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48 内閣不信任決議案(No-confidence motion against the Cabinet)


はじめに

今日の教育コラムでは、選挙について少しお話してみたいと思います。お話ししようと思ったきっかけは、ニュースや報道番組などで最近、「国会がざわつく」という言葉をよく耳にしたからです。「国会がざわつく」大きな原因として国政選挙が近づいてくることがあげられます。
国会議員にとって、選挙に勝つことは最も重要な事象であり、負けることは、すなわち国会議員として活動することができなくなることを意味するわけですから、ざわつくのも無理はありません。
中でも、解散総選挙という事態が生じた場合は、このざわつきはピークに達します。それでは、この解散総選挙と最近話題の国会のざわつきの原因となっている内閣不信任決議案がどのように関係しているのかを見ていきたいと思います。

内閣を不信任する決議案とは

内閣とは、立法(国会)・行政(内閣)・司法(裁判所)の三権分立のうち、行政を意味します。つまり、国の仕事を進める機関を指します。この権力・権限のことを行政権と言います。このトップが内閣総理大臣となるわけです。この内閣に対して、仕事の進め方に問題がある場合や行いが不適切である場合に、立法権を有している国会が信じて任せることに問題を感じた場合にその意思を表明し、決議を求めるために提出する案が、内閣不信任決議案となります。一般的には略して、内閣不信任案と呼ぶことが多いです。

内閣が不信任となると

もしも、この議決案が出席議員の過半数の賛成により可決された場合について簡単に説明します。
不信任と可決された時点から、なんと内閣は10日以内に「衆議院解散」か「内閣総辞職」のいずれかを選択します。例え、衆議院を解散させることを選択したとしても、総選挙後には「内閣総辞職」をしなければならないのです。つまり、内閣に対して不信任が可決された時点の内閣がそのまま存在し続けることは不可能だということです。このことは、日本国憲法に記されていて、大変強い法的拘束力を持つ権限なのです。
似たようなものに参議院から提出できるものに「問責決議案」というものがあります。これは、似て非なるもので、内閣に対してではなく個々の大臣や総理大臣に対して提出するものとなっています。内閣全体に出しているものではないので、可決された場合であっても、内閣総辞職をする必要はないのです。ただ、総理大臣に対する問責決議案が可決されるようなことがあれば、いかに総辞職をしなくてもよいとはいえ、相当なダメージを内閣は負うことになります。

議院内閣制における内閣不信任案のもつ意味

アメリカやフランスは大統領制をとっているのに対して、イギリスや日本は、「議院内閣制」をとっています。大統領制では、国民からの投票により政治のリーダーを選びます。国民が直接選んだこの人物にはたいへん強い権限が与えられ、議会とは別に独立して選出します。
それに対して、議院内閣制では、内閣総理大臣を国会議員の中から国会が指名します。つまり、内閣というものは国会の信頼の上に成り立って行政をしているという構造なわけです。だからこそ、内閣が誕生するのも総辞職するのも国会に委ねられているというかたちになっているわけです。

3つのシナリオ

内閣不信任決議案が可決された場合に2つ、否決された場合に1つのシナリオが基本的には用意されています。
1つ目のシナリオが可決された場合に解散総選挙を行うというものです。実際に可決された過去の事例では、このシナリオがいずれも実際には発生しています。流れは、可決から10日以内に衆議院を解散させ、解散から40日以内に総選挙を行います。この時点で、すでに国会議員は議員としてではなく、元議員として多くの方が地元に帰り、あいさつまわりや選挙事務所の立ち上げなどに追われます。 そして、選挙から30日以内に特別国会を召集し、不信任となった内閣は総辞職をします。その後、次に内閣総理大臣が国会から指名されます。内閣総理大臣は組閣をし、新内閣が誕生するわけです。これが最も国会がざわつくこととなるでしょう。
2つ目のシナリオが、解散総選挙をしなかった場合ですが、可決から10日以内に内閣が総辞職するところまでは同じです。その後、現状の国会が新たな内閣総理大臣を指名します。後は、同じように組閣をして新しい内閣を発足させます。新しい内閣の顔ぶれに注目が集まり、組閣の前後がざわつくことになるでしょう。
そして、3つ目が何事もなかったように時が過ぎていく、内閣不信任案が「否決」された場合です。決議案が出された時の内閣が基本的には、そのまま続いていきます。このパターンが日本の場合はほとんどです。
2大政党制になっているような国では、拮抗した関係の中であればなおさら、可決されるか否決されるかわからない緊張した関係が生まれるのですが、野党が少数の場合、緊張状態にすらならないのが現実です。

過去に4回の可決

日本国憲法の下では、内閣不信任決議案が可決されたのは、過去に4回しかありません。この数字は、10回に1回にも満たないほど珍しい出来事と言ってよい数字です。一番古いものは、1948年の吉田茂内閣に対するものです。ちなみに吉田内閣に対しては1953年にも可決されています。そして、1980年の大平内閣、1993年の宮沢内閣と続きます。与党の一部の議員の造反等が起きるとこのように稀に可決される場合があります。そうなると政局は大荒れになり、ざわつきどころではなくなるわけです。また、いずれの場合においても、内閣不信任案が可決されたのちに衆議院を解散しています。

政治への関心

内閣に対して不信任決議が出されても、さほど緊張状態にならないことは、政治に緊張感が生まれないことを意味します。国会の指名は、国民の代表者である国会議員の出した結論です。その取り組みが信頼に足るか否かを問うこの決議は、本来は大変重要なものであるのですが、現状では、現状を変えるほどの意味を持ちません。
間接民主主義の日本では、ただでさえ国民の声が政治に直接的に届きにくいため、世論を反映する機会である選挙は特に重要となります。どの政党に政治を任せたいと考えるのか、どんな政策を実現してほしいのかを国民として示す手段が選挙なわけです。
それだけに、衆議院の総選挙にもつながりかねないといった、緊張感がこの内閣不信任決議案には必要なのではないでしょうか。出しても、最初から否決がわかっているような状態では、政治の動きや国会の判断に国民の関心は向かないのではないでしょうか。
国民のためのよりよい政治は、国民の政治への関心に支えられていて、その関心は、ある種の緊張状態が必要なのかもしれません。

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