191 自己受容

はじめに

最近の研究では、先進国の多くで心に何らかの問題をかかえている子どもが増えているというデータがあります。5人に1人は何らかの不安をかかえているとのデータもあるほどです。
今日の教育コラムでは、明日の教育から役立つ子どもの頃を育てるという考え方について少しお話してみたいと思います。

心の3大欲求を意識した関わり

心の三大欲求という言葉がありますが、心理学的にはこの3つを次にように定義しています。
①自分の意思に従って決断している感覚(自律性)
②人とのつながり(関係性)
③自分が何かできるという感覚(有能感)
この3つを理解しておくと、何気なく子どもたちが好きで取り組んでいる動画づくりや配信など直接学力に関係ないようなことでも、①自分が好きで、②喜んでもらえる人のために、③自分で作りほめてもらえる、といったように心の3大欲求を満たす営みがそこに存在しているのです。
このように自分がやりたいことが、つながりや、適切な評価を得られるようなサイクルが学習のなかにも存在すると子どもたちの心の欲求が満たされるので、学習にも良い効果が生まれます。すると、心の安定やメンタルケアにもつながります。
このことを理解していると評価で圧迫したり強いコントロールで学習させたりするようなやりかたは心への負担が大きく、大きな学習効果を生みにくいことがわかるわけです。時にはそうした外発的な動機付けも必要ですがそのことに頼りすぎてはいけないということです。
では、この心の3大欲求を満たす様な取り組みで、自己肯定感を高めることのできる学びとはどのようなものがあるかというと、「子どもに親切にする」という行動をとらせるようにしていくことがよいかと思います。
毎日いつでもということではなく、親切にするという取り組みを思う存分に意識して行う日を設けてみてください。すると自分で親切を考え、誰かとつながり、そして感謝されるという3大欲求を満たしつつも自己肯定感が満たされていきます。親切にする内容は子どもが決めることが大切でそれがないとやらされている感が強くなります。

失敗したときに伸びる意識

テストの点数が悪かった時や試験や検定に落ちた時に人間の脳には、失敗をばねに成長するために様々な成分が分泌されます。
このことを科学的な根拠も合わせて子どもたちに説明することだけでも点数に一喜一憂するのではなく自分が今何ができてできないのかを認識することにつながります。勉強のスタートは、できないことや知りたいことを明らかにすることから始まるように、自分が何をすべきなのかを明確にすることにつながるのが失敗したときなのです。
だから失敗したことを批判したり、悲しんだりするのではなく次の目標が目の前に失敗として現れているのでそのことをやっていくことを明確にするというポジティブな関りが周囲の大人にも本人にも必要になるのです。
するとそのわからなかったところがわかるようになるので、自己肯定感が高まっていくのです。

自己をみつめる

自己受容とは、ありのままの自分を受け入れることと言い換えることができます。これができるようになると、自分や周囲をきちんと見極めることができるようになり、心の負担を軽減することもできるようになります。
自分をありのままに受け入れることは、ネガティブなものも含まれます。できないことや苦手なこと、こうしたものにも価値がありますし、自分らしさの一部であります。
難しいのが、ネガティブなことや気もちと向き合うこです。できるだけ、無理やり忘れようとしたり、ポジティブな考え方で塗り替えようとせずに自然にその感情を大切にしてほしいと思います。
例えば、日記などにネガティブなことを書いてみることもおすすめです。毎日、何かしら生じるネガティブなことを日記に記すことで、ふり返ることにもなりますし冷静に見つめ直して、その改善の方法や解決の方法を考えるきっかけにもなります。

哲学的な思考

哲学的な思考とは、「そもそも、それは何だったのか」を考えることです。そんなの常識だよ、当たり前だよ、と子どもたちは時々、出来事や事象に対してそのような反応を見せることがあります。
しかし、物をよく考えることのできる子どもは、当たり前にとらわれずに、知ったかぶらずに、まずは疑ってみることから物事を考えていくことができます。まさにそのことから「哲学」が始まるのです。
これまでの常識を疑うことで、新しい常識を見つけることができるのであって、そのことがまさに「哲学的思考」の原点なのです。哲学的な思考を育てる大切なポイントは次の3つになります。
・問いを立てる
・根拠や理由を考える
・相手の意見を聞く姿勢を大切にする

どんな哲学対話をしてみるといいかというと、小さい子には「甘くて、やわらかい物ってどんなものがある?」と問うてもいいですし、慣れてきたら子ども自身に問いを考えさせてみてください。少し年齢が大きくなってきたら具体的な物から抽象的な物に変えていってもいいです。
また、さらに年齢が上がったら、そのものの目的を問うようなテーマもいいかもしれません。例えば「学校にテストが無かったらどうなる?」というような当たり前のことをなくしたときにどんな新しいものができるかを問うてみると新しい世界を創造する思考が育ってきます。
哲学的な思考を高める取り組みの中では、解釈する力、分析する力、評価する力、推論する力、説明する力なども高まっていきます。つまりこのような力は、自己受容にもつながる目と思考を養うわけです。
自分を見つめることからすべてが始まるとは言いませんが、学力を伸ばすとは自分を見つめることから始まることが多いのです。

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