SaaSにおけるEnterpriseの本質
前回までのまとめ
日本国内のSaaS市場はキャズムをまだ迎えておらず、シンプルに市場が成長段階にあります。つまりは、目新しいもの好きの顧客が購入をするだけで成長をしている状態です。
この状態においては、どちらかといえば顧客獲得までの上流側に位置する「マーケティング部門の役割の力が大きく、営業が存在する意味はあまり大きくない」と以前のnote(SaaSの営業の存在価値が低い理由)で書いてます。
しかし、日本国内においてはここ1~2年で確実にキャズムを迎え、そのキャズムを超えて今後も成長をしていくためには営業の存在が不可欠となります。ただ、SaaSにおける営業も企業ごとの戦略やプロダクトの性質によって以下の4つに分類できる。とお伝えしました。
・Enterprise
・Transaction
・Self-Service
・Graveyard
その中でも、日本国内で一般的に語られるSaaSの営業はTransactionに寄っています。
このTransactionのモデルは、その名の通り、効率よく、数をこなすことが最大の目的です。なので、営業自身の頑張りだけではなく、顧客獲得の上流に位置するマーケティング部門、ふるい分けやナーチャリングを行うインサイドセールス部門の役割も必要不可欠です。
つまり、このモデルで最も大切なことは、オペレーションなのです。
しかし、このモデルではいつまで経ってもインバウンド頼みの営業スタイルから脱却できず、キャズムを超えることは難しいです。
・SaaSの営業がキャズムを超えるために知っておくべき4つの分類
そんな状況であるとはいえ、SaaSの営業って難しい仕事だとも私は考えています。
BtoB×新規開拓×無形商材×案件型
簡単な仕事ではないということを以下のnote(SaaSの営業が難しい理由)で解説してます。
Enterpriseへ転換する必要性(働きアリの法則)
SaaSビジネスにおいて、Enterprise市場への進出は非常に重要です。
働きアリの法則やパレートの法則、2:8の法則といわれる統計モデルにおいては、たった2割が全体に大きな影響を与えるという法則です。
以下が例です。
・会社全体の売上のうち8割は、上位2割顧客から得ている
・会社全体の売上のうち8割は、上位2割の営業がもたらしている
不思議なもので、どの企業においてもおおよそこのような収益構造になっていくと思われます。
となると。。。
当然上位2割の顧客を獲得していく必要があるし、上位2割の顧客を離さないようにしていかなくてはならないです。
上位2割(ロイヤルカスタマー)の定義
今までのIT業界の営業は従業員数、売上、資本金、上場の有無などから優先的に対応する顧客を選定し、大手企業担当=Enterpriseと名付けていました。
また、彼らは1発の大きな受注をし、数年にも渡るプロジェクトを実行し、多くのプロジェクト大失敗、そのベンダーが出禁という負のループを5~7年スパンで繰り返すばかりでした。
(ハードウェアがあるので、5年はベンダーが変わらないことが通例)
要するに、ロイヤルカスタマーの半数が5~7年スパンで変わり続けるという
1745件に上るシステム導入/刷新プロジェクトのうち、約半数の47.2%が「失敗」ーー。
出典:日経BP デジタルトランスフォーメーション DXへの技術
ものすごーーく平たく言うと、
ロイヤルカスタマーの半数が5~7年スパンで入れ替わるってことです。
しかし、SaaSにおいては、
・初期投資を抑えて使い始めるハードルが低い
・気に入らなければいつでも止められる
というサブスクリプションの特性を持つこともあり、だめならすぐに顧客が解約をできるんです。
となると・・・いくら大型の案件を受注しても1年で解約されてしまっては、あまり意味がないとも言えます。
①1000万円/月の契約×3ヶ月=3000万円(ACV=1.2億円,TCV=3000万円)
②100万円/月の契約×3年=3600万円(ACV=1200万円,TCV=3600万円)
上記のようなパターンなら、当然②のパターンのほうが上位顧客といえるわけです。
従来型のEnterprise営業だと、従業員数、売上、資本金、上場に有無から判断し、得られる売上ベースで選定されており、TCVまでは考慮されていません。
しかしながら、SaaSにおけるEnterpriseは、TCVが何よりも大切になってきます。そのため以下の3つを総合的に判断する必要があります。
①得られるACVのポテンシャル
②使い続けてもらえるかどうか(継続率)
③更に活用してもらえるかどうか(アップ/クロスセル/リテンション)
従来型のEnterpriseは①にフォーカスをし、ビジネスを進めておりましたが、SaaSにおいては、②③も合わせて考慮しないと上位2割のロイヤルカスタマーを獲得することができないということです。
高いTCVとは
高いTCVを得るためには、
①得られるACVのポテンシャル
②使い続けてもらえるかどうか(継続率)
③更に活用してもらえるかどうか(アップセル,クロスセル/リテンション)
が重要と言いましたが、
②はカスタマーサクセス部門、③は既存担当営業orカスタマーサクセス部門による部分が大きくなるため、
(カスタマーサクセス部門については、別記事で詳しく解説します・・・)
営業としてやるべきことは①の得られるACVのポテンシャルが高い顧客を獲得することになります。
ACVのポテンシャルが高い顧客と大型商談
ここまで考察をした結果、
SaaS企業として狙うべきEnterprise顧客=大企業とは言い切れない。
しかし、営業として狙うべきは、
ACVのポテンシャルが高い顧客
を狙うわけです。
もちろん、将来的にアップセル,クロスセルで大きくしていくことも重要ですが、新規営業のやるべきことは、初期のACVを大きくすることです。
もっとザックリいうと、大型商談を獲得することです。
ここでいう大型商談とは、インバウンド型のTransaction営業では獲得することができなかったとても金額の大きな商談です。(およそACV1000万円以上)
そのくらいの大きな金額の商談には、当然、導入の意思決定に関わる人数、プロセスも膨大となり、時間もかかりますし、都合よくインバウンドでリードが入ってくる訳はありません。
では、大型商談を獲得するためにやるべきことはなにかというと、
①対象となる企業をターゲティングする
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②対象となる企業へアウトバウンドする
③買う気の無い顧客(インバウンドで無いため)の購買意欲を醸成する
④ステークホルダーのコントロール
が必要になります。
じつはここまで来ると、①以外は従来型のEnterprise営業とやるべきことは同じになってきます。
しかし、Transactionを生業としていた企業においては、Enterpriseとしての営業手法を知らないため、本当に獲得すべき上位2割のロイヤルカスタマーを攻略できていない。もっというと、キャズムを超えることができないというわけです。
次回予告:Enterpriseとしての営業手法
次回は、先程書いた
①対象となる企業をターゲティングする
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②対象となる企業へアウトバウンドする
③買う気の無い顧客(インバウンドで無いため)の購買意欲を醸成する
④ステークホルダーのコントロール
について詳しく説明をしていきます。
①のターゲティングについてはSaaS特有の考え方ですが、
②~④については、一般的なEnterprise営業との違いがあまりないため、
こちらについては、SaaSとせず、一般的な営業テクニック集としてnote公開しようかなとおもってます。
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