタンクBにビールを移す時は、ちょっとアナログな方法ですが、Aにはガスを入れ、Bからはガスを抜きます。そうするとA内の圧が強まり、逆にB内の圧は弱まって、できた内圧の差によって移動させることができるんです。

あとはシンプルにビールの炭酸ですね。熟成が進んだビールの中を密閉状態にして、上から二酸化炭素を入れてあげると、逃げ場のないガスがどんどん液中に浸透していって、炭酸のシュワシュワ感を生んでくれます。

ー酵母が糖を食べた際にもCO2(炭酸)が生成されますが、それでは足りないんですか?

足りないというか、そのガスは1回外に出しちゃうんです。さっきボコボコしていたのが逃がしている二酸化炭素です。ガス中には一緒に生成された不要な香味なども含まれているので、一度全てを外に出して、シュワシュワ感の発泡性というのは、後からこのボンベでつけてます。

ーそうだったんですね、生成された二酸化炭素だけであんなにシュワシュワしているんだと思ってました。

もう1つ、二酸化炭素には、ビールのビン詰めの際にも重要な役割があります。

まず前提として、ビンに入れた後の品質保持のために、ビンの中に酸素が入ってくることを防ぎたいです。そのためには、元々ビンの中にある空気中の酸素すらも邪魔になります。

そこで便利なのが、酸素より二酸化炭素の方が比重が重いという性質。これを利用して、ビン内に二酸化炭素を注入すると、酸素が逃げ二酸化炭素で充満させることができます。その後にビールを注いでいくという流れです。

ビール製造に二酸化炭素は欠かせない気体です。

以上、仕込みを始めてから、ビールになり、ビン詰めされて製品になるまでの約1ヶ月にわたる工程でした。

ーありがとうございました。サイエンス好きには面白いエピソードばかりですね。

ーハニカム&ホップワークスさんの、ハニービールのラインナップを教えてください。

ウチはレギュラーで常に出しているのが2種類。

1つが繊細な香りの「ライチ蜂蜜」と高品質ホップ「ザーツ」を使用し、苦みが少なく飲みやすい印象のHoneycomb Bullet(ハニカムバレット)。

もう1つが、コクのあるミャンマー蜂蜜とトロピカル系ホップ「モザイク」「エクアノット」を使用したBoom2(ブンブン)です。

それ以外は、準レギュラーと限定醸造。本当はレギュラーを4~5種類にして、+1種を限定にしようと思っていたんですけど、作ってみたいものが多過ぎるのと、コロナ禍でレシピのストックかなりできたことで、あとは作るだけというものが結構あるんです。

ーレシピはどのように記録・保管されているんですか?

完成度8割くらいまで考えたものを頭に入れてあって、レシピとして書き起こすのは、実際に醸造する時だけです。

ー紙で持っておくのではなくて、頭に置いておくってすごいですね。

途中、頭の中で修正したりもするので、紙ベースで書き起こしておくより手間が省けるんです。

レシピは時間かけた分だけ良いものができるというものではなく、ひらめきやインスピレーションも重要です。運転中とか、飲んでる時、そういう脳がリラックスしてる時に思いつくのが割と良いレシピだったりします。

ーハニカム&ホップワークスさんはパッケージデザインも素敵ですよね。

これまでも色んなデザイナーさんにお願いしていたんですが、この度ALES(エールズ:Artist Label Edition Series)という企画を立ち上げたんです。

アーティストさんのコミュニティーになっているんですが、そこに「今度の新作ハニービールはこういうコンセプトです」と伝えて、所属アーティストさんがパッケージを作ってくれることになっています。

ー面白い。洒落てますね。

ウチに来たくださっているお客さんや、クラフトビール業界的にも、美味しいビールを飲むだけではなくて、世界観に共感してファンになってくれる方が多いです。

なので、もちろん美味しいビールは創っていくんですが…デザインを見ながら、お店に来ていただければ設備を見ながら、いま飲んでいるそのハニービールにはこういうエピソードがあるんです、といった世界観やコミュニケーションも含めてハニービールを楽しんでもらえたら嬉しいです。

取材にご協力いただきありがとうございました

お店についてや、ハニービールについての基礎知識はこちらから。

GALLERY

(写真:若槇由紀)

HONEYCOMB&HOPWORKS
ハニカム&ホップワークス
東京都新宿区上落合2-10-19
・東京メトロ東西線 落合駅から徒歩5分
・都営大江戸線 中井駅から徒歩8分
・JR線 東中野駅から徒歩8分

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