「子どもを勉強で追いつめない」3つのポイント

前回の記事(「子どもの権利保障と学びの深刻な関係」)では、学習支援の現場から見た、子どもの権利保障と学びの関係について紹介しました。

今回の記事では、ダイバーシティ工房が運営する自在塾スタジオplus̟+地域の学び舎プラットが行う学習支援の現場で、子どもの学びのために大事にしていることは何か。
「勉強させられて辛い」という状態の子どもについてどのような関わりをすると変化が起こりやすいか、3つのポイントを紹介したいと思います。

結論:「勉強させる」にブレーキを


結論から言うと、「勉強させる」にブレーキをかけて、
・子どもの感じ方を尊重し
・大人から状況を整理したり意見を伝えた上で
・子どもが自分で決める

という構造にすることで状況が好転することが多いです。

前回の記事で紹介したHさんの例で言うと、プリントの内容自体は問題ではなく「やらないといけない」と一方的に伝えられたことが問題であったと、私たちとしては捉えています。

これはとても大事なことなのですが、
結果として同じことに取り組んでいても、

「自分でやると決めた場合」
「自分の意思とは関係なく用意されてやらないといけない場合」

では、取り組みの成果に天と地ほどの差があります。
さらに後者は多くの場合マイナスの影響を及ぼす可能性すらあります。(もちろん程度の問題ではあります)

つまり「学ぶ」と「学ばされる」の違いはとても大きく、子どもが学びに追いつめられるような構造にしてしまうことは、極力避ける必要があります。

「勉強させる」にブレーキをかけるというのは、決して子どもを甘やかしたり、かわいそうだからという訳ではなく、マイナスの影響を減らし、出来るだけ学習の成果が出やすくするために必要なことなのです。

大人でいえば、
目的や目標を明確に持って仕事に取り組めている場合と、
自分では変えようがないノルマが既にあって日々それに追われる
という状況に比べることが出来るかもしれません。

後者の場合は一時的にはそれでも良いかもしれませんが、ずっとその状態を続けられる人は、そう多くはいないでしょう。
子どもの学校生活は決して一時的なものではなく、小学~高校までで12年間も続くというのも、とても大事な視点です。

もう少し具体的なポイントを3つ紹介します。

<ポイント1:保護者が適切なサポートを受ける>

前回の記事でも保護者へのサポートの必要性について触れましたが、やはり具体的に保護者の役割を減らしたり、寄り添ってくれる人を作ったり、ということが不可欠だと思います。

週に1回1時間だけその子に接している私たちでも大変だと感じることが多いくらいですから、毎日一緒に生活している家族には、多大な負担がかかっていることでしょう。

「それが家族の役割ですから」とおっしゃったお母さんもいましたが、そう思えることもあれば、そうは思えない場合、またはそうは思っているけど…ということもあることでしょう。

ダイバーシティ工房の自在塾・スタジオplus+・地域の学び舎プラットで行う学習支援では、「保護者の不安の軽減度合い」を1つの指標にして定期的にアンケートを取っていますが、

・子どもへの理解の視点が増えた(理解が増した/相談できるようになった)

・実際に負担が減った

・安心して通わせられる場所ができた

といったことが、不安の軽減につながっている要因として大きいと捉えています。
実際に保護者アンケートでは、不安軽減の要因として以下のような回答をもらっています。

・不登校だったのが、人との関わりをプラスやプラットで繋がっていたお陰で、中学を機に学校生活に馴染む事が出来たと思っている。親が言わなくても、帰宅してすぐに自ら宿題を終わらせてから余暇を楽しむ様になった。

・少しずつ自信を取戻し、頑なに嫌がっていた勉強にも取り組めている。私自身も相談できるところが増えた。

・本人はあまり話してくれないので、毎回いただく報告書について、どんな会話をしたのか、その日の様子はどうだったかなどわかりやすく報告してくださりとても助かっています。

日常的に相談できる人がいるか頼りになる人がいるか、実際に家庭のことをお願いできる人がいるか、といった状況は人それぞれ異なります。
だからこそ家族や親しい人だけでなく、様々な形で「安心」を作っていく必要があると考えています。

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<ポイント2:選択権は子どもに与える>

人が持つ欲求や行動原理に関わる理論の1つに「心理的リアクタンス理論」というものがあります。
簡単に言うと、人には自分の自由を確保したいという行動原理があり、自分で決められない・選択肢が与えられないという状況下では、心の反発が起きやすくなる、という理論です。

例えば、

・本当はこれから部屋を片付けようと思っていたのに、お母さんから「片づけなさい」と言われて、やる気がなくなった
・「勉強しなさい」とうるさく言われてもう嫌だ
・「あの高校に行ってほしい」と言い続けられてもう進路のことを考えたくもなくなってしまった

などといったことが例として挙げられます。

先ほど書いた「やっている」か「やらされている」かという話も同様ですが、わかりやすく騒いだり抵抗したりというお子さんもいれば、「やらされている」けどがんばってやろうとして気づいたらバーンアウトして不登校になってしまったり、家族や先生の知らない所で「もう死にたい」と言っていたりといったお子さんもいらっしゃいます。

とにかく過度なプレッシャーを取り除くことが重要で、むやみにこの「反発のスイッチ」を押さないことと、「選択権は大人でなく子ども自身にある」ということを言葉だけでなく態度としても持つことを、気をつけている必要があります。
私たちとしても、必ず選択肢/権を与えて、自己決定できるような支援を心がけています。

<ポイント3:子どもの気持ちのグラデーションに触れる>


人の行動は、

・やりたいからやる
・やりたくないからやらない

といったレベルものが、一番単純なものですが、それ以外にも

・やりたくない。けど怒られたくないからやる
・やりたくない。けど将来のために必要だと思うからやる

などやりたいとやりたくない、の中間に位置するような行動が実はたくさん存在しています。
「有機的統合理論」も、「内発的動機付け」と「外発的動機付け」の間にグラデーションがあるということを示しています。

勉強を「やりたい」と思えれば良いのですが、日常的にそう思えるお子さんは、そう多くないでしょう。

実は意外と、子どもが「やりたくない」といっていても、私たちから大変な状況に対して共感し、家庭の気持ちを代弁したうえで、
「やらないんだったら先生からお母さんに説明するから、どっちでもいいけど、どうする?」
と聞くと「やる」と答えて、やってみたらできて嬉しそうな顔をしている、ということも実際には多くあります。

・学校では何を求められているのか

・家庭としては、どう思っているのか

・自在塾/スタジオplus+/プラットの先生としては、どう考えているのか

・自分としては、どう感じているのか

私たちが間に入って周囲の状況を整理し、時には伝え方やバランスをコントロールしながら、子ども自身がこれから自分が取り組んでいくことについて、自分なりの答えを出せるようにするということも、私たちが考える学習支援の役割の1つです。

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もう1つ私の立場として伝える必要があると思うのは、結果として「やっていない」としても、「やろうとすら全く思っていない」とは限らないということです。

例えば最近、作文の課題を提出しなければならない子が、期日までに全く書けていなかったということがありました。
私としては、”あんなに丁寧に書き方も内容も確認したのに、書いてないのね…”と内心は思いましたが、「どこまでやろうとしたの?」と聞くと、

「パソコンを立ち上げて、メモを開いて、キーボードに手をかけたけど、何を書けば良いかわからなくなってそのまま閉じた」

ということを教えてくれました。

他にもよく学習へのモチベーションを10段階でいうといくつくらい?という質問をするのですが、中学3年生のお子さんで「2くらいですかね」と答えた子がいました。
隣にいたお母さんは「あんた…」とため息をついていて思わず笑ってしまったのですが、0でも1でもなく2があることや、その2がどういう気持ちなのかということをしっかり見ないと、本人が自分で学習に向かっていくという方向に行きづらいということもあります。

おわりに~事業の紹介

以上、私たちが子どもの学びについて大事にしているポイントをいくつかご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?

こちらの資料にも、子どもとの関わり方についてかなり具体的に書いてあるので、よろしければこちらもご覧ください。
厚生労働省『体罰等によらない子育てのために~ みんなで育児を支える社会に ~』

簡単にはいかないことも実際には多いですが、私たちも、今年度は自立援助ホームの開始や、オンラインでの学習支援・保護者相談の取り組み、お弁当の無料配布、タブレット等の機器の貸し出し、LINE相談の開始、定時制高校生への食料配布など、様々なことを模索しながら活動を行っています。

事業のHP一覧が下にございますので、何かお悩みのことがございましたら、お気軽にお問い合わせいただけたらと思います。

こどもと家庭の総合相談まどぐち『むすびめ』

食事付きで無料で通える『学習教室 プラット』

勉強がニガテな子でも安心して通える『自在塾』

その他の事業:ダイバーシティ工房HP

寄付で応援してくださる方、ボランティアやインターンにご興味がある方はぜひこちらもぜひご覧ください。

この記事の前編はこちら

2019事業報告会2


文責:武笠隼士

武笠写真

学習支援事業部アウトリーチチームマネージャー/社会福祉士
相談員として外部機関に出向後、2017年「地域の学び舎プラット」の立ち上げから関わり、同事業所内で行う『自在塾』『放課後等デイサービスプラット』「無料学習教室プラット』の管理を通しておよそ100名の子ども・家庭の支援を担当。


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