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【後編】地域の学び舎「プラット」  活動報告会レポート~withコロナの時代に地域コミュニティが果たす役割とは?

この記事は、3月13日にオンラインで開催されたNPO法人ダイバーシティ工房が運営するコミュニティスペース「プラット」の活動報告会レポートです。コロナ禍での運営状況をお話した前編に続いて、後編ではコロナの時代における地域コミュニティが果たす役割について3名のゲストにより行われたトークをご紹介します。

ーゲストトークー
地域コミュニティが果たす役割とは?

続いては、それぞれの現場で地域コミュニティにかかわる実践を行う3名を迎えてのゲストトークです。「withコロナの時代において、孤立や貧困を超えて豊かな暮らしづくりのために地域コミュニティが果たす役割とは?」をメインテーマに語っていただきました。

トップバッターは、NPO法人さいたまユースサポートネットの代表理事で、居場所づくりや学習教室運営、就労支援など幅広い事業を展開されている青砥恭さん。青砥さんは、コロナ禍によって学校でもオンライン授業などが増えていることに触れ、「声が聞こえて顔が見えても、やはりオンラインには肌感覚がありません。人間は共同で何かをつくりあげるとか教え合うとか、衝突も含めた関係性のなかで育っていくものです。いま、その原点をどう考えていったらいいのかという課題は非常に大きい」と指摘。そのうえで、あらためて地域コミュニティが果たす役割の大切さを感じていると話しました。

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「日本社会で最大の問題は『縦割り』。よく言われていることですが、福祉と教育は分断されています。いま私たちは地域協働モデルの構築を始めているところですが、本来の権利主体である市民が行政や学校を巻き込みながら、貧困や人口減少といった社会課題に向き合える地域を再生していく必要があると思います」(青砥さん)

上智大学の経済学部教授であり、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)を専門に、豊かな人間関係を社会にどう復活させていくのかを研究している川西諭さんは、「SNSコミュニティなど、地域以外にもコミュニティの概念は広がってきていますが、一緒に喜び、一緒に悲しめて、お互いに仲間だと思える人たちの集まりが『コミュニティ』だと言えるのではないでしょうか」と話します。

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さらに、ご自身で多世代型シェアハウス「みかんハウス」を運営している経験から、「最初のうちは入居者同士、細かいことで不満がたまり大家のもとに文句がやってきますが、子どもの面倒を見てもらうなど『お互いさま』の関係ができてくると、気を付けてほしいことを自然に伝えられて、許し合えるようになっていく。そうすると大家の出番はなくなるんですよ」と実際のエピソードを例にあげながら、コミュニティのあり方のヒントを投げかけました。

身近なつながりからバトンをつなぐ

ここまでのお二人の話を受けて、千葉県が設置する中核地域生活支援センターがじゅまる・センター長の朝比奈ミカさんも、「縦割り」と「コミュニティ」についてご自身の経験をシェアしてくれました。朝比奈さんは地域で17年近く相談支援にかかわり、「いちかわ うらやす 若者サポートプロジェクト」(通称「678」)という、地域の支援機関や学校の先生、ソーシャルワーカーなど、さまざまな関係者が束になって16~18歳の子どもたちを支える活動にも取り組んでいます。

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 「行政職員や学校の先生であっても、『親戚に障害を抱えた人がいます』とか『実は、子どもが不登校になった時期があるんです』など、その人の生活当事者としての顔が何かを機に出てくることがあり、そこから分野を超えた連携が一気に広がる経験をしてきました。困難を抱えた当事者がいて『この人のために何ができるか?』ということが、縦割りを超えて担当部署や学校を動かしていくのだと感じています」と朝比奈さん。そして、そういう機をとらえていくことが、地域の社会資源をコーディネートする役割の人間には必要ではないかと話します。

また、公的相談機関にアクセスできない人たちがいることに触れ、地域やSNS空間なども含めた身近なコミュニティのなかで相談者と信頼関係を築いてきた人たちが間にはいり、専門の相談機関にバトンを渡すようにつないでいく――そんな「つながり」をつくる必要性をコロナ禍のなかで改めて感じていると言います。

このお話に対して、プラットのスタッフ・長谷川さんも、カフェに来ていた複雑な家庭事情を抱えたお母さんを朝比奈さんのかかわる相談機関につないだ事例を紹介しました。

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 「その方はプラットカフェを通じて私との関係性ができていたので、相談支援機関の方ともすんなりと会って話してくれました。そうでなければ、自分から相談に行くことはなかったのではないかと思います。暮らしのなかで関係性を築いてきたことで、外部の相談支援機関にバトンをつなぐことができた。これが地域コミュニティの価値だと感じた瞬間でした」(長谷川さん)

「原点となる出会い」があること

この活動報告会には、実際に地域でコミュニティを作る活動をされている方、これから始めたいという方もオンラインで多数参加されていました。そこで、ゲストの3名に、それぞれのご活動を続けるなかで大事にしているポイントもうかがいました。

青砥さんからの回答は「団体の若いスタッフ、つまり若い人たちがこれからどういう社会をつくっていきたいのかを応援すること」。川西さんは、何か活動を始めたいという学生にしているアドバイスとして「ひとりではなく仲間を3人見つけ、無理なく楽しく続けること」を挙げてくれました。また、朝比奈さんからは、現場のチームを組むときには年代や性別、興味関心や背景などが多様な人たちが集まるように意識しているという具体的な話もありました。

 「相談支援の現場では、偏見の排除や受容的な態度が求められますが、自分ひとりの範囲だけで考えていると偏りや排除に気づきにくいもの。ですから、チーム自体が多様性をもつことが大事だと思っています。また、地域の方から事業立ち上げの相談を受けることもあるのですが、『空腹の子どもがいるだろうから子ども食堂をやりたい』という一般論で始めると『なかなか子どもと出会えない』という話になりやすい。それよりも『この子どものことが気になって』という原点になる出会いを持つ方のほうが、活動が続いていく印象があります」(朝比奈さん)

「原点になる出会いがあること」。それはプラットでカフェを始めた地域の方たちにも共通して言えることだと、長谷川さんもうなずきます。

「底が抜けた」社会を変えていく

この他にもさまざまな話が飛び交ったゲストトークでしたが、最後は「withコロナの時代において、孤立や貧困を超えて豊かな暮らしづくりのために地域コミュニティが果たす役割とは?」というメインテーマへの問いに答えていただき締めくくりました。

 「これから地域社会の果たす役割はすごく大きい」と答えたのは青砥さん。「人口減少が進む社会では、貧困層は貧困層、中間層は中間層というように住む地域も分かれていく気がしています。しかし、一番大事なのは多様性。人間は異質な存在があつまることによって発達します。同質性の社会のなかでは排除しか生まないのは、学校教育が証明していること。異質な人たちが集い、語り合い、いろいろなお祭りがつくられるような、多様な地域社会形成に挑戦したいと思っています」(青砥さん)

川西さんは「よく防災のためには地域コミュニティが大事だといわれますが、防災のために仲良くするというのも変なこと。自分にとって地域の人たちが大切だから、災害のときにも助けないではいられないというのが本来の形だと思います。そして、そういう地域に住めるのは幸せで大切なことなのだと、僕らは子どもたちにも伝えていかなくちゃいけない」と結びます。

そして最後に朝比奈さんは、昨年からコロナの影響で困窮者支援窓口に多くの方々が相談に来ており、「社会の底がぬけた」ような印象を受けていると話します。

 「こうした状況がコロナの前のように戻るのかと言うと、戻らないのではないでしょうか。最近では、『孤立』は貧困や病気と同様に生活リスクのひとつだと言われています。実は社会的な関係を築くことのほうが、100万円の貯金を持っているよりも意味のあることかもしれない。お二人も仰っていたように、多様性や地域のつながりのある社会にしていくことが、この状況の打開につながるのではないかと感じています」(朝比奈さん)


登壇者プロフィール)
青砥恭 氏(一般社団法人全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 代表理事、非営利活動法人 さいたまユースサポートネット 代表理事)
埼玉県で県立高校の教諭として20年間働いた後、関東学院大学、埼玉大学、明治大学などで講師を務める(教育学、教育社会学、教育法学)。「子ども・若者の貧困と格差」を教育と持続的な地域づくりという視点から研究。2011年に特定非営利活動法人さいたまユースサポートネットを設立。その後、さいたま市で学習支援、居場所づくり、就労支援など若者たちの包括的支援のネットワークと地域拠点をつくる活動をしている。

朝比奈ミカ 氏(中核地域生活支援センターがじゅまる センター長)
大学卒業後、東京都社会福祉協議会に就職。高齢者の就労・生活相談業務を経て、福祉全般にわたる調査研究、広報啓発、研修企画業務等に携わる。2004年から千葉県が設置した包括的相談支援事業「中核地域生活支援センター」の一つ、「がじゅまる」の創設に携わり、仲間とともに手探りで対象を限定しない相談活動の実践に取り組む。2015年から市川市生活困窮者自立支援事業「市川市生活サポートセンターそら」主任相談支援員を兼務。

川西諭 氏(上智大学経済学部教授、みかんハウスオーナー)
上智大学経済学部教授。経済学博士。主な研究分野はゲーム理論と行動経済学を応用した経済社会分析。現在は、地域や企業内における人間関係が経済活動に与える影響を多面的に分析し、理想的な人間関係を実現するための介入方法などについて研究している。多世代向けシェアハウス「みかんハウス」オーナー。

(令和2年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業)
【編集・ライティング:中村未絵】

◆本イベントで報告されている内容をまとめた「地域の学び舎プラット活動報告集2020」をお読みいただけます◆

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ダウンロードフォーム:https://forms.gle/36jSpF1p4Jq6aib49

プラット活動報告集表紙


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