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昨日に別れの接吻を

戻りたいと思うほどではないが、高校時代はそれなりに楽しかった。鬱屈した中学時代を過ごしてきたので、なおさらそう感じるのかもしれない。
武闘派のヤンキーがのさばる学校で、先輩が恐ろしくてたまらなかったが、彼らはすぐにドロップアウトする傾向にあった。長期休暇が明けると退学するか、行方知れずとなり、音信不通となるのだ。それはそれで薄気味悪いのだが、おっかない先輩が徐々にいなくなり、ヤンキーの勢力はあからさまに弱体化した。武闘派が全滅したわけではないが、孤立状態になり、卒業までおとなしく過ごしていた。
そうなってくると、学校生活に物足りなさを感じてくる。刺激を求めていたわけではないが、漠然とした焦りと不安が、頭をよぎるのだ。
青春っぽい、なにかをせねば。
なにかは分からないが、青春といえば部活だろうか。武闘派が学校を支配していた頃は、部活どころではなかった。競技用具や備品を窃盗、破壊、あるいは水浸しにする。などといった、愚かな行為が繰り返されていた。しかし、彼らが力を失ったことで、部活動が少しずつ活発化する。まずは、バスケットボール部に所属していた後輩たちに声をかけることにした。
「バイトが忙しくて……」
「彼女と遊ぶ約束してて……」
「入部したおぼえないっす」
壊滅状態ではないか。僕は潔く部活を諦め、次のターゲット(青春)に狙いを定めた。
同級生がバンドを結成しており、メンバーを探していたのだ。バンドのリーダーに声をかけると、練習の見学に誘われた。
自宅のガレージにならぶドラムセットやギター、ベース、マイクスタンドに興奮した。空調のないガレージは、凄まじい熱気で頭がくらくらしたが、そんなのものはすぐにふき飛んだ。音楽の破壊力はとてつもないのだ。同級生は、どんなロックを聴かせてくれるのだろうか。胸の高鳴りを抑えられない。
演奏がはじまった瞬間に、鼓動がピタッと鳴り止んだ。ボーカルの音程が、絶望的に外れていた。彼は別に悪くないのだが、これじゃない。と思った。
結局は、自分でやるしかないのだ。僕は自室にこもり、夢中になっていたノイズミュージシャンを真似て、アンプから爆音を流した。エフェクターでカオスにしたノイズをレコーダーで録音し、アートワークも作成した。はじめての自作ノイズだ。
カセットデッキから再生されたノイズは、本当にただの雑音だった。これじゃない。と思った。
爆音から解放されて静まりかえった部屋に、虚しさが漂う。情け無用の青春に、茫然と立ちつくす。

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