Shuhei

徒然なるままに

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最近の記事

【詩】浜辺

「ねえ、私が人を殺したって言ったらどうする?」 「どうして殺したのか聞く」 「聞いてどうするの?」 「納得できたら、それは仕方なかったね、って。納得できなかったら、それはよくないよ、って言う」 そっか、とその子は笑った。 「私ね人を殺したことがあるの」 「どうして殺したの?」 「気に入らなかったの。自分だけ不幸みたいな顔をしてたからさ」 「どうして?」 「どうしてって?」 「どうしてその子は、自分だけ不幸みたいな顔してたの?」 その子は少し黙った。それか

    • 音楽は、悲しいことを悲しいままにしておける

      音楽は、悲しいことを悲しいままにしておける。 物語は何かを正す必要がある。 物語のそれは、 正義が悪を滅ぼすことかもしれないし、 誰かと誰かが結ばれることかもしれないし、 大切な人を失った悲しみを乗り越えることかもしれない。 何かはわからないけど、何かが終わったり、何かが変化しないと、物語は終われない。 一方で音楽は悲しいことを悲しいままにしておける。 悲しくて、悲しくて悲しくて、悲しいです、って言って終われる。 それがいいなって思う。 悲しみなんて、そう簡単に癒さ

      • 【詩】雪の降る寒い夜に

        雪の降る寒い夜に暖かい光であなたをひきよせた つられたあなたはふらりと家にやってきて 暖かい暖炉の前で火に魅入っていた あなたはきれいだと言って その暖炉の前のロッキンチェアに深く座った 近くにあった椅子を引っ張ってきて 私も一緒に隣りに座った そうして永い時間が過ぎた 私は幸せだった 明るい世界にあなたを閉じ込めて 永遠に出ていかないように ある晴れた朝にあなたはいなくなった あなたのための暖炉と あなたの椅子を残して 暖炉に照らされた揺れる家具の影に あなたを見

        • 電光板とその陰に

          電光板とその陰に 宝石のように光る銃口と 爛々とした目が 心を捉えて離さない 短い導火線を束ねた髪と 火打石が連なったような歯で 煌々とした目が 心を捉えて離さない 君を照らすネオンに交じって 君の元で踊りたい 輝くその心をさらに焚きつけて ホワイトアウトした世界で灰にして 夕立過ぎたその夜に 鈍く光るアスファルトが 湿気をまとったぬるい風が ビルも人も沈めていく 厚い雲で隠れた光を 戦闘機で探しに行こう 轟音を響かせて 月を捉えて離さない 君を打ち鳴らす音楽に交じ

        【詩】浜辺

          うるさい時計

          君のための目覚まし時計が鳴っていて 今日の僕はそれをどうしても自分で止めたくなかった いつも僕が目覚まし時計を止めて君を起こしているんだから たまには自分で止めて起きてくれないかなって思ってた 君はよく化粧品を出しっぱなしにするし 脱いだ服はその辺に放ってしまう いつも僕がそれを片付け始めると 君が屈託のない笑顔でありがとうっていうから いつも騙されたみたいな気持ちになって 責められもしないのだ 時計はまだなっているけど 僕はそれを止めずに聞いていた そうすればどこからか

          うるさい時計

          期待するということ

          子供のころのある誕生日の日、 両親が私の誕生日を忘れていたことがあった。 いつもはちゃんと覚えてて、誕生日ケーキを買ってきてくれるのだが、 その日は何となくおばあちゃんが気付いて 「忘れてそうだから、ケーキ買ってきてくれるように電話してみたら?」 って言われた。 自分でも何となくそんな気がして電話したら案の定忘れてた。 電話口で母は、ごめん忘れてた、ケーキ買っていくねって言ってくれた。 自分はなるべく平静を装って「うん、わかった」といったが 内心とてもショックだった。 子

          期待するということ

          愛おしくて寂しい

          たった一度、褒められた記憶が私の中にあって、 その原体験が何度でも私をほめてくれる。 きっとこの先誰がほめてくれずとも、私は歌い続けることができる。 でも本当はもう一回ほめてほしいのだ。 成長した私を見てほしい。 声をかけてほしくて、寂しくて、愛おしいのだ。

          愛おしくて寂しい

          【ショート・ショート】穴の中に薬が落ちた

          黒い穴の中に落ちた薬が取れない。 薬とはいってもサプリメントなので、別に今日飲めずとも問題ないのだが。 でも、飲まないと寝られないんだよなぁ……。 箸で拾えるかな。 だめだ、箸が太すぎる。 穴の直径と錠剤の直径の間に入る太さじゃなきゃダメだ。 つまようじ2本とかどうだ。 だめだ、短すぎる。 太さだけじゃなくて、ある程度長さもいるのか。 ピンセットは? だめだ、狭すぎる。 ピンセットの端よりも横たわる錠剤のほうが広い。 「なに遊んでるんですか?」 看護師さんが来た

          【ショート・ショート】穴の中に薬が落ちた

          寂しかった私と悲しくなった私

          私は孤独だった。 どこにいても、誰といても、私は独立した存在だった。 両親には愛されていたし、友達もたくさんいた。 でもどこか寂しかった。 私は私の世界にいた。 そしてまた私と親しい人たちも、それぞれの世界の中に生きているように感じた。 でもあなただけは、なぜか私のすぐ横に立っていた。 あなたといる間は、私はあなたと一緒に一つの世界を歩いているような気持ちになった。 とても幸せで健やかな世界だった。 あなたと生きたこの世界で、いつか私が骸となり、その骨が埋められた土地の上

          寂しかった私と悲しくなった私

          対人間インターフェース "羊"【ショート・ショート】

          20xx年、健康で文化的な最低限度の生活を保障するために、政府は屋外活動が困難な国民に、遠隔操作できる分身体としての2足歩行の"羊"を配布した。これにより国民はだれでも最低ラインの社会的活動が送れるようになり、様々な理由で孤独を感じていた人々の助けともなった。人間が行う様々な行動が行えるよう、平均的な身長のボディを持つことが多かったが、一目でインターフェースであると理解するために、また、不慣れな操作者でも人身事故を起こさないように、ふわふわな羊のような外見となった。 多くの

          対人間インターフェース "羊"【ショート・ショート】

          Laugh Like Ghoul

          夜の帰り道、腹が減ると人気のないその店に行き、 煙を溶かした液体のような酒を飲んでごまかした。 白昼夢をみるように、低速の思考回路を楽しむ。 このあたりの土地は広い湾から得られる海産物で栄えた街だった。 窪地に建てられた建物の間をたくさんの人々が行きかっていた。 酒を飲んでいる間は、 頭からシャワーを被っているような懐かしい気分になった。 現実を忘れるほどではなくとも、どこか綺麗に洗われた気持ちになる。 かすかに、ドアの外で声がした。 外にいる奴らが私のにおいに気づいた

          Laugh Like Ghoul

          流れてた

          まだ涼し過ぎる春の公園で 君と寝転んで星を見ていた 街灯を反射する指の先が 楽しそうに線を引いた 静かに流れる音楽みたいに 頬を撫でていく空気みたいに 布団に閉じ込めた温度みたいに 君が流れてた 髪揺らす追い風の中で わざとゆっくり後ろを歩いた 子供みたいに笑う君と 月が照らす街眺めてた 夕焼けが光る河川敷で 騒がしい祭りの夜の中で 扇風機の前を取り合いながら 君が流れてた 静かに流れる音楽みたいに 頬を撫でていく空気みたいに 布団に閉じ込めた温度みたいに 君が流れて

          流れてた

          gray

          知らない星からやってきた宇宙人 似合わない眼鏡でいつもにこにこ笑っている コーヒーをもって散歩に出かけた なぜかついてきた陽気な声 きっと私とは似ても似つかない 表情豊かで優しい気配 「宇宙人みたいな人」と いわれて笑ったのは私の方 ホームの向こうに知ってる赤い服 慌てて目を伏せて灰色を見て 嘘つきな僕と似ても似つかない 笑っていても怒っていても 「宇宙人みたいな人だ」と 言って真似したのは私の方

          宇宙人

          知らない土地からやってきた宇宙人。 似合わない眼鏡でいつもにこにこ笑っている。 何がそんなに楽しいのか。 コーヒーをもって散歩に出かけた。 なぜかついてきた宇宙人。 正面からは見られない。 きっと私とは似ても似つかない。 表情豊かで優しい気配。 「宇宙人みたいな人」と いわれて笑ったのは私の方。

          宇宙人

          老後のために働くって何?

          老後のために働くって何? 今の生活そんなに楽しくないの? それとも「老後のため」って思わないと、 耐えられないほど働くのがつらいの? 別に全ての人が仕事を楽しめって言いたいわけじゃない。 「ライフワーク」と「稼ぎ」が別だって全然構わない。 でもただ老後のことを思って働き続けるなんてさ。 そんなの寂しいだろ。  

          老後のために働くって何?

          自分の心の冷たさに愕然とするとき

          社会人2年目の冬のころ、足を引きずる若い女性を見た。 真新しいスーツに、手には黒い鞄で、いかにも就活生という風体だった。 私が見かけたのは最寄駅から自宅へ帰るまでの道すがらだったのだが、 彼女は本当にゆっくりとした速度で歩いていた。 足を引きずっていたのは、おそらく慣れない就活用のヒールで靴擦れを起こしたのだろう。右足だけをかばうようにして歩いていた。 しかし、静かな住宅街の夜道で、周りには誰もおらず、 「声をかけても、怖がられるか苦笑いを返されるかの半々だな」 と私は

          自分の心の冷たさに愕然とするとき